第五話 長い一日④~成人の儀~
「で、魔王ってどこにいると思う?」
「知らん」
俺はソファに寝転がり、ヒナに背を向け呟いた。
「うわぁ、私の幼馴染やる気なさすぎ……」
「だいたい魔王って転移したのか、それとも転生したのか? そもそも『あの魔王』かどうかもわかんねぇんだろ? はークソゲークソゲー手がかりゼロです」
こんな事になるなら家の前に魔王城でも建てておけっての。定番だぞ定番。
「だいたい魔王がこっちに来たとして、十六年間何も無かったんだぞ? 今更焦る理由ってあるのか?」
「え、だって魔王倒さないとユウ処刑されるじゃん」
「あ、はい……」
それもそうでしたね。
「それはやはり魔王城にいるのでは?」
「あのねアリエスくん、世界中にあるお城はだいたい観光地になってるの。そこで受付のお姉さんでもしてるならもうそれでいいだろ」
アリエスの言葉に反論する。より安全な核シェルターが売っている世界で、城が持つ価値なんてのは歴史的なものだけだ。仮にそこに魔王がいたとしてなんだというのか。
「え、魔王って女の人だったの?」
「ああ、そうだな」
「ふぅーん……」
背中越しのヒナの声が、どこかにやけたものに聞こえた。本当好きだな、こういう『定番』も。
「そういうの気にするのって、なんだか『こっちの世界の人』って感じですね。僕らにとって魔王は魔王ですから」
「なるほど、これが文化の違いって奴ね」
まぁ地球だって核ミサイルで武装した独裁者に男も女もないだろう。短いふて寝を終えた俺は、諦めて起き上がりぬるくなったコーヒーに手を伸ばした。
「ま、こういう時はコーヒー飲んでりゃ解決するんだよ」
「出たガン●ム理論」
と、俺がコーヒーをすすれば全員がカップに手を伸ばす。先程吹き出したアリエスに目を向ければ、流石に慣れたのか優雅に飲む彼女の姿が――。
あ、こいつまた吹き出しやがった。
「吹くなよ」
「ま、ま、、ま、魔王城だ!」
冷静なツッコミをよそに、アリエスは立ち上がってテレビを指差す。
「え?」
つけっぱなしだった画面には、『今年のゴールデンウィークはここで決まり! 都内近郊のテーマパーク特集』の文字がおどっていた。
「あー夢の国……」
千葉某所にある夢の国にあるお城が、プロジェクションマッピングでライトアップされている映像が写っていた。まぁ知らない人から見たら魔王城に見えなくもないか、原理とかもわからないだろうし。
「連休近いからな、宣伝してるんだろ」
「いっつも混んでるだし、わざわざ宣伝しなくてもいいと思わない?」
「思う」
ヒナの言葉に思わず同意する。確かにあれだけの人混みの中なら魔王がいるかもしれないが……それはもう遊びに行ってるだけだろ。
「お、こっちは近いじゃん」
映像が切り替わると、都内の遊園地を紹介する美人のレポーターが映し出される。
『ご覧下さい! 去年リニューアルをした都内最大級のジェットコースターを! いやー今年のゴールデンウィークはここで決まりですね! でも絶叫マシンだけじゃないですよ……なんと、お化け屋敷も〜新しくなったんです!』
そのままお化け屋敷の映像に切り替わるが、聞こえてくるのは相変わらず客の悲鳴だった。そんな光景がアリエスの目にどう映るかと言えば。
「……ニホン国の成人の儀か?」
まぁそう見えるよな。
「姉さん、これは遊園地って言うんだよ。この世界にあるデートスポットの一つさ」
「へー、ミカエル君もうそんなの覚えたんだ」
「はい、マ●カと何度か行きましたから!」
自信満々に答えるミカエル。凄い、本当に役に立ってるなあのゲーム……貸した時は面白十割だったのに。
「それと、ごーるでんうぃーく……とは何だ?」
「ああ、四月の終わりから始まる大型連休の事だな……まぁ連休に行ったら混みまくってるから、違う意味で絶叫するけどな」
アリエスの質問に答える。両親がインドア趣味な事もあり、皆川家にとって一家揃って遠出する機会はそんなに無い。
「だよねぇ、この感じだと今日はまだ空いてそうだけど……」
テレビに映る遊園地の客足は、土曜日の割にぼちぼちといった具合だった。ちょうど春休みと連休の間の今時期なら、きっとこんな物なのだろう。
と、ここでヒナが俺に向かって満面の笑みを浮かべて来たので、冷めたコーヒーをぐっと飲み干す。問題の解決からは程遠いかもしれないが、少なくとも今日の予定は決まったらしい。
「ま、どうせ魔王の手がかりなんて無いし、ユウの言う通り相変わらず世界は平和なんだし」
……さて、さっさと着替えて出掛ける準備でもしますか。
「気晴らしに皆で遊びに行くってのはどうかな?」
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