第二話 受け継がれるもの⑦~聖地~
「ここは……」
東京の街並みとは似つかわしくないその場所を、ミカエルは不思議そうに見回していた。俺だってここに来るのは久々だ……まぁテレビでたまに見てるが。
「首都圏外郭放水路だ。小学校の時に社会科見学で来たっきりだったが……東京で人目につかない所はここくらいしか思いつかないしな」
床から天井までコンクリートで埋め尽くされた巨大な空間に、これまたコンクリートの柱が無数に立ち並んでいる。地下神殿、だなんて揶揄されるその場所は、水害から首都を守るための超巨大な治水トンネル……なのだが。
「それに、超能力で戦うとなら」
異空庫から聖剣を引き抜き、構える。
「やっぱりここだろ」
この場所は数多くの特撮作品にロケ地として登場する、ある種の聖地な訳で……まぁ、ここを転移先に選んだのは俺の趣味である。
「……聖剣アルスフェリア=ハウル」
引き抜いた剣を睨みながら、ミカエルも武器を構える。
「顕現せよ……氷杖コキュートス!」
『名付け』と『装備』が済んでいるのか、ミカエルは己が武器を取り出した。天井の照明を反射する氷細工のその杖は、彼の出自を教えてくれた。
「おお、やっぱり母親はエステルか」
この杖の持ち主は、かつて旅の仲間だった聖女エステルその人だ。孤児から教会を代表する魔法使いへと出世した、聖女の位まで与えられた彼女は国民からは大人気だったな。
……たまに俺より人気あったし。
「僕如きが……貴方に勝てるとは思えない」
「賢明な判断だな」
エステルの魔力量は確か八万ぐらいだったか。ミカエルがどれだけ優秀かは知らないが……まぁ勇者との実力差は絶望的だ。
「だけど、果たすべき使命の為に」
さて、と。流石に税金で作られた施設を壊すわけにはいかないので、周囲に『強固』の魔法をかけて、と。
「この技を、届かせ」
蹴った。地面を、そのまま杖を構えたミカエルの横っ腹を。
勢い良く吹き飛んだミカエルが、そのまま壁に激突する。
「いやー悪い悪い、まともに魔法使うの久々だからよ」
十六年ぶりの懐かしい感触……それでもまだ感覚が思い出せない自分が恥ずかしくなる。
「準備運動に付き合ってくれよ」
魔法でもなんでもないら、『手加減』の感覚が。
一つ分かった事がある。ミカエルは強い。よくもまぁ魔物が消えたあの世界で、ここまで鍛え上げられたのだと感嘆せずには居られない。
「僕は」
ガイアスの血筋のおかげか、エステルの弱点だった肉体的な弱さもカバーされている。おかげでほら、軽く小突いても骨が折れない。
「騎士団長ガイアス=クライオニールと」
氷柱が俺の体目がけて射出される。いいね、全盛期のエステルに肉薄する魔法の腕だ。あと数年もすれば完全に母親を超えるんじゃないか?
「大聖女エステル=クライオニールの息子で」
まぁ当たらないのでどうという事はないけど。というか大聖女ってまた出世したのか凄いな。
「グランテリオス王国最強のっ!」
ミカエルの懐に入り、少し力をこめて鳩尾に後ろ周り蹴りを喰らわせる。あーうん、折れてないよな大丈夫大丈夫。
さて、実力差は伝わっただろう。仮にこいつの魔力量が人の限界と言われる十万だとしても、勇者の五十万には届かないのだから。
単純に五倍の戦力差……ですらない。十万を超えた先は、魔力量を一上げるのに今までの何十倍も努力が必要になる世界だ。
RPGで後半に成程必要な経験値が増える的な、アレだ。だから俺とミカエルの、いやこいつの両親との戦力差は、昔母さんがちょっとやってたネトゲに換算して、と。
えーっと魔力量一万を一レベルに換算して、ミカエルがレベル十で俺が五十だからスマホで計算してっと。
九百八十九倍か……大体あってるな。
「あのなぁ、二人から聞いてないか?」
柱に背中を預けながら、虚な目で見上げるミカエルの首を掴んで持ち上げる。
「お前の両親は」
あの二人は確かに俺の仲間だった。あの孤独な旅の中で心を許せた数少ない人物だった。
だけど。
「足手まといだから置いてきたんだって」
俺の隣に立つには、あまりにも弱過ぎたんだ。
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