第四話 三億円事変②~転生したら日本人だった件~

 その後教室で繰り広げられたのは、小さめのタブレットを持ち込んでいた同級生による異世界モノのアニメの上映会だ。まぁ一話冒頭だけ見たら大体転生が何かわかるだろうが……今だけは日本のエンタメの伝わりやすさを呪うほか無かった。


「おいお前ら、ホームルーム始めるからちゃんと自分の席につけ」


 と、ここでタイムアップ。担任の前園先生がいつもの投げやりな調子で俺達に命令する。


「でも先生、勇者探しに役に立つかも知れないって」

「あのなぁ」


 首の後ろを掻きながら、ため息を漏らす担任。そうだ言ってやって下さいよ学生の本分は勉強だって。


「そういうことは早く言え!」


 ――前園かよ子三一歳、担当教科は保健体育。幅跳びの要領で生徒達の机を飛び越えると、綺麗にアリエスの後ろに立つ。


「せんせープライドとか無いんですかー」

「働いたことも無いガキがっ、ノリで三億円欲しいーとかほざいてんじゃねぇ!」


 担任から放たれるその言葉に、クラス中の誰もが思った……将来教師になるのはやめよう、と。


「成程、これが転生か」


 冒頭部分を見終わったアリエスが細く長く息を吐いた。


「つまり勇者十六歳説もあり得るのか……?」


 そして顎に手を当て考え込めば、少しだけ思考回路の中身が口から漏れる。


「金髪の、十六歳」


 ――その単語は俺に注目を浴びせるには十分だった。


 ところで前園先生、いつ俺に肩なんか組んでたんですかね。


「皆川、お前まだ二日しか経ってないのに弟君と親しかったよなぁ」


 蛇のように俺を睨みながら、的確な所を突いてくる。この人多分異世界の方が向いてるんじゃ無いかな、教師よりも。


「や、やだなぁ学校案内をした縁で仲良くなってるだけですよ」

「そのミカエルはどうしたんですか?」

「ああ、休みだって連絡があってな。あいつすげーな自分から電話してきたぞ?」


 もう電話のかけ方覚えたのか、流石カノジョ持ちは違うな。


「お前と校舎裏で話してた翌日に休みだってよぉ、皆川ァ!」


 何で知ってんだよその事をこの人はよぉ。


「ははっ、お家の事情じゃないですかねー」

「綾崎ィ、お前皆川と仲良いけど知らねーか?」


 俺からは情報を引き出せないと悟ったのか、今度はヒナに標的を変える前園先生。だがヒナに出来るのは、必死に首を横に振る事だけだった。


「いや、あの、先生、その、顔が、その……」

「おい何怯えてんだよ、お?」


 その問いに誰もが思った――先生の顔が怖いからです、と。絶対元ヤンだよこの人。


「あっ、あのさぁ」


 幼馴染ばかりを矢面に立たせるわけにはいかない。俺は意を決して立ち上がると、アリエスに聞きたかった事を尋ねる事にした。


「一つ気になったんだけどさ……どうやって勇者って確認するんだ?」


 そう、それは前世の勇者を見た事すらないアリエスが何をどうやって『この人は勇者である』と判断するか、だ。人の魂を鑑定でもするかのようなファンタジー秘密道具があれば困るが……少なくともアルスフェリアの人間にそんな発想は無いはずだ。


「ふっ、ミナガワとか言ったか……やはりニホン人は浅はかだな。我が父より、勇者かどうかを判別する方法を私は知らされている。そうだな……手始めにその身を持って味わうが良い」


 え、あるの? いや待てよあの世界も俺がいなくなって十六年……そういう物を産み出せるくらいには発展しているかも知らないじゃないか。


「その名も」


 俺の馬鹿野郎、なんで薮を突いて蛇を出すような真似をしたんだ。ほら見ろこのアリエスの自信満々な顔を、確実な手段が無ければこんな表情できないに決まってるじゃないか。


「……勇者クイズだ!」


 良かったぁ、ちゃんと親子揃ってバカだぁ〜〜〜〜っ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る