閑話③
で、土曜日の午後一時過ぎ。秋葉原の駅前に集合した俺達だったが。
「ここが秋葉原だってさ、マ●カ」
『ふふっ、ミカエルくんとお出かけ出来て嬉しいな』
「今日のお前浮いてないから凄いわ」
相変わらずカノジョに話しかけるミカエルだったが、今日この場所では誰よりも馴染んでいるように思えた。いや周囲からえっ今時あのゲームやってる人いたの!? って声が聞こえて来たけども。
「俺初めて来たわ。皆川は?」
「新作プラモの展示とかあるからたまに来てるよ」
先に来ていた袴田に聞かれたので、端的に答えた。もっと言うと幼い頃に母親のコスプレ関係のイベントに連れて行かれた過去があるのだが……それは言わないでおこう。絶対に。
「しかしあのエロ眼鏡遅いな」
さて、約束の時間に来ない人間が約一名。どうせ午前中に行ったってやってない店も多いからと言う理由で昼過ぎを指定した張本人はまだ待ち合わせ場所に顔を出していなかった。
とか思ってたら来たわ。
「いやぁ、悪いねみんな待たせてしまって」
「遅いぞエロ眼」
高校生らしい私服に身を包んだエロ眼鏡だったが、この男は下手をするとミカエル以上に目立っていた。
「待て、その七泊八日用のスーツケースは何だ?」
なにせこいつの後ろには、馬鹿でかいスーツケースがあるのだから。
「何って、エコバッグだけど?」
「いや何冊買うんだよって」
その中にエロ本全部詰めて帰るつもりか? エロバッグにすんのか?
「はいこれリスト」
当然の権利とでも言うように俺の質問に答えず、手書きのリストを押し付けて来たエロ眼鏡。
「何このゴミみたいなレシート」
「レシートとは言い得て妙だね、これは今日皆川に買ってもらうエログッズのリストだよ」
だよと言いながらウィンクしてくるエロ眼鏡かち割るぞ頭ごと。
「おいエロ本三冊だけじゃないのかよ」
「待ってくれ皆川これには訳があるんだ」
「訳が言い訳なら聞きたくないんだけど」
「この間の話がクラスメイト達にバレてしまってね」
「ああ馬鹿共の馬鹿でかい声のせいでな」
あんなの宣伝と変わんねーだろ。
「それにプラモを奢ると言ったって、僕達の軍資金にも限界はある……そこで各々から手数料を五百円程貰って、それを皆川のプラモ代に充てることにしたんだ。WinWinってこういう事だと思わないかい?」
「俺の恥とか計算したか?」
俺に押し付けて手にする勝利は美味いか?
「まぁ待て皆川、このエロ眼鏡の言うことは正しいぞ」
「おう袴田手ぶらで帰りたくなかったら今日は喧嘩売る相手間違えんなよ」
お前今日誰が主導権握ってるか考えてから発言しろよな。
「よく考えろ、今のお前はクラスにとって俺達の綾崎を寝取った最悪最低金髪ヤリ●ン野郎だ」
「なぁ今の発言録音して教育委員会に駆け込んでもいいか?」
金髪以外誹謗中傷しか言ってないからな?
