回想 魔王城を前にして
魔王城へと向かう最後の宿場町。月が紅く燃える空を睨みながら、俺達は、いや俺はようやく最後の決断を下した。
「勇者様、いよいよ明日は魔王城に向かうのですね……」
「行こうぜ相棒……この戦いを終わらせによぉ!」
旅の途中、仲間になったガイアスとエステル。この二人がいたおかげで助けられたのも事実だ。
「ガイアス」
「へへっ、なんだよ相ぼ」
だからこそ俺は、ガイアスの背中を押さえ腹を殴りつけた。拳の衝撃がこの大男の全身に伝わり、一瞬で意識を奪う。
「勇者様、一体どういうおつもりですか!」
そのあり得ない情景に狼狽するエステル。だからこそ俺は、これは当たり前の行動だと説明する。
「お前達はここで置いて行く……はっきり言って足手まといだ」
この二人には助けられた……だがそれは、戦いにおいてではなかった。顔の知られたこの二人がいたおかげで、この旅は滞りなく進んだのだから。
だが、残すは魔王城だけだ。その中でも俺の相手になりうるのは……あの魔王ただ一人だ。
「それでも、盾代わりにはなれます!」
溜息が出る。それが無理な事ぐらい、エステル自身が理解している筈だから。
「……その体で、か」
「それは」
彼女は目を伏せ、咄嗟に自分の下腹部を抑えた。その兆候がある事ぐらい、無学な俺も気付いていたから。
「父親は……ガイアス、だろうな」
「お願いします勇者様、最後まで貴方の戦いを見届けさせて下さい……それこそが我らの使命なのですから」
涙を流しながら、両手を合わせ祈るように聖女が懇願する。
「エステル」
だけどその切なる祈りは。
「父親に似て勇猛で……母親に似て慈悲深い子であればいいな」
願わくば争いのない、平和な時代の子のために。
ガイアスをその場に寝かせて、俺は二人に背を向ける。
「帰ってくるさ、必ず……子供の顔を見に、さ」
呟いた言葉が夜の風に溶けていく。
ああ、わかっている。わかっているさ。
「勇者様、それではあなたは、あなただけは」
この二人を守る事こそ、この家族を救う事こそ。
「――いつまでも孤独ではありませんか」
俺が果たすべき使命なのだと。
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