第39話 神クラスの奴隷商人なので、最高の奴隷達と大災害を知ります!
コリー達に別れを告げ、情報収集のために冒険者ギルド支部に向かうと、ヴィーナが待ち構えていた。
「ヴィーナ来てたんだ」
「ええ、私はイレド様の一番最初の奴隷ですから、一番
ヴィーナが胸を張って答える。
「ふふ」
「どうされましたか? イレド様」
「ううん、そういう風にはしゃいでるヴィーナを見てると楽しいなって」
「なっ……!」
僕がそう言うとヴィーナは顔も体も真っ赤にして動揺する。
遠出出来たせいかいつも物静かで冷静な雰囲気のヴィーナもちょっと浮足立っているように見える。そういう一面を見せてもらえると僕も嬉しい。
「こほん。それは、その、しんこ……りょこ……気分になってしまうというか、いつか二人でこう……出来たらと」
顔を真っ赤にしてチラチラこちらを見ながら何か言っている。
これは今聞かない方が良さそうなのでスルーしておこう。
「で、ヴィーナ。何か情報は手に入った?」
「そうですね、この近くには三つほどダンジョンがあるそうです。北に二つの洞窟型、東に一つ森林型。どれも、難易度的にはそれなりではありますが、我々にとっては難しくない為、
「そっか……」
それ以上のヒントを得るためには、情報を集めてもう一度その情報を元に奴隷神図を見ることだけど、ダンジョンでないとするなら……
「おいおい、聞こえたぜぇえ、随分ないい方じゃねえか。ここいらのダンジョンを難しくねえとは」
もう一度ダンジョンの話を元に奴隷神図を開こうとしたら、大柄で傷だらけの男に声を掛けられる。
「ダンジョンはBランクが一つ、Cが二つ。それなりというにはかなりの難易度なんだけどなあ」
そうなんだ。僕は冒険者ではないから、どのくらいの難しさかは分からない。
男は、僕ではなくその発言をしたヴィーナに顔を寄せ睨みつけている。
「はあ、それで、何か?」
「いやあな、ちょっとモノを分かってない美人のお嬢ちゃんに色々と分からせてやろうと思ってな。まずは、ダンジョンを甘く見ない事。そして、サクリの冒険者は強くてこわ~いってこ、とぉおお!?」
男がヴィーナの胸に手を伸ばそうとした瞬間、ヴィーナに手首を掴まれ、四回転くらいして、地面へと背中から落ちた。
「げべえ! ごっ」
そして、ヴィーナが杖で男の腹を突く。
「そもそも、Bと言われていた北のリファ洞窟は、一か月前から魔物が減少し、Dにまで一気に落ちています。情報不足なのか、嘘を吐いたのか知りませんが、いずれにせよ、冒険者失格なのはあなたの方では?」
「ぐ、う、あ、あ……」
「ヴィーナ、もう止めておこう。……あとは、僕がやるから」
ヴィーナが杖をどけると、僕は怒りのままに、男の顔の横スレスレを殴り小さくだけどもう一つ鋭利なナイフで薄皮一枚だけ切られたような傷を作る。
神スキルのお陰で、拳は強化されているので痛みはないし、男も痛いとは思っていないだろう。
だが、男はがたがたと震えている。
「ウチの奴隷に気安く触るな。大切な大切な奴隷なんでね」
そう言うと、男は気絶してしまった。まあ、これ以上騒がしくなるよりはいいか。
僕も気を付けないとな。外に出ると、彼女達は美人だからこういうことにも合いかねない。
どういうわけか、都ではそんなことはないんだけど、やはり、治安の問題かな。
「イレド様、ありがとうございます……」
瞳を潤ませてこちらを見てくるヴィーナに曖昧な笑顔を向けて、情報収集を始める。
サクリの冒険者ギルドの人たちはあの男以外はまともだったのか大人しく色々教えてくれたけど、有力そうな情報は得られなかった。
宿へと向かう帰り道。
吟遊詩人の歌が聞こえた。
それは英雄王の詩。僕の大好きな物語の詩だった。
英雄王と呼ばれた者が世界の人々を纏め、巨悪を倒し、皆で平和に暮らせる世界を作ったという詩。
後に、それは十二の国に別れた。シンフォニアもその一つだ。
けれど、どの国の人間でも英雄王の事は大好きだった。
誰からも愛された王、それが英雄王だ。
「イレド様は、あの物語が大好きですね」
「うん、僕もいつか英雄王みたいになるんだって思ってたよ」
だけど、僕には、英雄になれそうな剣士や魔法使い、賢者とかそういったギフトは与えられなかった。
