第14話 神クラス奴隷商人の毒竜奴隷ですが、ごしゅじん様がだいすきです。

【アクア視点】




わたしは、いつから奴隷だったのだろう。


よく、覚えていない。


気付けば、奴隷だった。


名前は覚えていた。


アクア。


それがわたしの名前。


でも、それ以外は霧がかかったように思い出せない。


何故、魔法が少し使えるのかも。


どこで生まれて、家族はだれだったのかも、思い出せない。




でも、今、わたしは、しあわせだ。

だいすきなごしゅじん様がいるから。


ごしゅじん様と初めて会った時は、がっかりした。


『お前は、一人も売れない奴隷商人の所に捨ててやろう!』


そう、前のあるじであるゴミクズは言った。


奴隷が一人も売れない奴隷商人なんて……どれだけ酷い人なんだろうと。

でも、もしかしたら、前のあるじであるゴミクズが気が変わって、捨てないでいてくれるかもしれない。

その時はそんな事を考えていた。


けれど、いとも簡単にわたしは捨てられた。

それもそうか、わたしの身体は鱗だらけで、一緒にがんばってきた痩せてる奴隷の人たちもいやがったくらいだ。


ああ、わたしは死ぬんだなあ。

そう思った。


その時、あの人と目が合った。

すごく悲しい事があった目。でも、あの目は……。

そして、


「……分かった。じゃあ、この子はウチで引き取る。ありがとう」


そう、言ってくれた。

やさしい声だった。前のあの男に言った言葉だったけど。

わたしに言ってくれたような声。やさしいやさしい声だった。


でも、やさしければやさしいほどこわかった。

捨てられるのがこわかった。


だから、近寄りたくなかった。

あったかいと離れたくなくなっちゃうから。

離されたら泣きたくなっちゃうから。

だから、


「安心して、絶対に君を元気に、そして、売れるような奴隷にしてみせる……」

「む、むり、だよ……」


そう言ってた。


「アクア、は……病気だから……捨てられた……もう、誰も買ってくれない……」


もういい。もうこれ以上かなしいことになるのなら、もう死んでしまいたい。

やさしいこの人に拾われた奴隷だと思って死にたい。

そう願った。


でも、それも叶わなかった。


その、あの、いっぱいいっぱいかわいいって言われた。嬉しかった。熱かった。

すっごく見てくるからもぞもぞした。でも、うれしかった。あつかった。

あったかい魔力をくれた。うれしかった。あったかかった。


ごしゅじん様の【奴隷神実ドレイ・フルーツ】というスキルらしい。


「すごい……身体がポカポカして、楽……それに……」

「それに?」

「……なんでもない、です。ありがとうございます」


それをうけとったら、どきどきした。

ごしゅじん様を見ると、きゅぅううっとした。

でも、なんだかそれを言うのが恥ずかしくて言えなかった。


ごしゅじん様はいっぱい言葉をかけてくれた。

手を握ってくれた。

そして、わたしの鱗を全部取ってくれた。


― ごめんね、アクア。しあわせに生きてね ―


あの時、鱗がごしゅじん様にとってもらった時、そう聞こえた。


懐かしい声。あの声は、誰の声だったんだろう。


思い出せそうで思い出せなくてかなしくなった。

でも、かなしくなかった。

ごしゅじん様がいたから、やさしく頭を撫でてくれたから。

いっぱいぎゅってしてくれたから。


そして、わたしはごしゅじん様の奴隷になった。


「いいですか、アクア。良くお聞きなさい」


美人のヴィーナさんは、わたしが目覚めるとゆっくりと話しかけてきた。


「ご主人様、イレド様は、神です」


わたしもそう思ってた。

ごしゅじん様は神様だ。わたしのとっては、かなしい世界から救ってくれた神様だ。


「私達の神は、私達で守らなければなりません。……貴方は売られたいですか?」

「ぜったいにいやですっ!」


わたしは叫んでいた。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

ごしゅじん様から離れたくない! ぜったいに! ぜったいに!

