第五話 長い一日①~神奈川~
結局アリエスとの一件の後、俺達はそれぞれの帰路に着いた。せめてヒナには事情を伝えるべきだったかもしれないが、お互い自分が思ってる以上に疲れてしまっていたのだ。
そして迎えた翌朝土曜日。
「すまんユウ、父さん達暫く家を開けるっ!」
朝起きるなり、忙しそうにバタバタと駆け回る父さんに拝むように謝られた。それぐらいの事は今まで何度もあったが、今回はどうやら毛色が違うように思えた。
「それは構わないけど、何かあったの?」
「ほら、この間ユウの友達から異世界の本を貰っただろ? その話を恩師にしたらさ、一緒に大学で解読する羽目になって。断れるなら断りたかったけど、もう話が進んで一大プロジェクトになってるみたいでさぁ……しかもどうせしばらく帰れないから、大学の近くのホテルも押さえてやったぞって」
着替えをスーツケースに押し込みながら、父さんが事情を説明してくれた。
「大学って神奈川にあるんだっけ……片道一時間ぐらいなら通えるんじゃない?」
「毎日ちゃんと電車に乗れたらね……」
ああうん、徹夜確定って事ね。
「ご愁傷様。父さんはわかったけど、母さんは?」
そして忙しそうにしているのは母さんも同じだった。父さんより荷物が多いせいか、先程から居間と寝室を忙しそうに往復している。
「助手……って言えば聞こえは良いけどお手伝いさんね。ご飯とか用意したり、お洗濯したり。急な事だからそういう人手も足りないみたいで」
「なるほどね」
「もしかしたらアレ持ってきて〜とか頼むかもしれないから、その時の交通費は領収書もらっておいてくれよな」
「お金はいつもの所に入っているから……足りなかったら連絡してね?」
荷造りを終えた父さんと母さんが玄関に向かうので、俺も見送りについていく。
「大丈夫、そんなに使う予定ないから」
仏壇の引き出しの中には十万ぐらい入っているが、全額使う事はないだろう。まぁ少しぐらいの贅沢はさせてもらうかも知れないが。
「じゃ、聡志いきまーす!」
「戸締まりには気をつけてね」
両親が思い思いの挨拶をすれば、急いでエレベーターへと向かった。さて取り残された俺はと言えば、リビングの脇に溜めてあるチラシの束を手に取って。
「何食うかな……」
とりあえず金もあるし、豪華に出前でも取ろうか。やはり定番の寿司かピザ……いやパエリアなんて選択肢もあるな。いやここは俺の好物の鰻を頼んでだな。
なんて事を考えていると、インターホンが鳴り響く。
「なに、なんか忘れ物?」
大方父さんが忘れ物でもしたのだろう……なんて思っていると、そこにいるのはヒナだった。その後ろにはミカエルとアリエスが申し訳無さそうに立っている。二人とも誰が用意したのか私服に着替えていて、少し新鮮な気分になる。
俺はまぁ、寝巻きのTシャツとスウェットだけどさ。
「おはようユウ、いきなりだけど聡志さんいる?」
「残念、丁度今仕事に行ったよ……しばらく帰ってこれないってさ」
「海外?」
「神奈川」
そんな俺達のやり取りを聞いていたのか、ミカエルが残念そうに呟く。
「そうですか、ご挨拶をしたかったんですが……」
わかったからそのカノジョ懐に仕舞おうか。さて、とりあえず客人を玄関に立たせっぱなしというのも気が引けるので。
「とりあえず上がってく?」
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