桃太郎と桃御前(Aパート)


 むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。おじいさんとおばあさんは、まいにち話し合ってその日の仕事を決めます。今日はおじいさんは山へしば刈かりに、おばあさんは川へ洗濯に行くことになりました。明日は交代しているかもしれません。


 おばあさんが洗濯をしていますと、川上から木の桶に入った大きな桃が一つ、ドンブラコッコと流れて来きました。


「まあ、なんて立派な桃じゃろうか」


 桶には『ご自由にお持ち帰りください』と書いてあったため、おばあさんはおじいさんへのおみやげに、この桃をうちへ持って帰ることにしました。


「これは立派な桃じゃ。どなたか知りませんがありがたや、ありがたや」

「さっそく、桃を切って――あれまぁ!!」


 桃はぽんと中から二つに割われて、「おぎゃあ、おぎゃあ」と勇ましいうぶ声を上げながら、かわいらしい男女の双子の赤ちゃんが元気よくとび出だしました。おじいさんとおばあさんは、この子たちにそれぞれ桃太郎、桃御前という名をつけました。


 しばらく経って。


「「どうぞ、わたくしたちにしばらくおひまをください」」


 大きくなった桃太郎と桃御前は、鬼が島にいるという悪い鬼を調べ、必要とあらば行いをただすように注意をしにいくことにしました。


「ほう、それはりっぱな考えだ。じゃあ行っておいで」

「そんなに遠くへ行くのなら、おべんとうをこしらえてあげましょう」


 おじいさんとおばあさんは、ふたりできびだんごを作り、おべんとうにきびだんごを持たせてくれました。


「「それでは、行ってまいります!」」



 桃太郎と桃御前は、道中で犬、猿、雉と出会いました。


「「「桃太郎さん、桃御前さん、どちらへ行かれるのですか?」」」

「鬼が島へ行くのだ」

「「「お腰に下げたものはなんですか?」」」

「おじいさんとおばあさんの愛がこもったきびだんごさ」

「「「ひとつ、わたしたちにもください」」」

「友だちになってくれるなら、いいよ」


 きびだんごをわけてお友達になりました。


 鬼が島の前に広がる海。

 桃太郎と桃御前は、漁師さんにおねがいして舟を貸してもらうことにしました。

 桃太郎がこぎ、桃御前が舵をとり、犬、猿、雉が見張りをしながら、舟は海をはしりました。


「ここが鬼が島か」

「おまえたちは、だれだ?」


 鬼が島には、鬼たちがしあわせそうに暮らしていました。


「私は桃太郎だ」「私は桃御前だ」

「そうか。なんの用だ?」


 桃太郎と桃御前はすばり聞きました。


「おまえたちが人々の村を襲って、宝ものを奪っているというのは本当か?」

「それはちがう。俺たちは奪われた宝ものを取り返しているだけだ」

「なんだって!?」


 はるか昔から、人と鬼は宝ものを奪ったり、奪われたりを繰り返しているそうです。もはや元々どちらのものであったのかも、わからないといいます。


 これは、なかなかむずかしい問題です。


 ところで、と鬼が桃太郎と桃御前の腰に下がったきびだんごを指差しました。


「その、腰に下げたものはなんだ?」

「おじいさんとおばあさんの愛がこもったきびだんごさ」

「ひとつ、俺たちにも貰えないだろうか」

「きみたちが人と友だちになってくれるなら、いいよ」

「おやすいご用だ」


 こうして鬼と人は争いをやめ、宝ものも分け合って、みんな幸せに暮らすことになりました。


 おじいさんとおばあさんの愛がこもったきびだんごが、みんなを救ったのです。


 めでたし、めでたし。




          【Aパート 了】

 

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