繰り返す白雪姫(Aパート)


「あれ? どうしてこんなところに?」


 目を覚ましたら、全然知らない場所に座っていた。

 どうやらさっきまで棺の中で寝ていたみたいで、上半身だけ起こしたところ。


「わあ! 白雪姫が目を覚ました! ばんざーい!!」

「ばんざーい」「ばんざーい」「ばんざーい」

「ばんざーい」「ばんざーい」「ばんざーい」


 棺を囲んでいた七人の小人たちが、周りで小躍りをはじめた。

 そうだ、思い出した。

 おばあさんと半分こしたリンゴをひと口かじって、そのまま倒れたのだったわ。


 そんなことよりも、気になることがもうひとつ。


「あなたは、だぁれ?」


 私の顔を覗き込んでいる男の人。

 とても立派な身なりをしていて、動作がとても優雅な人。


 その人はとてもやさしく笑って言った。


「ワタシは隣の国の王子デース。アナタのことが世界中のなによりも大切なのデース。さあ、お城へいっしょにいきまショウ!! そしてアナタには、ワタシのお嫁さんになって欲しいのデース」


 そっかあ。隣の国の王子だもんね。

 一生懸命、こっちの国の言葉を話してくれているんだ。


 気持ちはとても嬉しいけど……ちょっとエセ外国人って感じでイヤだわ。


 とはいえ、ここにいても、命を狙われるだけだし。

 折角の申し出をお断りするのも申し訳ないし……。


 仕方ないわ。


「わかりました。あなたについていきます」


 私は王子様の差し出した手を取り、棺から立ち上がった。


 ――そこで目の前が真っ暗になった。



「あれ? どうしてこんなところに?」


 目を覚ましたら、さっきと同じ景色が広がっていた。

 私は棺に座っていて、周りを七人の小人が囲んでいて、王子様が心配そうな顔をしている。


 さっきのは夢?


「わあ! 白雪姫が目を覚ました! ばんざーい!!」

「「ばんざーい!!」」「「ばんざーい!!!」」


 小躍りをはじめる七人の小人たち。

 夢にしては既視感が強すぎるというか、全く同じ時間をもう一度体験しているような、でもちょっとだけさっきと違うような……。


 いったい何が起きているの?


 もしかして、おばあさんと半分こしたリンゴの呪いかしら。


「あなたは、だぁれ?」


 頭は混乱しているのに、なぜか言葉だけはスムーズに出てくる。

 それも、さっきと全く同じセリフを、さっきと同じテンションで。


「わたしは隣の国の王子デス。あなたのことが世界中のなによりも大切なのデス。さあ、お城へいっしょにいきまショ。 そしてあなたには、わたしのお嫁さんになって欲しいのデス」


 良くなってきた。良くなってきたよ。

 でもここまで来たら、もう少しだけ期待してしまうのは欲張りかしら。


「わかりました。あなたについていきます」


 私は王子様の差し出した手を取り、棺から立ち上がった。

 もう一度、この世界をやり直せることを祈りながら。


 ――そこで再び、目の前が真っ暗になった。 



「あれ? どうしてこんなところに?」


 よしきた!!

 三回目のチャレンジ。三度目の正直よ。

 

 棺、よし!

 七人の小人、よし!

 心配顔の王子様、よし!


「わあ! 白雪姫が目を覚ました! ばんざーい!!」

「「「ばんざーい♪♪♪」」」


 三回目ともなると、「ばんざい」のタイミングもバッチリだし、ちょっと歌っちゃってるし。でも、これはこれで喜びがあふれている感じでアリだわ。


 問題は王子様よ。あなたなら出来る。

 私、あなたを信じているわ。


「あなたは、だぁれ?」


 さあ。最高のあなたを見せて頂戴!


「わたしは隣の国の王子です。あなたのことが世界中のなによりも大切なのです。さあ、お城へいっしょにいきましょう。そしてあなたには、わたしのお嫁さんになって欲しいのでしゅ」


 でしゅ!?

 惜しい! 噛んじゃった!!

 そこ以外は完璧だったのに!!


「わかりまふふっ。あなたに……ごめんなさい。ふふふっ」


 さっきまで機械のように同じセリフを繰り返していたのに、ついつい笑ってしまった。だって、すっごく真面目な顔で噛むんだもの。


 私は王子様の差し出した手を取ることなく、目の前が真っ暗になった。



「あなたは、だぁれ?」


 おっと!

 四回目は、まさかの前半を省略してのスタート。


 さあ、王子様!

 バシッと決めてちょーだい!!


「わたしは隣の国の王子です。あなたのことが世界中のなによりも大切なのです。さあ、お城へいっしょにいきましょう。そしてあなたには、わたしのお嫁さんになって欲しいのです」


 決まったあああ!!

 これは完璧な王子様!!!


「わかりました。あなたについていきます」


 私は王子様の差し出した手を取り、棺から立ち上がった。



 ――目の前が真っ暗なり、再び目を開けると、舞台は婚礼の式へと移っていた。




          【Aパート 了】

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