第38話 神クラスの奴隷商人なので、最高の奴隷達は置いといて大災害の話を聞きます!

「さて、では、イレド様申し訳ありませんが、時間も十分にあることでしょうし、ご褒美を頂けますでしょうか?」


 ヴィーナがそう言って期待の眼差しで見てくる。

 いや、ヴィーナだけじゃないな。その後ろにずらりと奴隷のみんなが並んでいる。

 リオなんてずっとしっぽぶんぶんしてる。


「うん、まあ、ご褒美というか、魔力譲渡だけどね」

「イレド様の魔力を私の中に注いで頂けるなんてご褒美以外のなんでも」


 言い方ぁあああああ!

 卑猥に聞こえるからやめてほしい。


 もう、とっととやろう!


「で、この順番はなんなの? 決まってるかのように動いていたけれど」


 ヴィーナが先頭で、ジェル、キヤルと続いて……最後はアクアだ。

 待てよ、これって僕がつけた価格順じゃ……


「お気になさらず。さあ、イレド様、さあ!」

「わ、分かったよ! 奴隷神実ドレイフルーツ


 僕は神スキル【奴隷神実ドレイフルーツ】で作られた圧縮された魔力の塊を作り出し、ヴィーナのお腹に押し込んでいく。


「んっ……んん……!」


 無心無心無心!

 ヴィーナが色っぽい声を出しながら、挑発的な目でこっちを見てくるけど無心だ!

 なんでこんな意地悪してくるのかなあ?!


 そうして、みんなの色っぽい声に耐えながら僕はなんとかみんなに魔力を注ぎ終える。

 僕の魔力量だけは本当に神クラスなんだろうなと思う。みんなに注いだけれど、まだ全然余裕だ。まあ、今日魔力を使ったのは移動時の身体強化だけだから、みんなもそこまで減ってなかったというのはあるだろうけど。


 今はみんな魔臓といわれる魔力タンクにいっぱい魔力を注がれたせいか魔力酔いを起こしている。

 過剰な魔力回復による魔力酔いは、一般的に良くないといわれているが、魔臓を広げることが出来るので、ウチではトレーニングとして頻繁に行っている。

 なので、この状況は成長している証と言えるので問題はない。


「さて、じゃあ」

「ふ、ふふ……イレド様、まだです……!」


 ヴィーナが僕の足を掴んでくる。


「ヴィ、ヴィーナ?」

「私は、まだ、魔力入りますから……もっと、頂けませんか? 私は、イレド様の為にもっともっと成長したいのです……!」


 ヴィーナ! なんて君は素晴らしい奴隷なんだ!

 と、思っていたら、みんなもよろよろと立ち上がり、こちらを決意に満ちた目で見てくる。


「イレドちゃ~ん、アタシもまだまだイケるよ~……!」

「主様、キヤルも主様の為にもっともっと欲しいです」

「アクアも、ごしゅじん様の為にもっと成長したいです!」


 みんなぁああああ!


「分かった……みんなの覚悟受け取ったよ! 僕も魔力枯れるくらいまでみんなに魔力を注ぐよ!」

「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」




********




「さてと、じゃあ、僕はちょっと情報収集してくるね。情報があればあるほど奴隷神図ドレイブマップがより詳細に視えるようになるし」


 僕は、大量の魔力を注がれ急激に魔臓が大きくなり成長できた事に満足そうに微笑んでいるみんなを寝かせてあげて、出かける準備をする。


「ご、ご主人様の魔力ってどんだけあるんだよう……」

「ワタシやアクアが束になっても敵わないね……」

「ああ、イレド様……お一人では危険ですから、ラブ」

「りょ、了解……これを……」


 ラブから受け取ったのは鉄製の鳥の人形?


