第18話 神クラスの奴隷商人なので最強獣人奴隷に武闘大会で本気出させます!
左腕一本で武闘大会に臨んだリオが闘技場に立つと大歓声が起きる。
『さあ! 現れたのは、イレド奴隷商の戦闘奴隷リオ! リオ選手は「わああああああああ!」でして、前か「わあああああああ!」さて、今回は「わああああああああ!」まもなく試合が始まります!』
余りにも大歓声過ぎて、リオの紹介が聞こえなかった。
っていうか、後ろから抱きついているヴィーナの腕が耳に当てられてて、それだけでも結構聞こえないんだけど。振りむこうにも振り向くと、その、やわらかいものが当たるから振り向けない。
前からジェルが抱きついてるのも動きづらさを高めてる。
「さあ、イレド様。試合が始まりますよ。応援を」
ヴィーナの柔らかい二の腕で挟まれ顔を回されて闘技場を見ると、右腕に痛々しく包帯が巻かれたリオと、それと対峙するとさか頭のムキムキの男。
「ヒャハアアアアア!」
強そうだ……!
腕も物凄く太いから腕力はあるだろうし、傷だらけということは幾度となく死線を潜り抜けて来たんだろうし、あんな髪型するなんて勇気がある!
でも、きっとリオなら、素早く動いて勝機を見出せるはず。お願い、リオ正面からは打ち合っちゃ……
『はじめ!』
「ヒャッハアアアア! ……ひ? ヒャッハアアァァァァァ………!」
すっごく飛んでいった。
ヒャッハアさんはとても飛んでいった。
『しょ、勝者! イレド奴隷商、リオ!』
こっちを見てしっぽぶんぶんしているリオに僕が拍手を贈ると、リオはしっぽぶんぶんし過ぎて、土煙を起こして闘技場が見えなくなって一時中断となってしまった。すごいや、リオ……!
その後も、リオは危なげなく勝ち進んでいった。
「流石リオだよね! かっこいいなあ! ねえ、みんな!」
僕がそう言ってみんなに話しかけると、みんなの機嫌が何故か悪かった。
「主殿! サジリーは、弓が得意です! リオよりも得意なのです!」
「え、あ、うん」
サジリーはエルフの中でもトップクラスの弓の使い手だもんね。
「主、ワタシはリオより硬いです」
「そうだね」
身体が鉄で出来てるからね。硬いよね。
「アタシ、夜のテクニックすごいヨ~」
「ジェル、黙って」
こんな場で言う事じゃない。
「イレド様……私は貴方にとって何番目に奴隷にした女ですか?」
「え? い、一番だけど」
「ふふん……その通りです」
ヴィーナが得意げに鼻息荒くしてるけど、後ろから抱きついてるから首筋に鼻息が当たってくすぐったくて困る。
えーと、何この時間?
あと、さっきより君達近づいてない?
すっごくいい匂いがして本当に本当に困ってるんだけど!?
『さあ、優勝候補の前大会ゆうしょ「わああああああああああ!」のリオ選手が順当に勝ち上がる一方で、こちらも圧倒的な力で相手を蹂躙し続けているのは、帝国からの刺客! オットコ道場師範代、ドルグ選手』
司会の声で闘技場に上がってきたのは、トーナメントではリオと反対ブロックで、圧倒的実力で勝ち上がってきていたドルグという男だった。帝国は、実力主義で強い者が評価されるらしいけど、なるほど彼もとても強そうだ。
「はっはっはあ! 弱い弱すぎるぞ! 雑魚雑魚雑魚ばっかだ!」
ドルグは、観客席に向かってそう叫んで挑発するが、それだけの実力があった。
今まで当たってきた相手は一撃でほぼ戦闘不能になった。
だけど、それで終わりをドルグは許さなかった。
「さあぁあ、来いよ。王国のくそざこ君」
今、相対する騎士の男は、王国でも将来を期待されている騎士らしい。
怒りに震えながら剣技を放つ。鋭い一撃だ。
だけど、ドルグはそれを指に二本で挟んで止め、笑っている。
「はあ~? 準決勝までこんなざこしか残ってねえのぉお~? くっそざこだなあ、王国」
そう嗤いながら大声で罵ると、ドルグは剣を持っていた方の腕に空いてる方の手で思い切り手刀を繰り出し、ぼきりと骨を折ってしまう。
「あ、あがああああああ!」
そして、間髪入れずに倒し馬乗りになって、部位破壊を一つずつ打ち込んでいき、審判が止めるまで徹底的に痛めつける凄惨な戦い方だった。
一撃でふっとばすリオとは真逆の戦い方。
『け、決勝進出はドルグ選手です!』
医療係に連れていかれた騎士の姿を見て、不安になった僕は観客席を離れ、控室のリオの元に向かう。
その途中だった。
「はっはっは! よくやったのであーる! あと一勝で優勝! 帝国にも大手を振って帰れるのであーる!」
「ふん! 師匠! ここには雑魚ばっかりしかいねえよ。薬使わなくても勝てるかもしれねーぞお?」
別の控室から漏れてくる声が聞こえてきた。
どうやら、先ほどのドルグが、師匠らしき人と話しているようだ。
「声がでかいのであーる! それより、薬は絶対につかうのであーる。あの薬の実験もかねているのであーる」
「分かってますよ。いやあ、それにしても凄い薬ですねえ。一時的に能力を倍以上に出来るだなんて。いやあ、気持ち良かったですよ。骨の砕ける音、絶望に染まるざこの表情、くっくっく」
ドルグは、不正をしていた。
この大会は飽くまで武闘大会だ。薬の使用は認められていない。
精密な検査はしなくても平等を期すためにチェックはされているはず。
なのに、ドルグが出場できているという事は、もしかしたら……大会関係者を買収しているのかもしれない!
