第二話 受け継がれるもの①~窃盗か器物損壊か~
『次のニュースです。本日夕方に行われたグランテリオス王国の会見にて、『処刑』という単語が頻出した事に対し、世界人権弁護連盟は『あまりに非人道的ではないか』と抗議したものの、グランテリオス王国のアリエス=クライオニール特務全権大使補佐官は『この世界に内政干渉という概念はないのか』と痛烈な批判を行いました。続いて明日の東京の天気ですが』
食卓を俺と両親、それからヒナの四人で囲んでいると、テレビからは現実とファンタジーが生々しい交わり方をしたニュースが聞こえてくる。まさかスーツを着たニュースキャスターの口から『グランテリオス王国』だなんて単語が飛び出してくるとは夢にも思っていなかったが。
「いやーユウッ、こんな事ってあるもんなんだなーっ!」
「もうお父さん、ちゃんと食べるか喋るかどっちかにしてくれない? ……気持ちはわかるけど」
オタクの両親はその新しい現実を嬉々として受け入れていた。その笑顔がやたらと眩しい。
「ははっ、本当にあるんだね……」
そして『処刑する』と宣言された俺は、もはや今食べているのがトンカツなのかチキンカツなのかわからないぐらいに焦っていた。は? 処刑、なんで、世界救ったの俺なのに?
「いやしかし、あの流暢な日本語は何かの魔法なのかな? いわゆる翻訳の魔法なーんてものがあれば……あれ、僕、廃業?」
嫌な現実が顔を出したせいで一気に表情を曇らせる父さんだったが、心の中でそれはないよと付け加えておく。なにせ翻訳魔法を覚えるための秘伝書は、一言語につき五億円くらいは必要なのだから。
「ねぇ、ヒナちゃんはどう思うかしら?」
「え、私ですか?」
今日も両親の帰りが遅いヒナが、母さんに漠然とした質問を投げかけられる。ヒナの父親は単身赴任中の刑事で、母親は夜勤もある看護師なので……この四人で食卓を囲むのは文字通りの日常茶飯事だ。まぁ幼馴染だしこんなもんだろう。
「そうそう、こういう異世界モノってヒナちゃん好きでしょ?」
思わず母さんの目線から逃れるため、見たくもないテレビに視線を移す。仕方ないじゃないか、こんな魔法ねーよとか厄介オタクみたいな事言いそうになるんだから。
「そうですね……勇者がこっちの世界に来たって言ってましたけど」
少しだけ考え込むヒナが、今度は俺に視線を向ける。さーて、明日の九州のお天気はっと。わぁ、晴れだぁ。
「もしかしたら、『転移』じゃなくて『転生』なんじゃないんですか?」
思わず咳き込む。そ、その可能性もあるのかなー。
「「なるほどーっ」」
「向こうとの時間の流れが一緒なら……転生した勇者は私『達』と同じ高校一年生ですね!」
達って何のことだろうなぁ。
「なるほどなぁ、確かに転生ならそうなるのか……ユウはどう思」
「転移」
転生とかしてないってそんな訳ないじゃん父さんラノベの読み過ぎだよ。
「転移だって絶対。今頃三十半ばで田舎で暮らしてるって」
ほら九州とか今日晴れてるし。北海道も晴れてるよ。
「でもわざわざ東京に来たって事は、目星がついてるんじゃないかしら」
「……日本でも研究してたって言ってたから、それは辻褄が合うんじゃない?」
外国人だって成田か羽田に降りてから日本各地に行くから、それと同じだって。
「夢がないねぇ、ユウは。父さんそんな子に育てた覚えはありませんよ」
「そうよユウくん、お母さん勇者が田舎でスローライフしてるのも悪くないと思うけど、やっぱり東京で高校生してる方がよっぽど夢があると思うわ、世代的に」
別に勇者がスローライフしてても良いでしょ俺だって今すぐ東京から逃げ出したいよ。
「なぁユウ……もし、もしもだぞ?」
父さんが軽く咳払いをしてから、真っ直ぐと俺を見つめる。
「勇者ってのが……お前の」
まずい、バレたか?
いや、でもそれは……あり得ない話なんかじゃない。この人達は俺の事を生まれてからずっと見守って来てくれたのだから。
もしかすると心のどこかで、うちの子供はどこか違うなと思い続けて来たのかも知れない。だから異世界からの来訪者は、ただの答え合わせでしかなくて。
「お前の学校にいたらウチに遊びに来てもらえないかな!?」
はい不正解。
「遠慮しておきます……ごちそうさまでした」
食べ終わった食器を重ね、食卓テーブルから立ち上がる。
「「夢がなーい」」
背中越しに聞こえる両親が奏でるハーモニーをシカトしつつ、台所に食器を下げる。
「それにしても処刑だなんて、勇者は一体何をしたんだろうね」
さて部屋に引き篭もるかと決意したところで、ヒナがそんな事を言い出した。
「ね、ユウ」
――言い出したっていうか俺に聞いてるよな、これ。
だけどまぁ、古今東西勇者の罪状なんてものは。
「……家宝の壺でも割ったんじゃないの?」
窃盗か器物損壊かその両方辺りだろうから。
「「……んっなるほどーっ」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます