第11話 神クラスの奴隷商人なのに奴隷が売れません!

「はっはっはあ! まあ、旦那の命令だ。加減はしてやるから、ちょっとは楽しませ、ろぉおおおおおおおおおお!?」


 ゴラスとかいうゴツイ男奴隷のハンマーの一撃を、アクアがこともなげに短剣で受け止めている。

 リオに比べたら随分軽い攻撃だなあと思ってリオを見るとリオがこっちを見て、手としっぽを振っている。かわいい。

 ゴラスは、乾いた笑いを浮かべ後ずさりしていたが、頭を振り、再び構える。


「な、なるほど……それなりの力はあるみてえだな……! だが、速さはどうかな! そらそらそらそらそらそらそら! そら、そら……そ、そら……」


 ゴラスは、ハンマーを振り回し左右上下からアクアを狙う。

 だけど、その攻撃もアクアに触れることも出来ず空を切り、そのうち、体力切れか、肩で息をしながら、再び下がってしまう。

 アクアは風の魔法を使いながら相手の軌道を変え最小限の動きで躱していた。

 これはアリエラ直伝だ。アリエラは私が教えましたよと自分にも風を纏わせて褒めてほしそうにこっちを見ている。かわいい。


「もう終わり? じゃあ、わたしの番ね。加減は、してやらない。ごしゅじん様を馬鹿にしたのは、絶対に許さない」


 そう言って、アクアは全身に竜の鱗を纏い、超スピードでゴラスを殴り続けた。

 流石に、殺しては駄目だと思っていたらしい。短剣は既にしまってある。

 ふと視界の端にキヤルが映ってこっちを見ている。

 え? あの体術もしかして、キヤルが教えたの? 包帯の隙間から見える瞳がきらきらしてて自慢げだ。かわいい。


「げ、ひゅ……ゆ、ゆるして……」

「許さない」


 ぼっこぼこに腫れあがったゴラスのお願いをあっさり切り捨て、アクアは最後の一撃とボディに回し蹴りを打ち込む。

 そして、ぶっ飛んだ男奴隷は、見事スレイの元に飛んでいき奴隷兵団も纏めて吹っ飛ばした。


「な、なんだぁあ、この滅茶苦茶なつよ……」

「お判りいただけましたでしょうか? では、買いますか? かいませんか?」


 ヴィーナが、倒れた奴隷達を背に座り込んでいるスレイに詰め寄っている。

 スレイは、悔しそうに歯ぎしりをしながら、立ち上がり、


「こ、こんな所で買えるかあ! 帰るぞ!」


 そう言って、奴隷達を蹴り上げながら、去って行ってしまう。

 また、売れなかったか……。


「アクア、ごめんね……僕のせいで……僕が商売下手だから……」

「……は! い、いえ、しょの! えーと、あの……嬉しかったです」


 なんでえ!? 僕がいつも通り色々条件出したせいで売れなかったのに!?

 なんていい子なんだ! アクア!

 なんでそんなに恥ずかしそうにもじもじしながら言ってるのかがよく分かんないけど、すっごくかわいいよ! 絶対に200万ゴールド以上の価値があるよ!


「ご主人様、流石にあれに買われるのはアクアも不幸です。それに大丈夫ですよ」


 ヴィーナがアクアの背後から現れ、そう言ってくる。


「もっともっとアクアは成長できます。そしたら、もっともっと価値が上がって……ねえ、アクア?」

「……あ! そうですね! もっともっと頑張ります!」


 アクアァアアア! なんていい子なんだ! 

 そうだね! もっと価値を高めればきっとわかってくれるさ!

 キミなら絶対に、1000万ゴールドの超高級奴隷になれる!


「アクア! 僕頑張るよ! また、アクアの為の成長プランを練ってくる!」

「わ、わたしの為に……えへ、じゃなかった! あ、はい! でも、ごしゅじんさま無理はなさらずに!」


 アクアがそんな事を言いながら両手で僕の手を握りしめる。

 かわいい。

 僕は背中を押された気分で気合を入れなおす。


「ふ、ふざけんなぁああああああああああ!」


 そういえば、スレイに放っていかれて倒れていたゴラスがいた。いきなり立ち上がり、襲い掛かってくる。もう回復したのか!? 腐っても戦士のギフト持ちか!


「ごしゅじん様!」


 アクアが、慌てて僕を庇おうとしてくれる。

 こんなかわいいウチの奴隷に、アイツが殴られる。


 は?


 てめえ。


「ふっざけんじゃねぇええええええ! 神スキル! 【奴隷神衣ドレイ・スーツ】!」


 僕がスキルを使うと、アクアの身体を包み込むような光のドレスアーマーが現れ、襲い掛かろうとしたゴラスを跳ね返す。


「あが! な、なんだ今のは!?」

「これは、もしかして、ごしゅじん様の? って、あれ? ご主人様?」


 アクアが無事でよかった。

 けど、ウチの奴隷を怖がらせた罪は重い。


「アリエラァアアア!」

「分かってるよ、ご主人! 【中級身体強化魔法】!」


 僕の身体が強化されるのを感じる。流石ウチのアリエラ、略式詠唱で中級魔法なんて!


