狩猟の季節(Bパート)


 まさか本当に『宇宙人』なんて存在が現れるなんて、当時の人々は誰も予想していなかった。


 それは昼下がりのことだった。

 突如、ワシントン上空に出現した大型の飛行物体に全世界が注目した。

 テレビやラジオはもちろん、ネットニュースでさえも飛行物体のことばかり報じる緊急事態。


 当時、大国同士の小競り合いと、その代理戦争が繰り広げられていた地球で、全ての争いが止まった歴史的な瞬間でもある。


 人類は国の垣根を超えて団結し、飛行物体とそこから現れた侵略者との戦争を始めた。


 友好的な交渉は一切出来なかった。なぜなら、会話どころかコミュニケーションが一切通じなかったからだ。


 そもそも生物というものは、ある程度自分たちと近い知能レベルの種としかコミュニケーションを取ることができない。

 それは人間と動物の関係を想像すれば理解しやすい。人間は犬や猿はもちろん、イルカやアシカにも芸を仕込むことができる、しかし昆虫に芸を仕込むことは困難だろう。


 つまり宇宙人にとって、我々は虫けらのようなものだったらしい。

 

 もちろん、人類は彼らとの戦争に負けた。



§   §   §   §   §


春樹はるき! 春樹! どこにいるの!?」


 日が沈み、宇宙人バケモノがいなくなった市街地に、悲痛な声がこだまする。

 逃げる途中で息子とはぐれてしまった母親が、我が子を探してさまよっていた。


 この地球を支配したヤツラは、この星に常駐することは無かったが、時おり小規模のグループが現れては、人々を殺して持ち去っていく。


紗理奈さりなー! 紗理奈ちゃーん! お願いだから返事をしてーー!!」

「誰か! 誰か、うちのあやを見ませんでしたか!?」


 子どもを探している親、伴侶や両親を探している人、宇宙人が去ったあとにはいつもこうした捜し人の声が響き渡る。


 どの国の軍隊も歯が立たない相手に対し、人類はシェルターの増設で対抗するのが精いっぱいだった。


 どういうわけか、宇宙人は夜になるといなくなる。

 だから、宇宙人がこの星に近づいてきたらシェルターへと避難して、夜までやり過ごせば再び平穏な日常に戻れるのだ。


 もちろん全員がシェルターに入ることはできないが、それでも行方不明者の数は地震や津波といった自然災害のときよりも少ない。


 襲撃される場所もまちまちで、自分達の住む国・地域が襲われる確率はそれほど高くない。


 皮肉なことに、人類同士が戦争をしていた頃よりも死傷者の数は減っているというデータも出ているし、心なしか空気も綺麗になった気がする。



 しかし、慣れというのは怖いもので。

 宇宙人の襲来も人類にとっては『自然災害のようなもの』という認識へと変わりはじめた。


 人類が宇宙人という存在に慣れ、国家間の戦争を再開させるのも時間の問題かもしれない。




          【Bパート 了】

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