奴隷商人。しかも、神クラスの。だけど、一人も売れない奴隷商人。
それが、僕だ。
でも、
「? どうされました?」
「ううん、英雄王にはなれないだろうけど、いや、なれないからヴィーナ達に会えたんだと思うと、これで良かったのかなと思ってる」
そう言うと、ヴィーナは僕の手をぎゅっと握ってきて、
「私にとっては、イレド様が英雄であり、王であり、神ですよ。全てを捧げたいお方です」
そう言ってくれた。
それだけで報われた気がした。
けれど、彼女は奴隷で、僕は奴隷商人だ。
いつかは別れが訪れるだろう。
でも、その時まではいっぱい大切にして、いっぱい愛情を注いであげたい。
そう思った。
帰り道、繋いだ彼女の手は優しくてあったかかった。
「で、これは一体どういう事でしょうか?」
彼女の手は熱く痛かった。
僕の手を思い切り握ってしまう位怒っている。
原因は宿に帰ってからだ。
宿ではくらくらするほどの、その、色っぽい匂いがしていた。
「あのね、そのぉ、ジェルちゃんはね、みんなの為を思ってぇ」
「ど、う、い、う事ですか?」
可愛く言い訳をしているジェルをヴィーナが睨みつける。
「えーと、遠出した事だし、なんか気分が盛り上がるじゃない? でぇ、そういう時って、やっぱり夜も色々盛り上がっちゃうよねぇって話をして、イレドちゃんの為に、そういう気分になる香を焚いてぇ、みんなにそういう服を着させて、ちょっとジェルちゃんの体験談をしてたら……こうなっちゃった、てへ★」
「てへ、じゃないんです」
帰って早々、それに気付いたヴィーナが全員に布をかけたが、その、凄い下着姿だった。
その上で、キヤルとアクアとサジリーは鼻血を流しながら倒れているし、リオはずっと素振りをしてたし、アリエラは魔力でちょっと浮かぶくらい瞑想、スコルは夢中になって何かの本を読みふけっていたし、ティアラとビスチェは酔っ払ったように寝転んでいるし、ラブに至っては高熱で震えていた。
とにかく、とんでもない空間になっていた。
「はあ……こんな惨状で、イレド様を一緒にするわけにはいきませんね。小鬼共の檻に聖女を放り込むようなものです」
どういう例え? 怖すぎるし、みんなの事を
「もう一部屋借りて来ましょう。そこで、私とイレド様は眠ります」
ヴィーナがそういうと、全員がピクリと反応し、そこからは何故か誰が僕と一緒に寝るか戦争が始まってしまった。
仕方がないので、
「神スキル
全員を、沈静化、操作、その上で魔力を抜き取り、眠りにつかせた。
流石に、魔力譲渡をさんざんやった上で、ミリオンクラスの奴隷を全員大人しくさせるのは力を使ったせいか、僕も深い眠りについた。
その夜、僕は夢を見た。
『イレドよ』
夢の中で、僕は髑髏の面を付けた王様みたいな格好の人に会っていた。
『いや、これお面ではないんじゃが……まあよい。いつも娘がお世話になっておるな』
娘?
『まあ、それはよい。あまり言い過ぎると怒られるのでな。それより、イレドよ。我が配下の魂がお前に言いたいことがあるそうじゃ。魂の言葉はお主ではまだ理解出来ぬじゃろうから、儂が伝える』
― コリーを、助けて ―
その言葉で僕はパッと目が覚めた。
そして、
コリーの所へ行かなきゃいけない。
それはもう確信だった。
夢は夢だ。だけど、なんだろう。夢じゃない!
「イレド様、どこに?」
ヴィーナが僕の目の前にいた。
え? 何かしようとしてなかった?
なんで、そんな冷静に喋ってるの? ちょっと僕が顔を動かしたらキスできちゃう距離なんだけど。
いや、そんな事を考えている場合じゃない。
「おはよう、ヴィーナ。ちょっと行かなきゃいけない所がある」
「かしこまりました。その様子。ただ事ではなさそうですね。全員! イレド様が出るわ。付いてきなさい」
ヴィーナがそう号令を掛けると、すっと立ち上がりすぐさま準備を始める。
流石みんなだ。
その瞬間、カチリという音が頭の中で響いた。
それがなんなのか感覚的に分かる。
奴隷神図を開く。予想通り、僕達の進むべき道が示されていた。
だけど、
「嘘、だろ……」
それは僕の予想だにしていなかったものだった。
『奴隷達を守るために、
そう、導かれた。
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