「ワタシが作った魔導具です。主を守るには少々心もとない気もしますが、緊急時には、背中を押せば魔力信号がワタシの元に届きますので」

「わかった! ありがとう! じゃあ、行ってくるよ!」


 そう言って僕は宿を出て、サクリの街を歩き始めた。

 サクリの街は、王都に比べればやはり遅れている。だけど、その分、自然も豊かだし、僕にとっては新鮮だった。


 ただ、


「物乞いも少なくない、か……」


 小さな子供たちの物乞いが多い。


 奴隷商人でもあまりにも小さな子供は拾わない。

 小さすぎるとよほどの物好きしか買ってくれないし、育てるのにもお金がかかるからだ。

 それに、ある程度大きく生き延びる事の出来た人間の方が何かしらの知恵や力がある。

 だから、小さな子は物乞いになって、生き延びる。

 奴隷の方が安定して食べ物が貰えるから、奴隷を目指している子だっているくらいだ。


 王都では大分減った。

 ラッティ商会というところが孤児院をいくつも建て、物乞いの面倒を見ているらしい。

 そういえば、この前の女中奴隷達もラッティ商会の子達だったらしいし、ラッティ商会ってすごいんだなあ。


「あんちゃん、アイツらが気になるのかい?」


 串を買った屋台のおじさんが聞いてくる。


「え、ええ、まあ……」

「俺もよ、気の毒だとは思うんだがな。こっちも喰って行かなきゃいけねえ。どうにもできねえのが現状でな」

「此処では多いんですか?」

「ああ、一年前に近くの街が襲われた大災害スタンピードが原因で、親の居ねえ子が流れてきちまってな」


 大災害スタンピード

 魔物は普通ダンジョンに棲んでいる。何故なら、ダンジョンは魔力が発生するから。

 そして、その魔力を魔物は餌にして生きている。

 なので、基本的にダンジョンを離れない。だが、離れる例外がいくつかある。


 一つは群れに追い出され、外で魔力を得なければならなくなった時、または、人間の肉の味を覚えた魔物が再び人間を喰らおうと出てくる場合、そして、大災害スタンピードだ。


 大災害スタンピードは何かしらのイレギュラーによって、魔物が増え続けダンジョンで発生する魔力では賄えなくなった場合に発生する。

 飢えた大量の魔物が外に飛び出すのだ。そして、魔力を求めて、大移動を始める。

 他のダンジョンに散ってくれれば御の字だが、大抵は、人里を襲う。

 人間の魔力に引かれてやってくる。普段なら人間は罠などで身構えていることを魔物も学習しているから近づかないが、飢えた獣にそんな理屈は通じない。


 そして、ダンジョンから出てきた魔物を一掃するか、街や村が滅び、魔力を求め、散っていくかしか大災害スタンピードは終わらない。


 恐らくその近くの街は滅んだのだろう。


「俺もその街にいた親戚が転がり込んできてな生きていてくれてよかった。……俺達も、本当に苦しいんだ。金や生活もそうだが、ああいう子に何も出来ないのがな」


 屋台のおじさんは、血が出そうなくらいぎゅっとこぶしを握り締める。

 それだけでこの人の悔しさが伝わってくる。


「おじさん、ここの串のこのお金であるだけ貰える?」

「え? あ、ああ……いや! 俺はそういうつもりでこんな話をしたわけじゃあ……! 確かに苦しいが、お前さんみたいな若者に同情して串を買わせるなんて……」

「おじさんを応援したいって気持ちも勿論あるけど……なんだか、おなかがとっても減ってるみたいなんだ」


 僕の目線に気付いたのか、おじさんはちょっと鼻をすすって、一目散に串を焼き始めた。


「すまねえ……俺にはちいとばかしサービスするくらいしか出来ねえが」


 焼いている火が弱まるんじゃないかって心配なくらいおじさんは泣いていた。

 僕はうけとった串をもって、あの子達のところへいく。


「こんにちは」

「こ、こんにちは」


 そこにいたのは十人くらいの子供たちで、挨拶を返してくれたのは、赤毛の少し大きい女の子だった。


「あのね、僕、間違えちゃって、いっぱい串を買っちゃったんだ。よかったら、食べて助けてくれないかなあ?」


 そう言うと、子供たちはわあっと歓声をあげ、『食べる!』『助ける!』と口々に言って、串をとろうとした。


「待ちなさい! みんな、ちゃんとお礼を言ってから、もらいなさい」


 赤毛の子の言葉に、助けてあげるのになんでお礼をいわなきゃいけないんだろうと首を傾げながらも子供たちはお礼を言って、一生懸命かぶりつき始めた。よかった、一人一本は食べられそうだ。


 最後の一本を赤毛の子が手を伸ばすかためらっている。


「どうしたの?」

「あの、だって、あなたが食べる分が……」

「お礼さえ言ってくれれば僕はおなかいっぱいになれるんだ」


 そう言うと、赤毛の子は頭を思いっきり下げて串をとって食べ始めた。


「んぐ……お、おいしい……おいしいよぅ……あ、ありがとう、ありがとう……ありがとう」


 赤毛の子はずっとお礼を言いながら食べてるから、僕の心はパンパンまで満たされた。


(この子達の為に、ヴィーナに『お願い』しないとだけど、怒られるかな)


 僕は、この子達のことを考えていた。


 出来れば、都の孤児院に預けたい。

 一人も売れてなくて金に困ってるであろうウチで育てるわけにはいかないだろうし。

 そんな事を考えていると、赤毛の女の子が食べ終わったのか、僕に話しかけてくる。


「あの、本当にありがとうございました、えと、」

「ああ、イレドって言うんだ。君は?」

「コリーです、イレド、さま……イレドさま、ありがとうございました」


 コリーは僕の名前を繰り返すと、また、大きく頭を下げてきた。

 そんな彼女を神スキル【奴隷神眼ドレイアイ】で視る。


 奴隷神眼ドレイアイは、自分の奴隷の状態や買いたい奴隷の価値を測る奴隷用のスキルだ。

 だけど、『奴隷となった場合の価値』も測ることが出来る。

 自分の奴隷達のように詳細は見ることが出来ないけど、将来的にどのくらい伸びしろがあるかは分かるのだ。まあ、奴隷となった場合の価値とは言うけど、要は、どのくらい本人の中に素質や意志の強さがあるかだ。


 コリーは……Aだった。

 Aクラスになれる素質とやる気を持っているってことだ。素質がなんなのかはわからないけれど、それだけの何かがある気はしていた。勘だけど。


 他のコ達も、素質は低くても生きる強い意志を感じさせる子達ばっかりだった。


「……コリー。また、明日、此処に来るよ。その時に、ちょっとお話できると嬉しい。ごはんももってくるからさ」

「え……あ、はい! また、明日」


 僕はコリーの言葉に頷いて、路地裏を出る。

 僕に出来ることなんて多くはない。でも、僕に出来ることだけはやっていきたい。

 彼女達を……。


 だけど、次の日、コリーたちは現れなかった。


 そして、悪夢がサクリの街を襲う。

 大災害スタンピードが、起きた。

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