第五話 長い一日⑤~ここがユウエンチ~

 地下鉄を二本乗り継いで約三十分、都内某所の遊園地にすんなりと到着出来た。ちなみに異世界人二人は目立つと事なので、隠匿の魔法をかけて母さんのコスプレ道具から拝借したメガネとサングラスをかけてもらっている。


 ちなみに二人の服装だが、改めて見るとよく似合っていた。


 まずアリエスだが、いい感じに着古した感の出ている細身のジーンズと編み上げた黒のブーツがよく似合っていた。ここに黒のインナーに緑のモッズコートとくればスタイルのいい彼女に似合わない筈もない。今日は髪を下ろしていて、そこにブラウンレンズのサングラスと来れば海外の女優のようにさえ見える……違う意味で目立つなこれは。


「ここがユウエンチ……」


 まぁ本人は口を半開きにしているので台無しだが。


 次にミカエルは黒縁の大きな眼鏡に、オーバーサイズで七分袖のカーディガン。中のシャツは髪色に合ったグラデの入った淡い空色で、黒い細めのズボンに真っ白いスニーカーと程よくまとまっている。こいつもやはり目立つだろうな……特に右手に持ってるカノジョが。


「マ●カ、何から乗ろっか」

『ふふっ、ミカエル君と一緒なら何でもいいよ』


 はいダメです入場券は高校生四人です五人じゃないです。


「今日はカノジョ没収だ」

「あっ、あ、あっ、ああああっ!」


 ゲーム機の蓋を閉じてヒナの持っているトートバッグの中に放り込む。カノジョとはちゃんと二人で来い。


 さて、これで多少は目立たなくなったが……最後の懸念点が残っていた。それは何かの拍子で魔法を使ってしまわないかという点だ。わーギャードカーン次のニュースですグランテリオス王国の留学生が都内某所の遊園地で事故を……ありそうで困る。


 という訳で。


「それと、二人とも手を出せ」


 異空庫からとある道具を二つ取り出し手渡す。それが何なのか知っていたのか、何も言わずに装備してくれた。


「何その指輪」


 まぁヒナは知らなくて当然だが。


「封魔の指輪って言ってな、そのまんま魔法を封じる指輪だよ……間違って魔法使わないようにな」

「ふーん、いくらぐらい?」

「……こっちの感覚だと高級車三台分ぐらい」

「うげっ」


 ヒナが最もなリアクションをしてくれる。見た目はシンプルな模様が彫られた銀の指輪だが、素材も製法も特殊な為か中々に高価なアイテムである。まぁそれでも異空庫の中身では安い方なのだが……やっぱり処刑されても文句言えないな俺。


「今はもっと高いですよ。元々数が出回っている道具ではないですし、国が買い集めていますので高騰してるんです」

「何でまた国が買い集めるんだよ」

「魔王がいなくなってから、国が戦う相手は専ら人間になったからな。魔法を封じなければおちおち牢にも入れられん」

「だ、そうだ」


 ミカエルとアリエスの解説に納得したのか、ヒナが無言で頷いた。しかしそんな事になっていたのか、俺がいた時代は魔力の高い奴は問答無用でまた前線送りだったのに変わるものだ。


「ま、異世界の話も気になるけどせっかくの遊園地だしぃ……まずは何から乗ろっか」

「そりゃもう、アレだろ」


 俺が指をさすのはもちろん都内最大級のジェットコースター。むしろ今日はこれに二人を乗せに来たと言っても過言ではない。


 して、異世界人のご様子はと。


「ふっ、確かにてれびで見た時は奇怪な事をするものだと驚いたが……こうして実物で見ると大した物ではないな」

「そうですよ、僕達は剣と魔法の世界から来たんですよ? あの程度で驚く訳無いじゃないですか」


 なんてセリフを得意げに言ってくれるから、なかなか期待できるなこれは。







 遊園地なんて一体何年ぶりだろうか。中学の時に一度行ったきりだったから……二年ぶりぐらいか? まぁともかくとして、俺の久しぶりのジェットコースターは。


「殺せええええええええええええええええええっ!」

「マ●カァああああああああああああああああっ!」


 前の二人がうるさすぎて、少しも楽しめませんでした、と。



 ジェットコースターの横にあるベンチに腰を下ろし、真っ青な顔で冷や汗を流す二人。よしよし封魔の指輪を渡しておいて良かったな、っと。


「おかしいぞ地球の人間は……なんで自ら金を払ってこんな目に遭うんだ……」

「ごめんよマ●カ、反応が可愛いからって絶叫マシンばかり選んで……」


 ミカエルはともかく、絶叫マシンが苦手な人間なら誰もが思う事をしっかりと口にするアリエス。あの一回の料金で結構な量の胡椒が買えると知ったらもっと卒倒しそうだなこいつ。


「ねぇ、何で二人にこんなに効いてるの? ファンタジーならあれぐらい普通なんじゃないの?」


 小声でヒナがもっともな質問をしてくれた。仕方ない、簡単に解説させて頂きますか。


「それは向こうでああいう目に遭う時は、たいがい身体強化使ってるからだな。例えるなら……魔力で作ったパワードスーツを着てる感じだな」


 全ての魔法の基礎でもある身体強化は、いわば魔力で編んだ強化服だ。おかげで地面に激突しても死なないし、ちょっとやそっとで怪我はしない。


「だから慣れてないんだよ、生身でああいう目に遭うってのは」


 まぁたまに防御分の身体強化は鎧を着れば解決するから、全部攻撃にまわすぜなんて奴もいたが。ガイアスとかガイアスとかガイアスとか。あいつならこのジェットコースターも『なぁ相棒、何が面白いんだこれ』とか言っていただろうな。


「なるほど、それで」


 納得したヒナが二人に小さいペットボトルのジュースを手渡せば、二人は浴びるように飲んだ。


「ねぇ二人とも、次は」

「すいません、絶叫マシンは勘弁してください!」


 ヒナが全てを言い終わる前に、二人は食い気味で頭を下げた。さすがに連続はかわいそうだよな、連続は。


「大丈夫だよ、次は逆さになったりしないから」

「あぁ、それで頼む」


 ヒナの言葉にアリエスが笑顔を返す。まぁ次は高いところから落とされたり一回転する事もないだろうが。


「じゃ、お化け屋敷行こっか」


 少なくとも悲鳴を上げる事からは、逃れられはしないだろう。

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