第28話 神クラスの奴隷商人なので万能女中奴隷と王宮夜会で奉仕します!

 王宮夜会シンフォニウムの会場である城の大広間では、多少ざわつきが起きているらしい。近づくたびに声が聞こえてくる。


 使用人達が飲み物を配って回っているが、食事がまだ到着していないせいだろう。


 その食事を持って、『僕達』は大広間へと急いでいた。


「では、皆さんよろしくお願い致します。主様最後に一言、みんなへ」


 キヤルに振られて僕は慣れない服装で歩くのに集中していた為にしどろもどろになる。


「えーと、キヤルとみんなを、信じてる」

「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」


 そして、大広間に登場した僕達に注目が集まる。

 僕達を見た様子は驚きや訝し気、苛立ち、余りいい感情はなさそうだ。

 誰かが最初に声をあげようとするその前に、ヴィーナの凛とした声が響き渡る。


「お待たせしました。皆様、本日は、我々イレドメイド衆が皆様にご奉仕させていただきます。我々は、仕事のみを評価していただくために、こうして、仮面をつけてお仕事をさせていただいております。ご理解くださいませ」


 ざわつきが広がる。それはそうだ仮面女中ってなんだよって話だ。


 キヤルがあまり肌を見せたくない事への配慮か全員がメイド服と仮面を着用している。

 本当に、キヤルの火傷なんて気にならないと僕は思うけど。

 あと、僕もメイド服着せられたのはなんでだろう?

 しかも、僕を含めたイレド奴隷商の面々十二人だけでなく、更にその後ろに仮面メイドが控えている。


『こんな事もあろうかと待機させておりました』


 とはヴィーナの談。

 どんなことを予想していたんだとは思うけど、そのお陰で人数は確保できた。

 彼女達は僕も知っている、というか、ヴィーナが見つけて来てくれたこの前の奴隷教育した面々だったので、一安心。

 彼女達も優秀だったから。


 姿かたちバラバラでしかも仮面をつけた不気味なメイド達に会場はどんどん騒ぎ始めるが、一人の小さなメイドが静かに美しく進み出て、美しいお辞儀を見せたことで空気が変わる。


 指先足先まで洗練された不快な要素が髪の毛一つもない完璧で美しい動き。

 僕の前では小さくなってしまう彼女が今は、とても大きく見える。

 そして、いつも通り、美しい。


「イレドメイド衆、メイド長、キヤルでございます。まずは、遅れた事へのお詫びを。罰はこの後、いくらでも受けましょう。……我々の仕事が皆様の心を取り戻すことが出来なければ。それでは、本日は皆様の楽しい一時のお手伝いを」


 キヤルがそう言って一礼したその時、パチンと細身の仮面エルフメイド、サジリーが指を鳴らし、風魔法で肉の塊を浮かせる。そして、それに飛び込んだのは大きな仮面獣人メイド、リオだ。


 リオは、細くて長めのナイフを肉に向かって振るう、そして、バラバラに薄く斬られた肉が宙を舞う。

 それを再びサジリーが風魔法で散らせると、他のメイド達の皿へと落ちていく。

 息を吞む男性陣。


 そして、間髪入れずビスチェが水魔法で並べたグラスに水を注いでいく。

 魔力が込められ薄く青く輝くグラスの水を見て女性は小さく歓声をあげる。


 そして、


 ぱちぱちぱち!


 王様と第一王子が拍手を贈って下さる。やさしい王様たちだー! ありがとうございます!


 それを切欠に大きな拍手の嵐が巻き起こる。


「サーカスか何かか!? パフォーマンスがあるとは斬新だ!」

「見て。この水綺麗~。魔力が込められているのね」


 入りは上々とばかりにティアラが頷いている。


『ええか、商売やこういう場に置いて最初が肝心や。相手に興味を持たせる、もしくは、心を折る。やから、リオの剣技で男共に力で勝てないことを見せつける。その上でサジリーとかビスチェの魔法も見せておけば、一旦は警戒でも感心でも意識を引っ張れるやろ』


