真夜中の侵入者(Bパート)


 ※心霊ホラー注意


 山奥にある大きな館は、このあたりでは有名な心霊スポットだ。

 100年くらい前からあるという噂で、取り壊されることもなく存在しつづけている。


「おい、マイク。ビビッてんじゃねぇよ」

「び、ビビッてなんかないよ。ボブの方こそ、足が震えてるじゃないか」


 心霊スポットといえば肝試し。

 マイクとボブは、近くまでキャンプに来たついでに、噂の心霊スポットまでやってきた大学生だ。


 二人はボブを先頭に、朽ちて扉が外れている玄関から入り、懐中電灯で足元を照らしながら土足で上がり込んだ。

 板張りの廊下は、踏めばギシィとひどい音がするし、穴だらけで足の踏み場に困る。


 間違っても落ちるようなことがないよう、マイクが足元を照らしながらゆっくりと進んでいく。


「ねえ、ボブ」とマイクが小声で話し掛けると、「な、なんだよ」とボブが震え声で返事をする。強がってはいるものの、二人の心中は戦々恐々としていた。


 わざわざ心霊スポットに来るような人は、むしろ怖がりであることが多い。

 幽霊やオバケといった存在を、多少なりとも信じているから『心霊スポットに行こう』という発想が出るのだ。信じているから、怖いのだ。


「これってさ。どうなったらクリア……っていうか、ゴールなの?」


 ただ『心霊スポットに行く』という目的だけで館に入ったマイクは、ふと疑問を口にした。


 聞かれたボブも、特になにも考えていなかったのか「そりゃ、お前」とつぶやいた後、しばらく黙り込んだ。


 館の全てを回る、とするには情報が足りない。

 見取り図を持っているわけではないので、どこをどう回れば良いのかわからない。


「そうだ! 証拠の記念品を持って帰ろう!」


 これしかない、とばかりにのボブに対して「記念品?」とマイクは訝しげな声をあげる。


「だからさ。この家にあるもので記念になるようなものを探して、持って帰るのさ。出来れば簡単に手に入らないようなものがいいな。古い館だからもしかすると値打ちものが残ってるかもしれないぜ」


 先ほどまでの怯えはどこへやら。

 ボブはすっかり宝を探しにきたトレジャーハンターの顔つきになった。


「え……、それってどろぼ――」

「しっ! 静かにしろ」


 突然、ボブが身構えるような体勢になり、マイクは言葉をさえぎられた。

「いま、なにか聞こえただろ」


 これまでよりもっと抑えた、掠れるような声のボブが大げさに見える。


「え!? なにかってなにさ!?」

「だから、なにかはナニカだよッ!」


 とにかくなにかが聞こえたんだ、と主張するボブに対して、恐怖と不信感が半々のマイクは「騙そうったってそうはいかないぞ」と抵抗する。


 そのとき、屋敷の奥の方からゴン、ガン、と鈍い音が響き、二人は静かに顔を見合わせた。


「わああああ!」


 声を揃えて悲鳴を上げ、二人は入ってきた玄関の方へと一目散に走っていった。


「待て、待て待て」


 息を切らして玄関前まできたマイクだったが、ボブに腕を引かれ、それ以上逃げられない。


「もういいよ。帰ろうよっ」

「バカッ! あんなの物音だけじゃないか。俺はもう一度行くぞ」

「えええぇぇぇ。イヤだよ、帰ろうよ」


 館の奥へ引き返そうとするボブを、今度はマイクが引きとめる。しかしボブは止まらない。


「いいよ。俺だけで行くから、マイクはそこで待ってろ」


 待ってろと言われても、こんなところに一人残されるのも怖い。

 一緒に引き返す方がまだマシと、マイクも渋々ついていく。


 再び穴だらけの廊下を歩き、突き当りの扉を開けると、そこはリビングだった。

 奥にはダイニングとキッチンも繋がっている。


「ここなら、なにか持って帰れるものがあんだろ」


 ボブの言葉に、マイクは内心「やっと終わりか」と胸をなでおろす。


「じゃあ、早く帰ろう。もう疲れ――」


 パリン、とマイクの隣でなにかが割れた。

 恐る恐る懐中電灯で足元を照らすと、砕けた皿が散らばっている。


 これは元からあったのか。

 それにしては割れる音が顔の近くで聞こえた気がする。


 ――まさか……ッ!?


「ボブ! なんか変だよ。帰ろう!」


 マイクはボブの腕を引っ張って、外へ連れて帰ろうとするが、ボブの身体はピクリとも動かない。


「ボブ! ボブ!!」


 必死で声を掛けるが、ボブは「あ、う」と言葉にならない声を漏らすばかり。

 顔を見れば、目の焦点が明らかに合っていない。


 再びガシャンと何かが割れる音が響いた。

 さらにガタガタと棚が揺れ、テーブルや椅子も動き出す。


「ポ……ポルターガイスト!? わああぁぁぁっ!!」


 恐怖に駆られて、マイクは脱兎のごとく逃げ出した。

 懐中電灯も投げ捨て、通ってきた廊下を走り抜けた。



 マイクはそこから先の記憶が無い。

 気がついたら、病院のベッドの上にいた。

 霞む視界には、心配そうに自分の顔を覗き込む家族の姿。


「ボブは?」と尋ねたマイクに、答えをくれる者は誰もいない。


 ボブは行方不明になっていた。

 もちろん館の中も捜索されたが、無人だったそうだ。


 ボブはまだあの館にいる、とマイクは確信しているが、もう一度あの館へ足を踏み入れる勇気は無かった。




          【Bパート 了】

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