第37話 神クラスの奴隷商人なので、最高の奴隷達と大災害とは無縁の街にやってきます!
「みんな、今までありがとう……さよなら」
「待ってくださいっ……! イレド様っ! やだ! イレド様ぁああああ!」
ヴィーナの悲痛な叫び。
ごめんね、ヴィーナ。
でも、僕は……君達を守ることが出来るのなら……。
********
― 1日前 ―
「
「うん」
ヴィーナが身体を傾け、紫の髪を掻き上げながら、尋ねてくる。近い。
奴隷商人の神スキル【
「
「屋敷の管理は、私の知り合いにお願いしておきましょう」
「え? 大丈夫なの?」
ヴィーナが事も無げに言う。
「ええ、信頼のおける人物です。先日の王宮夜会で知り合った方でして、きっと良くしてくださいます」
そうなんだ。あの状況でもそんなことまで出来ているなんて流石、ヴィーナ。
本当に、凄い……。
僕がもっとちゃんと出来ていれば、彼女も高く買って貰えて、もっとしあわせな暮らしができるだろうに。きっとお金持ちならもっとヴィーナの右足の義足も立派なものに。
僕がヴィーナの右足を見つめていると、ヴィーナは義足を触りながら、
「イレド様が気に病む事ではありません。この足はこのままで良いのです。それより、この足の先の方が気になりませんか?」
そう言ってヴィーナはスカートをたくし上げながら、色っぽく囁いてくる。
そのまま上げ続ければ太ももの付け根が、いや、それどころか……!
「い、いや! 大丈夫! そういうのは大丈夫だから!」
「そう、ですか……」
ヴィーナがしゅんとしょげてしまう。
ああ! 僕のバカ! 言い方が悪すぎるだろ!
「見たくないわけじゃないよ! 気になるよ! でも」
「ふふ……であれば、結構です。まあ、見せたことありますしね」
ヴィーナが妖しく笑って、こちらを見つめてくる。
ジェルの夜の教育を受けたみんなの実戦訓練のせいでね。
意地で一線だけは越えてないけど、みんなの、その、裸はいっぱい見ているし、色んな事をされている……。一線は越えてないけど!
僕の所では性奴隷は扱っていないんだけど、みんなは訓練に積極的だ。
売れない事を気にして、そういう事も考えてくれているのかもしれない。
早く一人でも売って、安心させてあげなきゃ!
ただ、条件だけは絶対に譲らないけど!
けど、あれは特訓だけど、今見るのは特訓でもなんでもない。
出来るだけ、ヴィーナを傷つけないように、それでいて、誠実に僕の本気を伝えないと。
僕はヴィーナの両肩を持って、しっかり目を見て伝える。
「ヴィーナ、僕は君を本当に大切に思ってるんだ。だから、今、そういう事はさせたくない……! 分かってくれる」
「は、はい……」
ヴィーナが僕の熱意を分かってくれたのか、こくこく頷いてくれる。
「そう、ですね……大切にすべきですよね。タイミングとか……ムードとか……そういう雰囲気で見て頂いた方が、私も、その、嬉しいです……そして、そのまま二人は、ああ……!」
ヴィーナがなんか言って、顔を押さえて悶え始めた。
ヴィーナの考えている事が分からない。
でも、きっとヴィーナの事だ。なんかすごい事を考えてくれているんだろう。
「じゃあ、その人にお願いしてもらっていいかな、ヴィーナ?」
「はあはあ……ふう、かしこまりました。では、ネオに言っておきましょう」
ネオ? 第一王子と同じ名前だね。呼捨てで言ってるからネオ様の事じゃないよね。
王城にもう一人、ネオがいるんだね。きっとそうだ、うんうん。
「そうですね、サクリは、本を多く取り扱っている所もありますし、イレド様も喜ばれると思います」
「本当? あ、そういえば、この前ヴィーナが貸してくれた物語も面白かったよ」
本は僕の唯一の娯楽といってもいい。あの家にいた時も本を読み漁るしかなかったし。
「ふふ、お気に召していただけてなによりです」
「幻を操る魔導士との決闘は凄く見ごたえあったよ、あと、それと」
「それと?」
主人公とヒロインの美女が、僕とヴィーナによく似てる気がした、けど。
ヴィーナがこちらを見つめている。やっぱりすごい美人だと思う。
こんな事言ったら笑われるかもしれない。
「い、いや、なんでもすごく面白かった」
「そうですか……それはよかったです。では、サクリでも買いましょう。ああ、お金の心配はしなくて大丈夫ですよ。ネオに借りましょう」
ネオって名前は心臓に悪いなあ。第一王子じゃないんだろうけど。……違うよね?
