第三話 黒魔術研究部へようこそ!③~黒魔術師VS魔法使い~

 魔法と魔術の違いを説明しよう。人間様が使えば魔法で、魔物が使えば魔術である。ね、簡単でしょう。補足があるとするなら、人間様が卑しい魔物のやり方を研究するのは宗教的にNG案件という事だろうか。で、ミカエルは大聖女の息子さんっと。


 という訳でガチガチに睨みを効かせるミカエルを引き連れ、ヒナが教えてくれた場所へと到着。第二準備室と書かれたプレートの下には、書道の時間にでも書いたのか『黒魔術研究部』の半紙がガムテープでぶら下げられていた。無駄に達筆だなこの文字。


「ここか」

「ユウさん、待って下さい」


 ミカエルは第二準備室もとい黒魔術研究部の扉に向かって、瞳を閉じて右手を伸ばした。『感知』の魔法だったな確か。


「魔力反応がありません」

「でしょうね」


 大真面目な顔でそんなわかり切った事言われても困るんだよな。


「僕が先に行きます……顕現せよ、氷杖コキュートス!」

「あー、その」


 魔術と聞いて黙ってはいられないミカエルが、右手に杖を顕現させる。


「顕現せよ……宵闇の羽衣!」

「ミカエルくん?」


 武器と来れば次は防具、魔力抵抗値の高い一級品である漆黒のマントを顕現させ、制服の上から身に纏う。


「相手は黒魔術……用意は周到に、ですね。顕現せよ、知恵者の三角帽子!」

「あのさぁ」


 防具の次は補助アイテム。装備者の魔力を高めるこれまた一級品の黒い三角帽子を頭にかぶる。


「……行きます!」


 杖、マント、三角帽子。豪華三点セットを身につけたミカエルが、俺の言葉に耳も貸さずにその扉を勢い良く開けた。


「出てこい魔女め! この聖燐協会が司祭、ミカエル=クライオニールによる御用改であるぞ!」


 ……その格好で司祭は無理だろ。


 開けた扉の先には、アーモンドチョコを摘むヒナと、もう一人の部員がいた。


「ぱ」


 黒髪黒目に黒のカーディガン。日本人形みたいな姫カットに、制服でなければ小学生と見間違いそうな女子生徒。リボンの色は青なので……二年生がこの人。先輩かぁ。


「パーフェクト入部希望者……!」


 父さんらしい言い回しをするなら『ロリ先輩』としか表現できないその先輩は、豪華魔法使い三点セットを装備したミカエルに対して爛々と目を輝かせていた。


 まぁ今この瞬間で限って言えばらこの都内でこいつ以上に『黒魔術研究部』の名前が似合う人間はいないだろう。


「ユ、ユウ……?」

「お、おう」


 戸惑うヒナに戸惑いながらも返事をする。


「あなたが噂のミカエル=クライオニール……異世界から来た魔術師」


 名も知らぬロリ先輩は妖しい笑みを浮かべながら、的確に異世界人の地雷を踏み抜く。あーダメですよそれはサノバビ●チ並の罵倒ですよ。


「魔法使いだ。この汚れた魔女め、魔術と魔法の違いを」


 だからほら、ブチ切れですよミカエルは。


「その身を持って思い知れ……『氷刃』!」


 って馬鹿野郎が。


「あぶねっ!」


 咄嗟にミカエルの杖を掴み、矛先を天井へと変える。放たれた氷の刃はそのまま天井に突き刺さり、吊るされた蛍光灯をゆらゆらと揺らした。


「うわっ、本物の魔法だ……」


 仰け反りながらも感嘆の声を上げるヒナ。ただ待ちに待った魔法の前で笑顔が引きつっているのは、思いの外物騒だったせいだろうか。許せ、魔法なんて所詮そんなもんだ。


「ユウさん、邪魔しないでください!」

「いや異世界から来た留学生が一般人に魔法なんて打ったら大問題だろ」


 声を荒げるミカエルをそれらしい建前で諭す。で、本音はと言えば。


「それにこっちの人間に『魔法』と『魔術』の違いなんてわからないって」


 ヒナに聞こえないようミカエルに耳打ちする。せめて悪気は無かったと伝わってくれれば良いのだが。


「その通りかもしれませんが」


 顔に『納得してません』と書きながらも、ミカエルは三点セットの装備を解除してくれた。さっきまであったそれは何処かへと……というか個人の異空庫へと消えたのだが、まぁこれだけでも結構な魔法だよな。


「あ、あら、わたしは一般人じゃないわ」


 ロリ先輩は膝をプルプルと震わせながら、腕を組んで椅子の上へと立ち上がる。少しでもミカエルより高い位置に立ちたいのだろうが、危なっかしいとしか言いようがない。


「わたしの名前は西園寺ミノリ……」


 今明かされる先輩の名前、しかしてその正体は。


「この私立天津原高校の」


 はぁ。


「理事長の孫よ!」


 うん。


「孫よ!」


 すごいすごい。


「孫なのよ!」


 ――だから模型部の代わりにこんなアホみたいな部活残ってたのか、孫に激甘かここの理事長はよぉ。


「へぇ、僕はクライオニール公爵家の嫡男ですけどね」


 ロリ先輩改めて西園寺先輩の口上に徹底抗戦を見せるミカエル。やめろよ俺とヒナは庶民なんだぞ。


「父は勇者の仲間として共に戦った騎士王ガイアス、母もまた共に戦った大聖女エステルです。魔王討伐の功績をもって伯爵家より二階級の陞爵しました。まぁこれはグランテリオス王国始まって以来の出来事ですので、向こうの歴史の教科書にも乗っていますよ」


 流石グランテリオン王国民、中世並の身分制度が残る『本物』の身分の違いを見せつけていくぅ。


「ぐふっ、ふっ、ふぅ〜〜っ!」


 やだ先輩ガチ泣きしそうじゃん。


「まぁまぁミノリ先輩、異世界は異世界ですから。メロンソーダ飲みましょ、ね?」


 はい今ヒナが良い事言いました。よそはよそうちはうち理論で煙に巻いて、壁側にある古い冷蔵庫からジュースを取り出し紙コップに注ぐ。


「飲む」

「いや冷蔵庫あるのかよ」


 どう考えてもこの人数であっていい設備じゃないだろ冷蔵庫、全国まで行ったサッカー部ですら持ってないって聞いたぞ。


「理事長の……孫よ!」


 はいはい依怙贔屓依怙贔屓。


「それはもう聞いたっての……それでこの部活は何を」

「ふふん、どうやら黒魔術に興味があるようね」

「ええ、もし本当に黒魔術なら貴方を殺」

「いやー見たいなー黒魔術本当に見てみたいなー」


 魔術なんて昔飽きるほど見たのだが、ミカエルの口から問題発言が飛び出そうになるので仕方なく興味のあるフリをする。


「仕方ないわね、今年の文化祭に発表しようと思ってたけど……特別に見せてあげるわ」


 先輩はミカエルを指差すと、ドヤ顔で微笑んだ。さて、肝心の黒魔術なんだけど。


「……綾崎、ミュージックスタートよ!」


 と、命令されたヒナが冷蔵庫の上に置いてあった、古いラジカセのスイッチを押した。ああうん、この世界的に有名なBGMは。


 絶対に黒魔術なんかじゃないって。

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