運命の出会い(Bパート)


 田舎の寂れたゲームセンター。

 その入り口に目当てのものがあった。


 明日香あすかは走って駆け寄ると、後ろを向いて母を呼んだ。


「ママ! ママ! これがいい!! これやりたい!!」


 明日香が指を差した先にあるものは『カプセルトイ』が詰まった筐体。

 前面にある台紙には、明日香が毎週楽しみにしているアニメ『魔法少年少女・プリンセスプリンス』のイラストと一緒に、ラバーマスコットの写真が載っている。


 しかし母は小さくため息をつくと、首を横に振った。


「ダメよ。この前もやったばかりでしょ」


 母の言い分は、明日香には全く理解が出来なかった。


 この前もやった。確かにやった。

 だったら、どうして今日はダメなのか。


 この前もやらせてくれたのだから、今日だってやらせて欲しい。

 にべもなく要求を却下された明日香は、怒りと悲しみの感情が爆発してしまう。


「やだ。やだ。やだぁ。やる! やりたい! やるのぉ!」


 カプセルトイの筐体にしがみつき、必死で駄々をこねる。

 母はそんな明日香を筐体から引きはがそうとするが、全力でしがみつく子どもの力が筐体を揺らすばかり。


 左に揺れ、右に揺れ、中に入ったカプセルがガラガラとぶつかる音がした。


 先に折れたのは母だった。


「もう! しょうがないわね。1回だけよ」


 その言葉を待っていた!

 さっきまで泣き叫んでいた明日香は、満面の笑みで母を見上げる。


「うん! ありがとう、ママ!! ママだーいすきっ!!」

「まったく。調子がいいんだから」


 そう言って母は明日香に100円玉を2枚渡した。

 明日香はそれを両手で大切に受け取ると、すぐさまコイン投入口に押し込む。


 チャリン、チャリン。

 小気味よい音を立て、200円が吸い込まれていく。


 あとは筐体に備え付けられたハンドルを回すだけ……なのだが、幼い明日香の手ではこれを回すのも一苦労だ。


 明日香は『プリンセスプリンス』に出てくる王子様『コーイチ』が当たりますように、と願いながらゆっくりとハンドルを回す。


 コーイチは、サラサラしたストレートの金髪と、翡翠色の瞳がチャームポイントのメインキャラ。

 決め台詞は「人事を尽くして天命を待つ」という、勤勉で努力家の王子様。

 男女2名ずついるメインキャラの中でも、女性主人公に次いで2番目の人気を誇る。


 コトン、と軽い音がした。


 明日香はカプセル取り出し口に手を突っ込み、金色のカプセルを掴み上げる。


「ママ! 金色だよ!! きっとコーイチが入ってるよ!!」


 コーイチの髪色と同じ色のカプセル。

 否が応でも明日香の期待は高まっていく。


 明日香が無言で差し出した金色のカプセルは、母が両手にグッと力を込めるとパカリとふたつに別れた。

 カプセルの中に入っていた透明な袋を「はい」と差し出され、明日香は「ありがとう!」と大喜びで受け取った。


 しかし袋の中からは――筋骨隆々の裸の男性、おそらくプロレスラーであろうキャラの消しゴムが出てきた。

 もちろん『プリンセスプリンス』にこんなキャラはいない。

 メインキャラどころか敵キャラにだって、こんなブサイクでゴツいキャラは存在しない。


「なんで!? なんでプリプリのガチャガチャにオジサンがいるの!?」


 明日香の目にジワジワと涙がたまってくる。

 同時に、感情のバリケードは秒速で決壊した。


 カプセルトイの筐体を前に泣き叫ぶ明日香。

 もう我慢の限界とばかりに明日香を抱えた母は、「いい加減にしなさい!」と怒鳴り声を上げながら、早足でその場を離れる。


 ゴツいプロレスキャラの消しゴムは、その場に放り捨てられた。

 その様子を静かに見下ろすカプセルトイの筐体は、ずいぶんと年季が入っている。


 プリンセスプリンスのイラストが描かれた台紙だけが真新しい。

 しかし見る者が見れば、それが正規のメーカーによって製造された台紙ではなく、イラストをどこかから持ってきて印刷した手作りの台紙であることに気づくだろう。


 そして台紙の右下には小さく、そして薄く、こんな注意書きが書かれていた。


『写真の見本以外の品もいろいろはいってます』




          【Bパート 了】


※筐体の仕組み上、起こり得ない現象が記述されておりますが、物語フィクションとしてお楽しみください。


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