第30話 神クラスの奴隷商人なので万能女中奴隷を王宮夜会で売ります!

「キヤル……! 大丈夫? キヤル……!」


 王宮夜会シンフォニウムが終わった事と、先ほどから何度も湯気を上げていた事が重なったせいか、キヤルが僕の方に倒れ込んできた。

 出口に近かったこともあり、急いでキヤルを連れて外に出る。


「イレド君~、キヤルの体調が心配だな~。先にキヤルを部屋へ。片づけは私達がやっておこう。もし、汗が止まっていたら、水分を取らせてくれ。これはティアラが用意してくれた薬と、この水筒にはビスチェの水が入っている。そうそう、キヤルがのめそうになければ……」


 スコルの言葉に頷き、僕はキヤルを部屋へ連れていき、寝かせる。

 ずっと熱を持っていたキヤルの仮面を外すと、さっきまであんなに流していた汗が、今は、止まってしまっている。


「キヤル! キヤル、水と薬、飲めるかい? キヤル……!」


 けれど、キヤルは満足に身体を動かせないようで震えている。


 こんなになるまで頑張っていたのに気づけないなんて、こんな体調管理の出来ない僕のどこが神クラスの奴隷商人なんだ!


 苦しそうなキヤルの表情に僕は頭の中をグチャグチャにされた気分になる。

 どうしたら、どうしたら、どうしたら、キヤルを救える!?

 優しいキヤルを……優しい……!


 その時、キヤルのあの時の言葉と、さっきのスコルの話が重なり、僕はキヤルの顔を見つめる。



「……あ」



 これは、本当はいけないことだ。


 僕は、奴隷商人失格だ。


 でも、


 後で、どんなに罵られてもいい。


 怒られてもいい。


 キヤルが無事でいてくれるなら!


 僕は、薬と水を口に含み、キヤルの唇に自分の唇を合わせ、


 彼女の無事を祈りながら、流し込んだ。


「……んぅ? んぅううう!? んううううううううう!!!」


 キヤルが目を開き、いや、目玉が飛び出るんじゃないかってくらい開いて、バタバタと動き出す。


「ぷはあ! よかった! キヤル! 気付いたんだね」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、主様!? なんで、どうして?」

「ごめん! 本当にごめん! キヤルが薬が飲めないくらいひどい状態になっていたから、緊急手段として! ごめん、本当にごめん!」

「いいいいいいいえ! いえいえいえいえいえ! やったあというか、なんで最初からみれなかったのかじゃなくて、あの、その、え? ええええ!?」


 キヤルが再び湯気を出して、目を回し始める! えええええ!?


「キヤル! 大丈夫!? ねえ、水! 水、飲める?」

「……自分では、飲めないかもしれません。もし、主様が嫌でなければもう一度」

「わかった! んぐ」

「え? そんなあっさり、や、やった……んぶぅうううううううう!」


 結局、キヤルの謎の発熱と湯気が治まらず、五回も口づけをしてしまった。

 ごめんね……キヤル……。


 キヤルは、落ち着いたというか、今は穏やかな表情を浮かべて天井を眺めている。


「うふ、うふふふふ、うふふふふふふふ」


 僕はキヤルが落ち着いたら改めて謝ろうと待機しているんだけど、ずっと笑ってる。


「イレド様、よろしいでしょうか?」


 ヴィーナがやってくる。何かあったのだろうか。


「片づけはつつがなく終了しました。それで、今、さっきのメイド長に会えないかという人物が来ておりまして」


 ええ!? そうか! やっぱり今日のキヤルの活躍は目に留まっていたんだ!

 でも、ちょっと、キヤルは今……。


「ふ、ふふ……ふふふ……」

「ちょっと時間が必要そうだから僕が先に会うよ」

「そのままの恰好でですか?」

「……着替えるよ」


 余りに夢中だったから忘れてた。

 僕はメイド服を脱いで元の服装に戻る。


「メイド姿も似合ってましたよ?」


 ヴィーナがメイド服を片付けながらそう言って揶揄ってくる。


「いや、僕、男だからね。それより、キヤルが目を覚ましたら来るように伝えてね。折角のチャンス、キヤルが売れるように頑張るよ」

「私達は、イレド様を信じておりますよ」


 そう言って見送られ、僕は気合をいれて商談に向かう。


 そして、会ったその人物は、身体は大きく白髪で、髭を生やしとても穏やかで優しそうな人だった。


「君が彼女の主かね?」

「ええ、はい」


 奴隷商人としてだけど。


「彼女に会わせてもらえないだろうか?」

「あのー、もしかして、彼女をご購入される気が? 彼女は今、女中奴隷でして」

「あ、ああ! もし、良いのなら! ぜひとも購入したい!」


 キタ! チャンス到来だ! キヤルに会わせて気に入ってもらわなきゃ!

 凄く良い人そうだし、良いご縁かも! がんばるぞ!

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