閑話②

「すまない皆川、順を追って説明させてもらおう。毎年三月になると都内某所で『NEND★MATU』という同人イベントがあるんだが、ご存知の通り僕らは今年受験だったろう? だから今年は行けなくてさ、電子で出ているものはなんとか購入できたんだが……当然全てが電子という訳でもないんだ。特に僕が一番楽しみにしていた『催眠! エロトラップ学園3〜オホ声塗れの体育祭〜』は紙のものしかなくて……それで秋葉原で僕の代わりに買って欲しいんだ」


 転校を決意した俺に浴びせられたのは、クソどうでもいい情報だった。その様子を見ていたクラスの女子が『嘘っ、織部くんってそんな人だったの……?』と噂話を始めていた。俺もそっちの会話に混ざりてぇなぁ。


「すまん委員長、その説明は求めてない」

「ああ、そうだな……まずは皆川に『催眠! エロトラップ学園』シリーズについて説明しないと」

「そこも求めてねーよ」


 なんだよ催眠エロトラップ学園ってスケベの考えた幕の内弁当か何かか?


「よせ皆川、こいつに何を言っても無駄だ」

「袴田……」


 意外なことに、俺を制止したのは袴田だった。まさかバカでスケベな男に止められるなんて、一生涯の恥だろこれ。


「こいつとは中学からの付き合いなんだが、その時のあだ名を教えてやろう」

「いやいらない」


 どうせしょうもないんだろ。


「エロ眼鏡だ」

「いらねぇって言ったし予想の範囲内なんだよ」


 そりゃ委員長って雑な渾名受け入れるわエロ眼鏡より百倍マシだわな。


「だがそうか、皆川に頼めばエロ本買って来てくれるのか……」


 だがここでバカでスケベの袴田、しみじみとそんなセリフを口にする。そんなセリフでしみじみするなぶん殴られたいのかこいつは。


「買って来ねーよ、というか袴田は委員長みたいに業が深いタイプじゃないだろ……見るからにスケベだけど」

「そうだな、まぁ今時エロ本って言われても……俺にはこれがあるしな」


 そう言って袴田はポケットからスマホを取り出し左右に振ってウィンクをした。みんなの憧れの最新スマホが、今や袴田の欲望の詰まった汚い物に見えてしまった。


「ちなみに袴田、今回の『NEND★MATU』には中学の時にお前に貸した『放課後ギャルハーレム』の続きが出たぞ」

「なんだとエロ眼鏡、あの『放課後ギャルハーレム』の続きが!?」


 また知らないタイトル出てきたわ。しかも中学の時にエロ本借りてるじゃねーか仲良しだろお前らは。


「悪りぃ皆川、俺やっぱエロ眼鏡の味方になるわ」

「今日一瞬でも俺の味方だったか?」


 お前今日一日自分の味方しかしてないだろ。


「お願いだ皆川、僕の代わりに『催眠! エロトラップ学園3〜オホ声塗れの体育祭〜』を買って来てくれ!」

「せめてもう少しまともなタイトルで頭下げろ!」


 そこは最初みたいにエロ同人って言えよ何詳しくタイトル説明してんだよ。


「俺からも頼む、『放課後ギャルハーレム』の続編で救われる命があるんだ!」

「すまん袴田、そのまま死んでくれ!」


 放課後ギャルハーレムで救われる命は救わない方が世間のためだろ。


「ユウさんお願いします、僕もマ●カのエロ同人というものを手に入れたいんです!」

「おいミカエル急に列に加わるな!」


 お前なんだお前急に出てきやがって催眠エロトラップ学園と放課後ギャルハーレムの後だと健全な頼みに聞こえてくるからやめろマジで。


「お願いだ!」

「頼む!」

「お願いします!」


 三人がそれぞれ俺に向かって頭を下げる。ミカエルに至っては異世界関連であれこれしていた時よりも深く頭を下げている。


 いや本当、何で俺がこいつらの為にエロ本買いに行かなきゃならないんだろうかそもそもなんでこいつらは俺がエロ本買ってくれると信じて疑わないんだよ俺にメリットがないだろメリットが。


「「「ガ●プラ買ってあげるから!」」」


 いや本当にさぁ。




「くそっ……土曜日に秋葉原集合だな!」




 行くか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。

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