第5話 神クラスの奴隷商人なので鱗の生えた奴隷を治します!
僕の奴隷であり、医者、スコル。
癖っ毛でのびっぱなしで手入れも何もしていない茶色の長い髪。
そこから覗く大きな眼鏡とキラキラと好奇心で輝くこげ茶の瞳。
ウチでは小柄な方だし、基本的に女らしさとは無縁の彼女だけど、身体はとても女らしく、息を切らせている今大きな胸が上下して目がそちらに引き寄せられてしまう。
いかんいかん、無心無心。
ヴィーナが僕の近くで、自分の胸をなんかしてるのが視界の端で見えるし、圧が凄い。
「そうだよ、スコル。そして、原因は身体に埋め込まれた鱗だ。これを取り出してほしい。君なら出来るよね?」
「もう治療法まで分かっているのか! 鱗を取り除くことが出来るか? はっはっは! 愚問だな! 余裕だよ」
彼女のスキルを使えば鱗を取り出すことはできる。
「じゃあ、アクア……君の中にある悪いものをこのスコルが取り出してくれる。ちょっとアブナイ人だが、大丈夫。僕を信じてほしい」
「……うん、ごしゅじん様を信じる」
アクアが強い意志を持った瞳で頷いてくれる。
うん、彼女なら、大丈夫だ。絶対大丈夫。
僕は彼女のその生きようとする姿が嬉しくて、笑みがこぼれ思わず頭を撫でてしまう。
すると、アクアは、頭を撫でる僕の手を取り、自分で動かし始めた。
位置が気に入らなかったのだろうか。ずっと手をぺたぺた触りながら僕の手を動かしている。表情が見えないけど、ちょっと震えているような感じなんだけど、大丈夫かな?
「はっはっは! もう堕としたのか流石ご主人様だ! よしよし! では、同胞の誕生を祝って、早速行こうか……イレド君、場所を教えてくれ」
「分かった。じゃあ、アクア、がんばろうね」
「あの……手を繋いでもらってていい? ごしゅじん様の手、好き……」
どうやら僕の『手』はお眼鏡にかなったようだ。
僕は笑って、手を差し出すと嬉しそうに両手できゅっと握る。
手は小さくて柔らかい。そして、ほんのりあたたかくて……震えていた。
「大丈夫だよ、アクア」
僕はアクアにそう言うと、【
「そこから僕の人差し指一本分くらい奥に、ある……。危なそうなものは動かしておくよ」
そう言って僕は空いている左手で彼女の身体を触りながら、もう一つのスキルを発動させる。
「スキル【
「ふわああああ! な、なにこれ!? 身体の中が、く、ぅ……かき混ぜられてる!?」
「はっはっは! 心配するな! アクア君! これは異常者たる我らが主のスキル【奴隷神操ドレイブ・コントロール】! 自身の奴隷限定で、身体を操ることが出来るんだ」
「なに、その力……聞いたことない」
「はっはっは! 私達のご主人は異常だからね!」
異常異常言うのやめて欲しい。僕だって、好きで奴隷商人になったわけじゃない。
まあ、このスキルは色々と助かってはいるけれど。
「では……やろうか」
真剣な目に変わったスコルは長く伸びっぱなしの髪の毛をボロボロの髪飾りで束ねる。
「それ、使っているんだね」
「お気に入りなのさ。なんせ、君が最初に私にくれたものだ、気合が入るのさ。さて、いくよ、イレド君……スキル【切断】」
スコルは自身の右腕に白い魔力を送り、極薄の魔力の刃を作り出す。
そして、すっとアクアの腹を一瞬で切り裂く。
「う……く……!」
痛みなのか恐怖か声を漏らすアクア。僕の手を握る両手も力が入る。
「大丈夫! 絶対、君を助ける! だから、アクア、信じて!」
「しん、じる……わたしは、信じる! ごしゅじん様、すき、だから、信じる! いきたい……ごしゅじん様と、いっしょに、いきたいよ! ごしゅじん様ぁああ!」
アクアの心からの声が耳を通り脳に響き、僕の身体中に力が漲ってくる。
絶対に! 助ける!
うっすらと赤く滲んだその瞬間、僕はアクアの身体の中に手を伸ばし張り付いて離れようとしない鱗を引きはがして抜き出す。
「うわぁあああああ! 僕の奴隷の、邪魔するなぁああああああああああ!」
鱗が僕の魔力まで吸い出そうとしてきて緑色の強い光が放たれる。
無駄だよ。僕は神クラス奴隷商人。
魔力だけはあるんだ。
それに、
僕が、自分の奴隷を見捨てるわけがないだろうが!
僕とアクアの魔力を帯びた竜の鱗は、ふっとアクアの身体から離れる。
― この子を、頼んだ ―
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
頼んだ?
言われなくても、彼女は僕の奴隷だ。大切にする。
その瞬間、竜の鱗は、優しく輝いた、そんな気がした。
そして、光がおさまると手の中に竜の鱗。
急いで、アクアを【
「イレド様、彼女は……?」
心配そうにヴィーナが一生懸命片足と杖で駆け寄り、僕に聞いてくる。
「大丈夫。もう大丈夫。……よく頑張ったね。偉いよ、アクア」
僕は、彼女の両手をぎゅっと握りながら、残った左手で頭を撫でてあげる。
汗ばんだ彼女の髪に彼女の生きたい意志とがんばった後を感じながら、ありったけの気持ちを込めて撫でてあげると、彼女は嬉しそうにわらってくれた。
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