閑話④

 数件のエロ同人ショップとオタクグッズコーナーと凄い安い殿堂とプラモコーナーが充実している巨大な電気屋やらを巡り終えた俺達は、駅前に戻っていた。


 気が付けばもう夕方、日が傾き始めている。


「めっちゃ疲れた……」


 両手一杯にエロい物をぶら下げれば、自然とため息も重くなる。幸いなのは手数料のおかげで欲しかったマス●グレードのザ●マインレイヤーが買えた事だろう。


「一番時間かかったの皆川のプラモ選びだけどな」

「おいおい褒めんなよ袴田」


 本当これでもかなり即断即決した方なんだからな。


「本当お前の中身が残念で俺達は嬉しいよ」


 しかし芸は身を助けるとは言うが、まさかガン●ムオタクのおかげで殺されずに済むとはな。


「いやぁ、僕もこんなにたくさんマ●カのグッズ買えるなんて思ってませんでしたよ」

「よかったね」


 満足そうに笑みを浮かべるミカエル。一個劇薬混じってるけどな。


「そうだ、折角だし何か食べに行かないか?」


 と、ここでエロ眼鏡が委員長みたいな提案をして来た。何だ晩飯前なのに何か変な物でも食ったのか?


「良いけどそんなに金ないぞ俺」

「バカに同じく」


 ミカエルはともかく、袴田と俺の財布の中身は底をつきそうだった。プラモ自体は予算内に収まったが塗料とか買ったら足出たんだよなぁ。


「全員金を使ったからな、ハンバーガー屋あたりが妥当だろう」

「けどかなり混んでないか?」


 土曜日の夕方、駅前にあるマで始まってドで終わるバーガーチェーンが空いているはずもなく。


「御徒町方面に歩いたらもう一軒あるんだ、そこなら駅前ほど混んでないんじゃないかな」

「すげぇ今日一番役に立つ情報じゃん」


 今日ロクな事喋んなかったもんなエロ眼鏡お前な。


「んじゃ歩くとしますか」

「これ持って?」


 両手一杯のエログッズを抱えてこれ以上歩きたくないと暗に主張すれば、エロ眼鏡はニヤッと笑ってコインロッカーの鍵を俺達に見せつけた。


「天才か?」


 思わずそんな言葉が漏れる。ちょっと尊敬しそうになったわあー死にてぇなぁ。


「じゃあスーツケース持ってくるから少し待ってくれ」

「けど今出したら荷物増えるだけじゃね?」

「両手にオ●ホとエロ本抱えてるよりマシだろ文句あるならお前が全部持てよな」


 袴田に反論すれば黙ってしまった。そのぐらいの覚悟しかないなら一生喋んないで欲しいわ。


「あ、戻って来た」


 と、エロ眼鏡がスーツケースを持たずに血相を変えて戻って来た。ほんの少ししか走ってないはずなのに、呼吸は荒く顔から汗が噴き出ている。


「何だトラブルでもあったのか?」

「いや」


 必死に首を振るエロ眼鏡は、何度目かの深呼吸の後にようやくその理由を語った。


「広場に凄い美人のコスプレイヤーがいた」

「マジか」

「うへぇ」


 嬉しそうな二人とは裏腹に、俺は苦虫を噛み潰したような顔、というか実際に口の中が苦くなった。理由は単純、母親がコスプレイヤーだからだ。


「何だ皆川コスプレは嫌いだったか? わかるぞ確かにベストは二次元だがそれでもさっき見た美人のコスプレイヤーはそんな常識を吹き飛ばすほどの美人だったぞ」

「いやその、そういうのじゃなくて」


 美人とかどうじゃないんだよ俺にとっては。


「わかってるって皆川」

「袴田」


 そんな俺を察してか、袴田が笑顔で俺の肩に優しく手を置いて来たうわキモッ。


「本当は見たいんだろ?」

「何もわかってねぇなお前」


 やっぱりこいつに気遣いとか求めるのは不可能だわ放課後ギャルハーレムで救わない方が良い命だったわ龍の穴に一冊だけ残ってたわ売り切れてて欲しかったわ。


「ユウさん、折角だし見に行きませんか?」


 と、ここでミカエルがそんな提案をして来た。なんでそんな酷いこと言うの?


「こうやって皆さんと買い物に行くのがこんなにも楽しいだなんて、僕は思ってもいませんでした。だから今日最後の思い出に、皆で一緒に行きましょうよ」

「へへっ、ミカエルも良いこと言うじゃねぇか」


 よくないね。


「ハンバーガー食べるよね? 別に最後じゃないよね?」

「おい急ぐぞ皆!」


 俺の話を聞かずに三人はその場で走り出した。出来ればそのまま帰りたかったが、逆にあの三人から目を離せば余計に酷い未来が待っているように思えた。


 だから思う。秋葉原でのコスプレイベントなんて何も珍しくないじゃないかと。そうだたとえ母さんが朝からいないとか昨日はミシンの音が聞こえたとかそんなの俺には関係ないじゃないかと。


「他人であってくれ他人であってくれ他人であってくれ」


 グリフィ●ドォーーーーーーーーール!