そう思って必死にいやだって気持ちでヴィーナさんを睨んだらヴィーナさんに笑われた。


「ふ……いいでしょう。合格です。いいですか、アクア。貴方がごしゅじん様から離れなくていい方法があります。もう少し落ち着いたらその方法を話してあげますから、まずは元気になること、いいですね?」


そういってヴィーナさんは優しく笑いながらわたしを撫でてくれた。


そして、一週間くらいして、教えてくれたのは、イレド奴隷衆というもの。


イレド様の為に影ながら守って、働いて、尽くして、イレド様にがんばる奴隷達のこと。

すごくすっごくいい! ごしゅじん様の為に働くなんて最高だ!


「ただし、イレド奴隷衆に役立たずはいりません。アクア、貴方はこれから行われる奴隷教育を乗り越えて成長してみせなさい。イレド様にとって、必要であると私が判断したならば、絶対に貴方を売れないように私達がしてみせますから」


ヴィーナさんはそう言ってくれた。

それからは大変だった。


イレド奴隷衆の皆さんは、全員凄かった。

なんでも治せるお医者様のスコルさん。

獅子の獣人で【武神】のリオさん。

魔族で魔導士のアリエラさん。

万能メイドのキヤルさん。

すごい商人のティアラさん。

人魚で水魔法の天才ビスチェさん。

百発百中の狩人でエルフのサジリーさん。

鉄の身体で物凄い道具を作るラブさん。

すごくえっちでいっぱいアンデッドを持っているジェルさん。

そして、なんでも出来て美人のヴィーナさん。


この人たちに認めてもらう為にはいっぱいっぱい努力しなきゃ。

そう思っていっぱい努力したのだけど、一番すごいのはやっぱりごしゅじん様だった。


わたしはごしゅじん様が示した道をがんばって乗り越えたらどんどんどんどん強くなって、どんどんどんどん色んなことが出来るようになった。


ごしゅじん様はすごい。


だから、わたしもすごくならなきゃ。ごしゅじん様の傍にいるために。

そう思って頑張り続けた。


そして、わたしは、


「よく頑張りましたね、アクア。今日から貴方はイレド奴隷商の商品となります。が、絶対に売らせません。私達に任せなさい。そして、ようこそ、イレド奴隷衆へ」


ヴィーナさんがそう言ってくれた瞬間、涙が零れて来た。

みんなが祝福してくれた。

しあわせでいっぱいだった。みんなと一緒に居られる。ごしゅじん様の為に生き続ける事が出来るって。


イレド奴隷衆はすごい所だった。

ごしゅじん様に、イレド奴隷衆の人間を売らせないために、街どころか、お城の人まで言う事を聞かせていた。


「アクア、あとは自分を磨き続けなさい。磨いて磨いてイレド様にいっぱい褒めてもらいなさい。そして、もっと自分を磨きたくなりなさい。そして、また褒められて……」


想像しただけでしあわせすぎて爆発しそうだった。

イレド様の為に。

私は生きる。


イレド様の、瞳。

悲しそうな瞳。

絶望を知っている瞳。

でも、ごしゅじん様は希望も知っている。


わたしも知った。教えてもらった。

だから、わたしはごしゅじん様と一緒になる。

一緒な瞳になって、一緒なものをみて、一緒な時間を過ごす。


だから、


「ごしゅじんさま、だめ、ですか……?」


ごしゅじん様と愛し合いたい。

愛されたい、愛したい。

その為には、なんだってする。


毒竜奴隷ヨルムンガンドレイ、アクアは、どんなに汚れてもごしゅじん様と生きる為に、希望を捨てず前を見て生き続けてみせる。






『神クラスの奴隷商人のハズが一人も売れません!』

【一人も売れない奴隷商人編】 完

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