「だがここで! お前がたったの五百円で俺達のためにエログッズを買ってくれたら」
袴田は優しい微笑みを浮かべて俺の手に肩を置いた。キモッ。
「お前は俺たちの……勇者だよ」
「その称号で侮蔑されたの色んな意味で初めてだわ」
前世も合わせて今日が一番安い勇者だわ。というかこのリストの内容さ。
「しかもこのリストの殆どオ●ホじゃねぇか業者にでもさせる気かよ」
エロ本買いにきたこいつらは別として、リストに乗ってあるのはほとんどがオ●ホだった。クラスメイト達のシモの世話をしている気分になって、一気に死にたくなって来た。
「オ●ホってなんですか?」
「そうか、ミカエル君は知らなかったね」
「よし一個追加、と」
「やめろ!」
純真無垢なミカエルを尻目に、リストに書き加えるエロ眼鏡とバカマ田。やめろ前世の友人の息子の息子の世話をさせるグッズ俺に買わせんな。
「でも皆川、凄いぞこれで手数料六千円超えだ」
「うっ」
六千円はかなりデカいんだよな。
「俺はプラモの相場って知らないけどさぁ……六千円もあれば結構いい奴買えるんじゃあないか?」
「はい……買えますね」
マスターグ●ードが買えますね。
「さぁ行きましょうかユウさん……僕とマ●カの愛の営みを買いに!」
意気揚々と右手を掲げるミカエルに続き、バカとスケベの拳が続く。俺も天に向かって中指を立ててみたものの、どうやら俺の願いは届かないようだ。
「あ、その前にコインロッカーに寄らなくちゃ」
やっぱり邪魔じゃねーかな、それ。
◆
「ここがスイカブックス三階のエロ同人コーナーだ」
「おう見事に一般向けコーナースルーしたな」
エロ眼鏡の案内に従って到着したのはエロ同人も扱ってる有名な本屋だった。一階には店舗特典がついた漫画やライトノベルが並んでいたのだが、こいつらは全部スルーして三階に直行した。
「凄ぇプレッシャーだぜ……ここにいる奴ら全員土曜日の昼間からエロ本買いに来てるんだぜ」
「言っておくけどお前もそのお仲間だからな?」
何被害者側の立ち位置で物言ってんだよ加害者だからな俺に対する。
「よし、じゃあ早速新刊の棚に行こうか」
「あっ、おいエロ眼鏡! 放課後ギャルハーレム売り切れてるぞ!」
「安心しろ袴田、ここになければ竜の穴に行けば良いだけだ」
「良いだけだってその決定権なんでお前にあるんだよ」
何でエロ本買いにハシゴするの確定してんだよ。
「よしっ、『催眠! エロトラップ学園3〜オホ声塗れの体育祭〜』はあるな!」
「なぁエロ眼鏡、お前一々タイトル読み上げないと死ぬ病気か?」
いちいち大声出すの迷惑だってわかってくれ、主に俺に。
「マ●カの本は無さそうですね……」
「流石に古いジャンルだからここの棚にはね……そうだミカエル君、良かったら一緒に探そうか?」
「え、良いんですか織部さん! 是非お願いします!」
新刊の棚を見て寂しそうにしていたミカエルを奥へと連れ込むエロ眼鏡。
「あーあ、ミカエルかわいそ」
「頭が?」
「いや、あのエロ眼鏡性癖歪んでるんだけどさ……一番好きなの寝取られモノなんだよな」
「あぁ……」
もう続き予想出来たわというか俺の事寝取られモノのチャラ男みたいだって言い始めたの絶対あの眼鏡だろ許さねぇからな。
「ユウさん、ありましたマ●カの本が!」
「そっか」
よかったね。
「はい! 『ボクのカノジョ、アイツのセ●レ。』って本が」
よくないね。
「あのさぁエロ眼鏡君?」
何をどう頑張っても寝取られるしかないタイトルだよね?
「いや待ってくれ皆川、これにはちゃんとした理由がある」
「何だよ言ってみろよ」
「これが一番エロいんだ」
「このフロア限定で百点の回答やめろよ」
お前それ世間的には0点だからな。
「そうですよユウさん、折角織部さんが選んでくれたんですから」
「お前月曜も同じ事言えるか覚えとけよマジで」
脳破壊されても俺に電話して来んなよ絶対。
「おっ皆川この『ママは現役コスプレイヤー』って中々エロそうだぞ」
おっとここでピンポイントで地獄みたいなエロ同人の登場だ、俺には微塵もエロさを感じられないタイトルやめてくれマジで。
「袴田、知ってたら最悪だし知らなくても最悪だからな?」
「何が?」
「……何でもないです」
きょとんとした顔の袴田に、俺は俯き小声で答えた。絶対親の趣味知られたくないなこいつらには。
「さ、とりあえずこの店はこの辺にして」
思い思いのエロ同人と金を押し付けた三人は、良い笑顔で微笑んで。
「次の戦場に行こうじゃないか!」
なんて図々しい台詞を吐いた。
あとエロ同人は普通に買えた。
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