「リオォオオ!」

「はいは~い、ボクのご主人様怒らせるなんて馬鹿だね~、よいしょっと!」

「え? うわああああああ!」


 リオが片手で同じ位大きいはずのゴラスを空高く放り投げる。


「キヤル! ヴィーナ! 力を!」

「はい! 主様に私の全てを預けます!」

「イレド様、どうか、私達の愛をお受け取り下さい」


 キヤルとヴィーナが僕の手を取り口づけをする。


 【奴隷神吸ドレイン

 ある一定の条件で、力を譲渡するスキルで、今は一時的に二人の力を借りた。


 そして、僕は思い切り地面を蹴って、リオに投げられたゴラスに向かって飛んでいく。


「ひ、ひぃいいいいい! 来るな! 化け物!」

「僕のことはなんて言ってもいい! だけどな、ウチのかわいい奴隷達に嫌な思いをさせるようなヤツは、ぜっっっっっっっっったいに! 許さん!」


 僕はゴラスの身体を掴み、数少ない攻撃系のスキルを使う。

 奴隷特化型の攻撃技なら、コイツに痛い一撃を喰らわせられる!


「【回転式・奴隷神落ァアアアアアアア!スクリュウウウウパイルゥウウウドレイバァアアア】!」


 地面に向かって思い切りゴラスを叩き落とす。

 大地が揺れ、地面が割れ、土煙が巻き起こる。


「はあっはあっ……何人たりともウチの奴隷を悲しませることは許さんっ!」


 そう叫ぶと、駆け寄ってくるみんなが見えた。

 ああ、みんな、本当にかわいいなあ……。


「う、うう……か、身体が……!」

「ドレインを使った上に、中級身体強化を掛けた身体であんな大技を使ったのですから、当然です」


 僕はリオに背負われていた。

 さっきの技には反動があって、おいそれと使えるものではない。


「いや、分かっていたけどさ、アクアを怖がらせたのが許せなくて……」

「アクアが怖かったのは、自分の事じゃないと思うけどねー」


 リオがそう言ってアクアの方を見ると、アクアは顔を赤くしてもじもじしていた。


「アクア、あの、ね、言いたいことは言える時に言った方がいいよ」


 アリエラに背中を押され、アクアはこちらにととととやってきて、戸惑いながらも口を開いた。


「あの、その、ごしゅじん様が無事でよかったです……わたし、ごしゅじん様をうしなったら、これからどうやって生きていけばいいか……」


 アクアァアアアア!

 大丈夫だよ! アクアが良い所に貰って行ってもらえるまで、絶対に死なない!

 死んでたまるか!


「主様、かっこよかったね。ね? アクア」

「は、はい! とっても!」


 ちゃんと気を使ってそういうことも言える。本当になんていい子なんだ!


「では、貴方は然るべき所にいって、ちゃんと罪を償いなさい」

「はい! 大変申し訳ございませんでした!」


 とってもいい返事をしたのはゴラス。

 何故かはわからないけれど、僕の【奴隷神落パイルドレイバー】で頭を打った奴隷は清らかな心になるらしい。何故?


 ゴラスもすっごいキラキラな瞳に変わり、改心し、今から奴隷が一般人に手を挙げた罪を償いに自首しに行くらしい。まあ、ヴィーナが色々手配してくれるので、死刑まではいかないだろう。


「いつか、罪を償い終わったら、俺、もっと清く生きてみせます!」


 そう言ってキラキラゴラスは去って行った。


「リオ、ありがとう。もう部屋まですぐそこだし、自分で立てるよ」


 僕はリオに下ろしてもらって、部屋に戻ろうとし、ふと振り返り、アクアを見る。


「アクア、ごめんね、売れなくて。でも、絶対に君を幸せにしてみせるからね」


 僕がそう言うと、アクアは顔を真っ赤にして何度も頷く。

 うんうん、絶対いいところに買ってもらえるように頑張らないよな!

 僕が部屋に入ると、ヴィーナとアクアの声が聞こえる。


「ねえ、アクア。ウチのご主人様は素晴らしい方でしょう?」

「はい! 神様のようです!」


 またまた。だったら、なんで奴隷が一人も売れないのさ。


「……リオ、アリエラ、ラブ、サジリーと一緒にまた今度最高難度クエストにいってらっしゃい。そして、ランクを上げて来なさい。そしたら、もっともっと価値上がって」

「もっともっと高級奴隷になってしまいますね。そしたら、ずっとご主人様と……」


 二人が何か話しているけど、ドア越しのせいか、ちゃんとは聞こえなかった。

 でも、今は、アクアをもっと素晴らしい奴隷にする為に頑張らないと。


「ごしゅじんさまー! わたし、リオさん達と出稼ぎにいってきますねー!」


 アクアの声が聞こえる。うう、ごめんね。アクア。

 僕、君達が早く高く買ってもらえるようにもっと頑張るからね!

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