狩猟の季節(Aパート)
――2×××年
ついに我々は外宇宙への進出を果たした。
無数の星々の中には、長年探し求めていた『知的生命体』の存在も確認された。
残念ながら、我々と同程度の技術力を保有する存在を見つけることは叶わなかったが、様々な未知なる生命体の発見は『外宇宙レジャー』の発展へと繋がった。
外宇宙に広がる雄大なる自然の中で、余暇を過ごすという人も増えた。
今や、『外宇宙レジャー』は我々にとって無くてはならないものとなった。
§ § § § §
待ちに待った季節がやってきた。
外宇宙にある星で、現地の動物の狩猟が解禁されるのである。
種の保存のため、狩猟可能エリアと狩猟期間には制限がある。
レジャーのために、外宇宙の動物を絶滅させてしまうようでは、宇宙を開拓する資格などないからだ。
私がベースキャンプに降り立つと、すでに見知った顔のハンター達が集まっていた。みな、今日という日を待ちわびていたに違いない。
「あら、エインじゃない。遅かったわね」
ひとりの女性が、手を挙げて私の方に近づいてくる。
彼女の名はリア。女性ながら凄腕のハンターで、私のライバルでもある。
「はっはっは。『本命は遅れてやってくる』って言うだろ?」
「ふぅん。ずいぶん自信があるみたいじゃない。それじゃ、私と勝負する?」
「おっ。いいねぇ。受けて立とうじゃないか」
ここで芋を引いて逃げるような私ではない。
リアに私の腕を見せつけるいい機会だ。
勝負の内容はわざわざ説明する必要もないだろうが、簡単に言えば『狩り比べ』だ。
「武器は?」
「もちろん弓さ」
私たちはそれぞれの弓を見せ合って、ニヤリと笑った。
弓とは旧世代も旧世代、気が遠くなるほど昔から使われている武器。
太古の昔、戦争にも使われていたと伝わる、原始の狩猟道具である。
もちろん私たちが持っている弓は、最新技術の粋を集めた軽くて丈夫な新素材でできている。過去の弓とは比べ物にならないほど命中精度も殺傷能力も高い。
「さすがね。ちゃんと、わかってるじゃない」
「外宇宙の星々をこよなく愛するハンターとしては当然のマナーさ」
最新鋭の武器である光線銃は、その性質上、星の環境に若干の影響が出るということが近年の研究でわかった。
もちろんハンティング用の光線銃は、軍の装備に比べれば環境への影響は少ないだろう。
しかし、私たちがやっているのはあくまでレジャーなのだ。
これからもレジャーを楽しむために、可能な限り星の環境に配慮するのは至極当然のことだ。
周りのハンターたちも半数以上は弓、投げ斧、投げ槍といった環境に配慮した武器をその手に持っている。
ハンティング用の光線銃を手にしているのは初心者か、ハンティング体験の観光客。またはその両方だ。
「それじゃ、勝負は数ってことでいいかしら?」
「構わないけど……、そうだな、獲物の種類だけは決めておこう」
「オーケー。いつものヤツでいい?」
「ああ。この星の名物といえばアレだからな」
これでルールも決まった。
私たちは、正々堂々と勝負をすることを誓って二手に別れる。
制限時間は日没まで。
私は
いつもどおり巣はすぐに見つかるが、中はもぬけの殻だ。
ヤツラは私たちが狩猟をはじめると、それを察知して巣から避難する習性がある。
「ここまでは、いつもどおり」
ヤツラは日常的に使用する巣とは別に、地下に強固な退避用の巣を持っていて、危険が迫ると一斉に逃げ込む――と、生態調査レポートにもしっかり書いてある。
「退避用の巣を見つけたことがある」というハンターによると、ハンティング用の光線銃では傷ひとつつかなかったそうだ。
つまり逃げ込まれたら諦めるしかない。
「さてさて、逃げ遅れたヤツはどこかな?」
退避用の巣があるとはいえ、どうやら収容できる数には限りがあるようだ。
つまり逃げ遅れたヤツは退避用の巣には入れない。
なら、どうするか……。もちろん、隠れるしかない。
ヤツラは椅子取りゲームをしたあと、負け残りでかくれんぼをするわけだ。
そして鬼役は私たち。
フライトバイクをゆっくりと走らせながら、獲物が隠れていそうな場所を探す。
「Ahyaaaaaaaa!!」
聞こえた! 獲物の鳴き声だ!!
私はフライトバイクのアクセルをベタ踏みして、鳴き声がした方へと走らせる。
「……なんだ、お前か」
そこには心臓を矢で撃ち抜かれて大の字に倒れた獲物と、それを亜空間ボックスに入れようとしているリアの姿があった。
「ひと足遅かったわね。このあたりに隠れているのは狩り尽くしちゃったわよ」
彼女はドヤ顔でそう言った。
どう見ても憎たらしい顔なのに、なぜか憎めない愛嬌がある。
「なぁに。勝負はこれからさ」
「そうね。ボウズなんてことにならないように、頑張ってね」
リアはフライトバイクに
悔しいが現況は劣勢だ。
「クソッ」
ガンッ!! ゴン、ガラン、ガラン!
しまった。
私としたことが。
怒りに任せて地面に落ちていた金属の缶を蹴り飛ばしてしまった。
紳士としてあるまじき行為である。
誰かに見られてやしなかったか、と辺りに注意を配っていると、
「kyaa!!」
金属が転がっていった方向で、小さな鳴き声が聞こえた。
私はニヤリと笑ってフライトバイクを飛ばす。
「見つけたぞッ! ははははははは!」
「iyaaaaaaaaa!!」
気分が良くて笑いが止まらない。
普段なら見逃してしまいそうな小さな巣の陰に、幼体の獲物が5匹も隠れていたのだから。
「なにが『このあたりに隠れているのは狩り尽くしちゃった』だよ。こんなに残ってるじゃないか」
恐怖からか、逃げることも出来ず、5匹で固まって震え鳴いている獲物をキッチリ射殺し、無造作につかんで亜空間ボックスへと放り込んだ。
「フンフンフーン♬」
自然と鼻唄が出る。
狩りを初めて2時間で5匹も拾えるなんて幸先が良い。
私はそのまま上り調子で狩りを続けた。
「勝負は私の勝ちだな」
「そんな……なんてこと!?」
日没となり、ベースキャンプへ戻った私たちは猟果を比べる。
私はあのあと成体を2匹狩って合計7匹。
リアは成体が5匹。
つまり私の勝ちである。
「数じゃなくて重さで勝負しておくんだったわ!」
「はっはっは。ルールはルールだ」
「く~や~し~い~!!」
地団駄を踏んで悔しがるリアにむかって、私は幼体を1匹放り投げる。
「ほら。おすそ分けだ。幼体は成体より臭みは少ないし、肉も柔らかい。美味いぞ」
「ううぅぅぅ。……ありがとぅ」
ここで意地を張らないのが、リアのカワイイところだ。
勝負を制したついでに、私は少しだけ勇気を出してみることにした。
「あー、その、なんだ。良かったら一緒にメシ、食わないか?」
「え?」
「それ。さばいて……やるよ。ついで、だからさ」
返事を待っている私の顔は、きっと真っ赤になっていたと思う。
「じゃあ、お願いしちゃおっかな」
リアはそう言ってニッコリ笑った。
絞り出した勇気が無駄弾にならずにすんで良かった。
私もホッとして笑顔がこぼれた。
【Aパート 了】
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