焦った僕は、リオの控室へと駆けこみ、事情を話す。
「そっか……」
「だからね、リオ! この試合は棄権しよう! 大会側と繋がってるなら事情を説明しても無駄かもしれないし」
「ご主人様……ボク、戦うよ」
リオは怒りに燃えていた。
リオは優しい女の子だ。
だけど、だからこそ、悪者が、卑怯者が許せないのだ。
「徹底的にぶちのめしたい。だから、ご主人様」
「わかったよ。リオ……」
僕は、リオの顔を見て、僕自身も覚悟を決める。
そして、リオの姿に手をかざし、魔力を込める。
「神スキル【
このスキルは、本来奴隷を服従させるためのスキル。だけど、リオにとっては彼女の強すぎる力を抑えるための枷にしていたのだ。
久しぶりに全てを解放したリオはキラキラと銀色の魔力を身体全身に纏わせていて……。
「ご主人様、ボク、怖い?」
「ううん、すっごく綺麗だよ」
僕がそう言うとリオは笑って、闘技場へと向かって行った。
『それでは、決勝戦です! イレド奴隷商、リオ、対、カルナ帝国オットコ道場、ドルグ!』
観客席に戻った僕は両手を合わせ、祈り続けていると、ラブが問いかけてくる。
「主、そんなに心配ですか?」
「うん……」
闘技場では、ニタニタと笑いながらドルグがリオを見つめている。
自分の心臓がバクバクいってるのが分かる。怖い、怖いよ……。
リオ、どうか……。
「身体はでかいが、いい女じゃねえか。まあ、戦闘中に寝技でいろんなとこさわっちまうかもしれねえなあ~、偶然よぉ」
「……下衆が」
「はっはっは、俺が下衆だとしたら、その下衆になぶりものにされるんだよ、子猫ちゃん」
リオはじっとドルグを睨みつけているけど、緊張で震えているのが見てわかる。
『それでは、はじめぇえ!』
僕は祈る! どうか!
「どうか、リオが相手をぐっちゃぐちゃにしすぎませんように!」
「蠅が止まるよ」
ベアハグを仕掛けようと両手を上げて迫るドルグの胸に指一本を当て止めるリオ。
「お願いだから、死なないでね」
リオはそう言うと、ドルグの下に潜り指をぎゅっと握りこみ、小指だけをはじき出す。
すると、小指から放たれた空気の弾がドルグの股間に打ち込まれ、ドルグは宙へと舞っていく。
「はぎゃあああああああ!」
「二発目」
薬指でもう一撃。
再び股間に当てられ宙を舞うドルグ。
「おんぎゃああああ!」
「三発目」
中指で腹に一撃。
さっきよりもより高く打ち上げられるドルグらしきもの。
「げぼおおおおおお!」
「四発目」
人差し指で顔面に一撃。
くるくると回転しながら飛んでいくドルグだったもの。
「うがああ! ……はあっ……はあっ……! い、生きてる、いきてるよぉおおおお」
そして、地面に打ち付けられて大の字になって、生きてる喜びを実感するドルグ。
だが、ウチの奴隷はまだやる気だ。
「五発目」
銀の魔力を噴き出しながら拳を寝転がっているドルグに打ち込もうとするリオ。
「あぎゃああああああ! ごべんなさいごべんなさい! ゆるじてぇえええ!」
「うらあああああああああ!」
雷が落ちたような音が響き渡り、ドルグから少し離れた場所に打ち下ろされた拳は地面と衝突。
その衝撃波で、闘技場は割れ、ドルグは観客席を挟む壁に思い切り叩きつけられて、さっきまで膨らんでいた筋肉が嘘のようにしおしおになっていた。
身体中の水分が外に出てしまったような……。薬の効果が切れたんだろうか?
「はあっはああ……」
リオは、拳をグッと握り、僕の方を見る。
彼女は、自分の力を使いこなせるようになり始めていた。
『うぐっ……うっ……ボクは、全部壊しちゃう、殺しちゃう、なくしちゃう……誰も愛せないし、誰からも愛してもらえないんだ……!』
そう言って泣いていた彼女はもういないんだ。
「やったね、リオ!」
「やったよ! ご主人様ぁあああああ!」
両手を天に掲げ喜びを爆発させるリオは最高にかっこよくて、最高にステキで、最高に綺麗だった。
って、あれ? 両手? 骨折は?
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