「目線くださーい!」

「はーい!」


 女子高生のソシャゲのキャラの格好をして、カメラマンに向かって笑顔を振り撒く母さん。


「似合ってますよー!」

「ありがとー!」


 女子高生のソシャゲのキャラの格好をして、カメラに向かってよくわからないポーズをとる母さん。




 死にてぇなぁ。


 ああ死にてぇなぁ。


 死にてぇなぁ。




「な、凄いだろ皆川」


 満面の笑みを浮かべるエロ眼鏡。無理ですもう限界ですちょっと近くで吐いて来ます。


「……トイレ行ってくるわ」

「待て皆川」


 袴田とエロ眼鏡がそれぞれ俺の肩を叩いて来た。


「僕もイくぞ」

「俺もイきたいぞ」

「二人ともぶっ殺すぞ」


 お前その気になれば勇者の力使って死体残らない消し方出来んだからな覚悟しとけよマジで。


 しかし不幸中の幸いか、あれが俺の母親だとは気付かれていないようだ。何この死ぬこと以外はかすり傷みたいな状況平和な日本でこんな目に遭う必要性どこにあるんだよ。


「えっユウさんお母さんに挨拶していかないんですか?」


 と、ここでミカエルが漏らす。なんで会った事ないのに俺の母親知ってんだよあれか親父かヒナあたりから漏れたのかもうどうでも良いわ死んだわ俺も死ぬしこいつらも殺すわ。


「お母さん?」

「皆川の?」

「いや、その、それは」


 顔を近づけてくる袴田とエロ眼鏡。すぐに否定できなかったせいで、ミカエルの言葉が真実だったと物語ってしまう。


「すまん皆川、どうやら今日はここでお開きみたいだ」

「だな……俺も付き合うぜエロ眼鏡」


 俺の肩から手を離した二人は、そのまま踵を返し秋葉原の街へと足を向けた。


「「『ママは現役コスプレイヤー』買ってくる……!」」


 最低最悪の捨て台詞を残して、二人は欲望の街へと消えたのであった。そのまま消えてくれねぇかなぁ。










「とりあえずミカエルから殺すか」

「えっ!?」







「そういえばユウ、土曜はクラスの友達と遊びに行ってたんだって?」


 月曜日、いつものようにヒナと一緒に登校し、いよいよ教室を前にした俺を待っていたのは彼女からのそんな質問だった。


「いや、違うぞヒナ」


 俺は首を横に振って、その質問を拒絶した。


「アイツらはもう友達じゃない」


 敵だ。


「何があったの?」

「絶対説明したくない」


 言える訳ないだろエロ本とオ●ホ買ってコスプレしてた母親見られてたとか。

 

「そう言われたら気になるんだけど?」

「まぁそのうち話すよ」


 悪戯っぽく笑う彼女と、絶対に果たされない約束を交わす。ないわそのうち絶対言わないわ説明に困るから無理だわ。


 とりあえずあの二人は今日から殺すとして。


「おっす、おはよ」


 ゆっくりと教室の扉を開け「皆川がエロ本とオ●ホを買って来てくれたぞーーーーーーーーー!」あばばばばばばばばばばば

ばばばばば。


 汚ねぇサンタクロースみたいに赤と白のオ●ホを教室中にばら撒くエロ眼鏡。死ねクリスマス前に死ねっていうか殺すわ。


「あっ、ありがとう勇者皆川!」

「ごめんな、オレらお前を誤解してたわ」

「へへっ、次もお願いしますよ勇者様」


 クラスの男子達は俺を見るなり、まるで街で偶然アイドルにでも会ったかのように握手を求めて来た。死ねこいつら全員死んでしまえ。


「おいミカエルどうなってんだ!」

「あっユウさ……ヒェッ金髪寝取りチャラ男オエエエエエエエエエエエエエエエッ! オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」


 唯一誤解を解いてくれそうなミカエルはダメだ脳が破壊されて俺の外見だけでご飯三杯戻してるわやっぱりあのエロ同人の内容寝取られだったじゃねーかそりゃそうだわタイトル見りゃ誰でもわかるわマジでバーガー屋の情報以外ロクな事しなかったなあのエロ眼鏡。


「いや、聞いてくれヒナ」


 と言う訳で俺はヒナに必死に弁解しようと試みたものの。


「えっとね」


 どうやら俺のさっきまでの予想通り。




「絶対聞きたくないかな……!」




 そのうちって奴はこれから先絶対に訪れてくれないらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『逆』転生の異世界勇者~魔王を倒して現代日本に転生したけど、異世界から来た連中が俺を処刑しに来たので返り討ちにしてもいいですか?~ ああああ/茂樹 修 @_aaaa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画