第四話 三億円事変④~ソシャゲの期間限定キャラ~
「っていう事があったんですよ、ハン●先輩」
放課後、俺は黒魔術研究会でコーラを飲みながらハン●先輩に今朝の出来事を説明した。流石に二日連続お邪魔するのはどうかとも考えたが、とりあえず俺の気苦労を誰かに共有したかったので仕方ない。まぁヒナも同伴で来たけどさ。
「……えっ!? あ、うん」
話を聞き終えた先輩は怪訝な顔で俺を睨んだ。しかし今朝のアリエスとの睨みと比べれば可愛いものである。
「いやそれ、行かないと不味いんじゃないの?」
「私もそう言ったんだけどさぁ」
女性陣が呆れた態度を示してくるが、俺は首を横に振る。
「あのね、あの姉はこのご時世に平気で無礼打ちしようとする人間なの。あんなのと二人きりになったら何されるか分かったもんじゃ無いね」
グランテリオス王国の身分制度は根強い。それもその筈、貴族という存在が単純に『強い』からだ。代々魔力量を高める事に精を出し、その地位を守り続ける……平民との差は単なる身分以上のものがある。そんな常識で凝り固まったアリエスが俺に何をするかなんて考えたくもない。
「だ、そうでーす」
「ま、息子くんがいいなら良いけど」
先輩は読んでいた本を閉じると、つまらなさそうにスマホを眺めた。
「しかし三億円も用意するだなんて、異世界人もなかなか侮れないわね」
てっきり手品のサイトかなんか見てるのかと思ったが、察するにニュースを見ているようだった。
「ですねー」
しかし先輩まで三億円の魔力に取り憑かれたら、折角見つけた冷蔵庫付きの憩いの場が危うくなるな……少し牽制してみるか。
「そういえばハン●先輩はお金欲しーとか無いんですか?」
「ないわよ、わたしは実家極太だから」
あっはい、おじいちゃん頼んだら何でもしてくれそうですもんね。折角だし部室に電子レンジとか置いてくれないかな。
「……ごん太よ」
はいはい。
「あれ、ミノリ先輩もしかして実家の経済力アピールですか?」
「あっ、ちがっ、ごめんなさい」
何かを感じ取ったのか、ヒナが笑顔で圧をかける。先輩は近くであった本で必死に顔面を防御する……効果は抜群だ。
「でもそういう苛烈な性格の人って乗り込んで来そ」
「ここかミナガワーッ!」
うですよね、きましたねアリエス。しかしまぁ勢いよく異世界人が扉を開けた、というシチュエーションは昨日と一緒なのだけれど。
「……ミカエル君の方がインパクトあったね」
「同意しかない」
「もっと装備してから来て欲しいよな」
ヒナの素直な感想に俺たちは頷く。昨日のパーフェクト入部希望者セットを見た後に、腰から剣を提げているぐらいじゃ何とも思えない。
「おい貴様ら、私が話をして」
「何よ」
ハン●先輩のにらみつける。
「……かわいっ」
――ん?
