閑話 おおゆうしゃよ えろどうじん かってきてくれ

閑話①



 四月半ばのとある昼休み、俺は教室で友人と昼食を取っていた。今日のメニューは家からかっぱらってきた適当なパンが二つ。昼食代は貰っているのだが、まぁ金欠なので節約しているという訳だ。


「なんつーか、人は見かけによらないよな」


 と、ここで弁当を箸でつつく友人袴田が俺の顔を見るなりそんな台詞を口にする。


「何の話だよ」


 ちなみにこの逆立てた髪が特徴的なハンドボール部の袴田は、見た目通り馬鹿でスケベな男である。


「いや、皆川ってもっとチャラいと思ってたし」


 自分の日本人離れした容姿については散々言われて来たが、こうやって面と向かって指摘されるのはそんなに嫌なものでも無かった。裏で言われるよりはよほど良いし、俺だってチャラい奴は金髪という偏見を持っている。


『ミカエルくん、この卵焼き……どう、かな』

「愛情たっぷりだよ、マ●カ」

「こいつとか終わってるし」


 横でコンビニ弁当の卵焼きを頬張りながら、カノジョとの世界に浸っているミカエル。


「こいつは居ないものとして扱え」


 もはやこいつに黄色い声を上げる女子はおらず、男子からもヤバい奴だと認識されている。ちなみに双子の姉であるアリエスは女子達と打ち解け、今日も学食に向かったようだ。どうしてこうなった。いや俺のせいか……。


「だからこうやって皆川と昼飯食うとは思わなかったって話だよ」


 しみじみと語る袴田だが、俺の感想は『だからどうした』だった。そんな話を面と向かってされてもな。


「はぁ」

「はぁ、じゃないんだよ!」


 気のない返事をすれば、袴田が机を拳で叩いた。何が不満なんだこのバカマ田は。


「いいか皆川、俺が、いやこのクラスの男子が入学初日に何を思ったか教えてやろう」

「いや、いいわ」


 どうでもいいわ、どうせろくでもないし。


「俺達の幼馴染の綾崎が金髪イケメンに寝取られた……!」

「話聞けや」


 ほらろくでもない話だ、しかも寝取られたっていうかヒナとは入学初日が初対面だろお前は。


「わかってると思うが、綾崎は可愛い」

「まぁ否定はしない」

「あと胸もでかい」

「そうだな」


 それは否定しようがないな。


「だが綾崎の良いところはそこだけじゃない……俺みたいな男子に分け隔てなく接してくれるし、他の美人連中にはない親しみやすさがあるんだ。こう派手じゃないし、スケベでも馬鹿にしてこなさそうだし」

「そうだな、それでこの話続けるのか?」


 まぁ男子から人気あるのは知っていたが、どうせしょうもない話なんだよな続くのは。


「だから綾崎を見た瞬間、俺達は思った訳だ」

「先に言っておくぞ、知らねーよ」

「綾崎が俺の幼馴染だ……!」

「知らねーよって先に言ったろ喋んなよ」


 先行入力仕事しろよこいつの耳バグってるぞ。


「わかるか皆川、こう良い感じの黒髪のおさげで笑顔が可愛い巨乳の子がこの教室に入ってきた時の高揚感が! あっ、この子俺の幼馴染だなこの三年間で俺との距離縮めたくてこの学校受験したんだなって錯覚したくなる気持ちが! わかんないよな!」

「当たり前だろわかる訳ないだろ」


 そりゃ錯覚じゃなくて幻覚だしなお前の場合は。


「それなのに二秒後に後ろから現れた金髪のイケメン……それがお前だ皆川ユウ!」


 おかしいな俺がヒナの幼馴染なんだけどな。


「どう考えてもお前が寝取られ物のチャラ男だろ、『ごめんな〜袴田〜! 今日俺ヒナと用事あるんだわ〜!』とかお前、それ完全にさぁ……」

「風評被害やめろや」


 しかも多分言ったことある台詞使うのもやめろ。


「というか毎朝お前と綾崎見るたびに寝取られたみたいで鬱になる」

「頼むからそのまま病院行って帰って来んなよ」

「ま、そういう事だ。まさか寝取りチャラ男と昼飯食うようになるとはなって思ったんだよ」


 凄い、何一つ俺に非のない非難を浴びせられただけだった。


「この話終わりか?」

「ああ」

「満足したか?」

「クラスの全男子の代弁者になったんだ、満足したさ」


 唐揚げを口に頬張り、満足そうに袴田は頷く。


「そんな大袈裟な」


 全男子ってお前だけの感想だろうが。


「正直お前にガ●ダムオタクという確実に女子ウケしないステータスがなければ火炙りにして殺しているところだった……」

「だから大袈裟な……だよな?」


 手を止め周囲を見回してみる。幸いヒナは学食に行ったのでこの場には居なかったが、残っているクラスの男子連中は笑顔で俺に向かって中指を立ててきた。


「え、マジで?」


 異世界からの処刑回避出来たと思ったら今度はクラスメイトから火炙りにされんの俺? もう学校やめていいか? 転校してもいいか?


 なんて少し落ち込んでいると、別の友人に肩を叩かれた。


「なぁ皆川、ちょっと良いか?」


 眼鏡がよく似合う真面目そうなクラス委員長、織部だ。いつの間にか委員長呼びが定着しており、本人もその雑なあだ名に不思議と満足そうにしている。


「何だよ委員長、改まって……火炙りの日程調整でもするのか?」

「いやいやそんな事はしないさ、それよりも皆川の身長って何センチだ?」


 なんでそんな話を藪から棒にと思ったものの、特に隠してもいないので素直に答える。


「身長? 一八〇だったけど」


 と、答えた瞬間クラスの男子からブーイングが聞こえてきた。いやバスケ部とかバレー部に俺よりでかい奴いるだろ。


「顔も高校生にも見えないよな」

「老け顔って意味か?」

「すまない、他意がある訳じゃないんだ。ただ皆川なら大人に見えるよなと思ってさ」

「確かに、よく大学生ぐらいには見られるな」


 映画館で学割使おうとしても信じてもらえず学生証を渡す、なんて何度経験したことか。


「そこで皆川、頼みがあるんだが」

「学校行事か何か?」

「いや、これは私的な事なんだが」


 と、ここで委員長は俺に向かって深々と頭を下げて来た。そこまでしなきゃいけない用事って何だよ、もしかして人生が左右されるような話か?


 なんて思っていたのだが。




「僕の代わりにエロ同人を買ってきてくれないだろうか!」




 よしっ。


 するか、転校。

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