 ティアラの言う通りだった。

 あれだけ攻撃的な雰囲気の空気が薄れて、様子見か興奮に変わっている。


 そして、そのままリオとサジリー、ラブ、アクアの目にもとまらぬ速さの配膳で細かい配膳のチェックをさせず、あっという間に最初の料理を配り終える。


「では、最初のお料理ですが、王宮料理人と私が共同で作り上げた至高の一品でございます。どうぞ、お召し上がりください」


 ティアラとヴィーナの指示で、リオは配膳を終えると、一番危険人物と目される第二王子の派閥の近くでヴィーナ、そして、僕を連れて待機している。

 リオは牽制、そして、ヴィーナは何か言われた時の対応だ。

 僕? お飾りだ。今は。


 そこが抑えられているせいか、騒ぎ立てる人間もおらず、みんなが料理を口に運ぶ。

 そして、


「な、なんだ? この料理は!?」

「美味しい……こんなの食べた事ないわ」

「これは何処の料理なんだ? 教えてくれ」


 絶賛の声が聞こえる。


「お喜び頂けたようで何よりです。こちらは、アズマの料理をシンフォニア王国風の味付けに寄せたものです」


 アズマは東の端にあるといわれている国だ。

 料理の研究、勉強を重ねているキヤルが一番熱心に勉強しているのがアズマ料理だった。


『とても薄味で健康的な上で上品な味なので是非主様に召し上がっていただきたいです』


 僕が美味しいと言うと、ティアラに詰め寄りアズマの料理書を山ほど仕入れさせていた。

 でも、本当にキヤルのごはんは美味しい。それは間違いない。


 会場は恐れ、驚き、からの、美味への喜び。

 確実に空気は変わり始めている。


「では、皆様手筈通りお願いします」

「「「「「「「「「了解」」」」」」」」


 それぞれが担当の場所へと散っていく。


「こちら失礼いたします。お困り事はございませんか? アクア、落ちたフォークの代わりを」

「持ってきております。キヤルメイド長」


 キヤルと、もう今となっては一番弟子となったアクアは全体を回り、フォローしている。


「こちらのテーブルでご命令いただきました計十三種のお飲み物お持ちしました」

「こぼすの危険ですので、私の風魔法で皆様の元へお届けしましょう」

「くくく、飲みすぎそうな方は、こちらのお薬をどうぞ悪酔いが防げますよ」


 ラブ・サジリー・スコルは男性中心に対応。

 ラブは、キヤルから教えられた礼儀作法を一発で記憶し、多少不愛想ながらも完璧なマナーで対応している。

 サジリーとスコルは元々高い立場にいた人たちなので、スコルも本気を出せば礼儀は問題ないし、高い知性を持つ二人なので話も盛り上がっている。


「奥様、素晴らしい宝石ですね。美しい輝き、もしかして、蒼雪結晶ですか?」

「そのドレス流行りのデザインですね~。布の広がりが上品でお洒落ですね~」


 ティアラとビスチェは女性陣を中心に。

 ティアラは商人としての目利きと話術で、ビスチェは元々美容やお洒落に詳しいし、人魚の国は王族だったので、マナーも出来ている。


「向こうのテーブルの赤髪の男、ちょっとめんどくさそうなので眠らせます。ジェルさんは、あっちの奥様が困っているので、あの男性を引き離す切欠を作って欲しいそうです」

「おっけー。じゃあ、いってきまーす」


 アリエラは魔法による様々な工作。

 ジェルは影移動を使って、まさしく影からこっそりフォローや邪魔をして、もめ事を納めている。


 僕は、ヴィーナからの指示を受け、


『アクア、入り口付近のテーブルの騎士様が困っているから対応、スコル、王様近くのテーブル大柄の男があやしい動き。ビスチェ、そろそろ水の補充を。ジェル、奥の女性が絡まれて困ってる』

『『『『了解』』』』


 みんなに念話で連絡する係。


 僕の神スキル【奴隷神話ドレイパシー】。

 契約した奴隷のみだし大量の魔力を消費するけど、心で会話が出来るスキルだ。

 これでヴィーナが全体を見て感じたポイントを僕に伝え、僕がみんなに指示を出していく。

 これによってイレド奴隷商の奴隷達は最大のパフォーマンスが出来ている。


 連れて来た奴隷達もいい動きをしているし、元々の城の使用人たちも頑張って働いてくれている。


 そして、何より、


「美しい……!」

「ああ、所作全てが美しいな……それに気配りが素晴らしい」


 大絶賛されているのは、やっぱりキヤルだ。

 物音一つ立てない洗練された動き、広い視野と素早い動きで全てをフォローし、一人ひとりへの対応も適切でスマート。正に完璧、いや、完璧以上の働きをしていた。


「妖精のようだ……」


 だれかがぼそりと言った言葉は瞬く間に広がり、誰もがキヤルを見て頷いていた。

 小柄で静かに美しく、魔法のようなおもてなしをしてくれる彼女に美しい妖精という称賛は良く似合う。


 仮面をつけた妖精は、踊るように動き、歌うように話しかけ、魔法のように全てを解決し、王宮夜会に来た人々を魅了していた。


「きっとあの仮面の奥は嘸かし美しい事だろう」


 その通り!

 彼女の奥は美しさで溢れている。仮面では隠せない程に。

 それが、キヤルなんです!

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