そして、僕達は遠出の準備を整え、サクリの街を目指して出発した。
やってきたのがすごい数の騎士団の人たちだったけど、良かったのかな。
ただの一人も売れない奴隷商人の屋敷にそんなに人員を割いてくれるなんて優しい人だなあ。王城にいる第一王子とは違うもう一人のネオさんは。
「ご主人様~、もう外だからね。ボクやアクアの傍を離れないでね!」
リオがそう言って、僕の左前に立ってくれる。
「わかった。君に命を預けるよ、リオ」
「うええ!? う、うん! ボク! ご主人様の命を預かるよ! 任せて!」
リオのしっぽブンブンが今日も凄い勢いだ。
「ご、ごしゅじん様。アクアも、アクアもごしゅじん様をお守りしますからね」
「ありがとう、アクア。でも、アクアはまだ、リオよりちょっとだけ弱いんだから無理しちゃダメだよ。怪我したら僕は悲しいよ」
ふんすと気合をいれて僕に迫るアクアの頭を撫でて落ち着かせてあげる。
「う、うう~、くやしいです、けど、心配されて、うれしいです……うう~、と、とにかくがんばります!」
アクアはそう言って右後方についてくれる。両側には、キヤルとヴィーナ。
「主様、疲れたら仰ってください。背負えと命令していただけたら、いくらでも主様を背負いますので」
「う、うん、でも、大丈夫だよ。キヤルの方が身体小さいんだし」
「大丈夫です! 主様に命令されたことなら絶対に成し遂げて見せます。あ、ただ、ちょっと強引な感じで背負えと言って頂けるとゾクゾクして力が出そうです」
キヤルの言っていることがよく分からなかったし、なんて言っていいのか分からなかったので、ヴィーナの方を見る。ヴィーナは問題なさそうに歩いているが、杖と義足では動きづらそうだ。
「ヴィ、ヴィーナは、大丈夫?」
「ええ、問題ありませんよ。もうこの足との付き合いも長いですし」
「そっか。でも、大変になったら言ってね、僕で良ければ背負うから」
「あびや!」
あびや?
え? 今、ヴィーナが言った?
そして、みんながこちらを見てる。そうだよね、今、不思議な声が聞こえたよね?
「イ、イレド様、今なんと?」
「え? だから、疲れたりしたらヴィーナを僕が背負うよって……」
「あびや! ……あ、いえ、そうですか……背負って下さるのですか」
またヴィーナが変な声を出したけど、何事もなかったかのように振舞っているので、触れない方がいいんだろうな。あんまり変な声が出てしまったことを触れられるのは女の子は嬉しくないだろうし。
「ああー、そういやウチ、昨日、金勘定しすぎて目がしんどいかも……」
「ワタシ、昨日いっぱい魔法使ったから、ちょっと身体だるい、かも」
「左足部分の可動部分に若干の不良発見」
みんなが疲れを訴え始めた。やはり、街を出て知らない環境に出ると緊張感が一気に今までの疲れが出てくるのかもしれない。
「おっほん! イレド様、それはとても魅力的な……ではなく、有難いお言葉ですが、私達はイレド様の奴隷。そのような事を、させる、わけには……いきません!」
ヴィーナが苦しそうにそう言ってくる。急にどうしたんだろうか。
「ねえ、みんな、そうでしょう」
ヴィーナがそう言うと、みんなキビキビと歩き始めた。
でも、みんなが疲れているのは事実だろうし……。
「あ、じゃあ、サクリの街についたら、宿に入ってすぐにゆっくりしよう。僕、みんなの為に
「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」
そう言った瞬間、気付いたらサクリについてた。
僕はリオに背負われていた。
ねえ、サクリの街の人がみんなこっちを見ててすっごく恥ずかしかったんだけど……。
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