「入ってきたのはそっちでしょう」
「かわっ……!」
先輩が悪態をつけば、アリエスは思わず口を抑えた。まぁかわいいと言うのは先輩の事で間違いないだろう……これはあれか、アリエスの明確な弱点という事ではないだろうか。バカ以外の。
「ハン●先輩こっちに」
先輩を呼びつければ、ため息混じりにこっちに来てくれた。なんだかんだノリいいよなこの人。
「そこで両手広げて」
「んっ」
先輩がバッと両手を広げれば、アリエスがグッと身構える……試してみるか。
「くらえロリ魔法っ、西園寺ミノリーーーーーーーーーーーーーーッ!」
説明しよう、ロリ魔法西園寺ミノリとは。ただ小学生女児にしか見えないハン●先輩が両手を広げているだけの行動である。魔法でも黒魔術でも、ましてや手品ですらないのだが。
「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
悲鳴を上げてたじろぐ。効いてる効いてるぅ。
しかしこの気の強い貴族主義者が可愛いもの好きか……一周回って意外でもないな、うん。
「すげぇやハン●先輩、異世界人に特攻持ちだ!」
昨日のミカエルの件といい、どうやら異世界人はハン●先輩に弱いらしい。このままアルスフェリアに連れて行ったら無双出来るんじゃないか? 無理か、ハン●で手品グッズ買わないと宴会芸しか出来ないもんな。
「人をソシャゲの期間限定キャラみたいにいわないでくれる?」
「でも悪い気してないですよね?」
「それは……」
先輩が一瞬言葉を詰まらせる。見てくださいよこの状況を異世界の奴らなんてクソチョロですよ。
「ドヤァ」
「ぐぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
先輩のドヤ顔がそんなにお気に召したのか、アリエスが歯ぎしりをしながら後ずさりをする……まぁ悪くないんだけどさ。
「でもリアクションはミカエルより弱いな」
昨日のミカエルの反応と比べると物足りないよなぁ。
「同感、窓ガラスぐらいぶち破って欲しい」
「あーそれいいですね」
「ちょっと二人とも!」
「う"お"お"お"お"お"お"お"お"お"おおおおおおおおおおおっヅ!」
汚い声を上げながら、後ろに吹き飛ぶアリエス。こいつ自分から行きやがった、だが彼女は知らないだろう学校の窓ガラスというものが。
「ヴッ」
ゴンッという鈍い音と汚いアリエスの声が漏れる。あー痛いんだよなあれ。
「……うちの学校は全て強化ガラスよ」
「ありがとう理事長」
お陰で事故なく学生生活を遅れています。
「だから二人とも、手当手当!」
と、部室に常備しているのかヒナが救急箱を持ってアリエスへと駆け寄った。
「あーもうすいません、うちの先輩と幼馴染が、頭とか切ってないですか」
ぶつけたアリエスの頭を擦りながら、怪我の心配をするヒナ。いやうん、流石に俺も調子に乗りすぎたな。
「触るなっ!」
が、アリエスはそれを許さなかった。倒れ込んだヒナの膝が、そのまま廊下に擦り付けられる。
「ヒナ!」
急いで彼女に駆け寄って、傷の具合を確かめる。膝小僧の皮が少しめくれて、ほんの少しだけ血が流れていて。
「大丈夫、ちょっと擦りむいただけだから。それにほら、都合よく救急箱もあるし……ね?」
ヒナは作り笑顔を浮かべながら、俺に心配をかけまいとそんな事を言ってくれた。
「ちょっと、うちの部員に怪我させないでよ!」
「うるさい、私はガイアス=クライオニールの娘で、特務全権大使補佐官だぞ!」
先輩がアリエスに怒るが、彼女は逆上するだけだった。
「お前らみたいな……無価値な人間とは違うんだ!」
その態度に、その言葉に――頭の血管が切れる音が聞こえた。
どこの誰が無価値だって?
「……最終問題は屋上だったな」
アリエスに詰め寄り、そのまま彼女の胸ぐらを掴む。そっちに用があるっていうなら、付き合ってやろうじゃないか。
「ユウ! 私は大丈夫だから!」
ヒナがそんな事を言ってくれるが、はいそうですねと納得していい問題じゃない。
「大丈夫だって、ちょっとこいつの親父の代わりにお灸を据えてやるだけだから」
ああそうだ、ガイアスの好きそうな方法でちょっと教育してやるだけだ。
「じゃあ二人とも、手品するから目を瞑っててもらえるかな」
出来るだけ笑顔で冗談を口にするが、流石にこれ以上俺の正体についてヒナには隠し通せないだろう。だけど構わない、俺はアリエスがしでかした事を……どうしてもヒナに謝らせたいのだから。
少しは痛い目を見てもらおうか。
「3、2、1」
――転移。
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