最終話 陽のあたる場所で君と小鳥の鳴き声を聞けたなら④~測定不能~

「成程な、お前と生年月日が同じ子供を探せば良い訳か」


 アインス達のいる部屋に戻った俺達は、庭での話をそのまま伝えた。怪訝な顔をされるかとも考えていたが、アインスはすんなりと俺達の話を受け入れてくれた。


「ま、その可能性が高いって話だけどな」

「信じるさ。兄弟の言葉ならな」


 頷くアインスが右手を上げれば、すぐに控えていた文官が動き始める。どうやら魔王探しの任務は日本政府にも伝わるらしい。


「しかし日本にこれ以上借りは作りたくなかったんだけどな」

「その辺の政治の話は任せるよ。高校生には荷が重すぎるからな」


 肩を竦めればアインスの諦めたような笑顔が返ってくる。王様と高校生なんて随分と立場が変わってしまったが、少なくとも俺達の間にはまだ互いに兄弟と呼べるだけの気軽さが残っていた。


「それよりも……ありがとうヒナさん、君のおかげで進展があった」


 襟を正したアインスは、もう一度ヒナに深々と頭を下げた。やっぱりまだ慣れないのか、彼女は慌てて両手を振るが。


「いやぁそれ程でも」


 だからその背中を叩く。


「それ程、だろ?」


 彼女の案で異世界と日本って国が動くんだ、それ程だって胸を張っても良いんだ。


 と、ここで新たな疑問が一つ。


「しかしアインス、どうやって魔王かどうか調べるんだ? まさかアリエルみたいに魔王クイズとかやるんじゃないだろうな」


 前世がどうとかなんて、所詮は自己申告でしかない。俺みたいに聖剣でも持っていれば話は違うが、それも持ち出さなければ良いだけの話だ。


「何だクイズって」


 部屋の隅にいるアリエルを顎で指せば、彼女の背中がビクッと震えた。おっと名誉のために黙っておいてやるべきだったなこの話は。


「馬鹿だなお前、アレを使うんだよ」


 アインスは背中越しにある、いつか俺の魔力量を計測した機械を親指で指した。


「魔力計か。確かにあれを使えば一発でわかるか」


 まぁあれを学校に持ち込めないから仕方ないか。


「さーて、皆川ユウくんの魔力量はっと」


 アインスはわざとらしく両手で眼鏡を作って、俺の顔を除いてみせた。それに呼応して操作するユーミリアが淡々と結果を読み上げる。


「魔力量二百七十八万です」

「おーっと化け物です、こんなのが街を歩いているとは世も末です」

「ほっとけ」


 実際世も末かもしれないからこんな力があるんだろうが。


「それではここで日本人の平均的な魔力量を見てみましょう。さーて綾瀬ヒナさんの魔力量はっと」

「……測定不能です」


 なんだそれ。


「そうそう、日本人は魔力量が少なすぎてうまく測定できな」

「違います、お父様!」


 ユーミリアの逼迫した声が響いた。彼女はもう一度機械を確認し、ヒナの魔力量について言及する。


「高すぎるんです、その子は」


 高すぎる、ヒナが? 測定不能なぐらいって勇者の俺よりもか?


「ユウ様、先程はこうおっしゃいましたね……あなたと同じ日に生まれた子供の中に魔王がいると」

「それは」


 ユーミリアの言葉から目を背ける。測定不能という言葉の意味が、俺だけは正確に理解しているから。


「それにミカエルから聞きましたが、勇者の力を取り戻したのはその方を助けようとした時ですよね」

「だけど」


 あの強さを、あの暴力を数値なんてもので測れないと知っているから。


「ねぇ、何の話を」

「ユウ様!」


 ヒナが口を開くや否や、ユーミリアが言葉を挟む。


「その子が、綾崎ヒナが」


 それから彼女はゆっくりと俺の幼馴染を指さして。




「魔王の卵の持ち主です」




 最悪の事実を淀みなく言い切った。

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