回想 勇者の願い
願いがあった。こんな自分にもたった一つだけ叶えたい願いがあった。
だがそれは叶わない、永遠に叶う事はない。
「今この時をもってして、晴れて貴殿は『勇者』となる」
貴族達に囲まれ、玉座の間にて俺は跪く。アインス=エル=グランテリオス王太子に向かって俺は頭を垂れていた。
「名を持たず、我欲を持たず、世界を救う一振りの剣である」
王は病に伏せていた。聞いた所によると、もう長くはないとの噂だ。
「血の一滴を世界に捧げよ、その命を王に捧げよ」
偉大な王の名代として、アインスが口上を続ける。あいつと同じ黄金の髪に、あいつと同じ翡翠の瞳。
――殺してやりたい。
そう願った瞬間、悔しさで拳を握りしめていた。
俺の願いは、アインスを殺す事だった。俺の兄弟を殺した男を地獄に送る事だけが、勇者ではなかった俺の唯一の望みだ。
アインスは側仕えから聖剣を受け取ると、俺の肩に刀身を乗せる。そして勇者である証を、この俺に下賜をする。
「お前の命は私の物だ……せいぜい私のために戦え」
俺にしか聞こえない距離で、アインスがそう呟く。この刃で切り捨ててやりたかった、この拳で殴り飛ばしたかった。
だけどもう、そんな事は許されない。
「世界の嘆きを耳に聞け、世界の怒りに身を任せよ……ユリウス=エル=グランテリオスが嫡子、アインス=エル=グランテリオス王太子が命ずる」
俺の嘆きは許されない、俺の怒りなどあってはならない。
「貴殿は」
何故なら、俺は。
「……世界を救う、勇者であれ!」
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