サンドバッグ(Aパート)
※いじめ描写注意
誰かを一方的に虐げる、これ以上に楽しい遊びなどきっと存在しない。
「ぐえっ、ごほごほっ。
足のつま先に伝わる感触。
足元で悶えている下等生物。
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。
圧倒的な征服感が俺の心を震えさせる。
「お前さあ、なんでまだ学校来てんだよ。つか、なんで生きてんの?」
「なんでって――ぐほっ」
返事なんかさせるものか。
下等生物の分際で俺に口答えしようなんて100年早い。
「下等生物が人間様の言葉をしゃべろうとしてんじゃねぇよ」
「かはっ。ごめんなさ――がはっ」
「しゃべんなっつってんだろうがっ! ああ、下等すぎて人間様の言葉を理解できねぇんだな。仕方ねェ。……なぁ、ガムテープとってくれ」
「あいよっ。拘束プレイか、咲田も好きだなあ」
俺の処刑を笑って見ていた
キャッチしたガムテープを15cmほど破いて、地面に転がる下等生物の口を塞いだ。
「ああ。でもこのままじゃ自分で剝がせちまうな。……よし、手も縛っておくか」
更にガムテープを破いて、下等生物の両手首を背の後ろに縛るようにグルグルと巻いていく。
されるがままにその身を拘束される下等生物を見ていると、心の奥底から嗜虐心がむくむくと湧いてきた。
俺は心が望むまま、再び右のつま先で下等生物の腹を蹴り上げる。
「んっ、んんーーーっ!!」
声にならない叫び声。
背がゾクゾクして日々のストレスが解消されていく。
「勉強しろ」「勉強しろ」「勉強しろ」
「東大以外は大学じゃない」
「東大に入れないクズに用はない」
「また成績が落ちているじゃないか」
「お前は本当に私の息子なのか?」
「なぜこんな簡単なことが理解できないんだ」
「頭が悪すぎて見ているだけで吐き気がしてくる」
「勉強しろ」「勉強しろ」「勉強しろ」
高校入ってから、大学受験に対する親からのプレッシャーは強くなる一方だ。
もう死んだ方が楽になるんじゃないかとまで思っていた俺は、高校三年のクラス替えで運命の出会いを果たした。
それがこの下等生物だ。
新しいクラスになったとき、あいつは既にクラスのヒエラルキーの最下層にいた。
友人として話し掛けるものはおらず、ストレス解消のはけ口としての存在。
高二であいつと同じクラスだったヤツに話を聞いたら、その頃から扱いは変わっていないらしい。
何をされても親や教師に泣きついたりはせず、ただ虐げられ続けてくれるサンドバッグ。高偏差値の進学校にだって、こういう存在は必要だ。
「今日はこの辺にしといてやる。さっさと自殺でもしてくれりゃ、その汚い顔を見ずにすむんだけどな」
これは半分本心で、半分はウソだ。
この下等生物に腹が立っていることは事実だが、本当に自殺なんかされたら騒ぎになるし、サンドバッグにいなくなられたらストレスのはけ口がなくなってしまう。
心の中では次はどういじめてやろうかと考えながら、しばらく下等生物を蹴り続けて満足した俺は数馬とタッチする。
「よっし。やっと俺の番か」
下等生物の顔が引きつった。
そうだ、俺はこれで終わりだがあいつの地獄はまだまだこれから。
数馬のあとにも、部活終わりの同級生があいつをなぶりに来るスケジュールになっている。
俺は自分があいつの立場でなかったことに、大きな安堵を覚えながら帰宅した。
「ただいま、帰りました」
「遅かったな。なにをしていた?」
家に帰ると父がいた。
俺のストレスの元凶であり、憎しみすら覚える。
「もちろん、勉強していました」
「そうか。……まあ、最近は成績も上位で安定してきたようだし、勉強の成果が出ているようだな」
「はい。父さんの期待に応えられるように頑張ります」
「そうあることを願っている。お前は特に……いや、いい。早く部屋に戻って勉強しろ」
何を言い淀んだのか。どうせお小言だろうが、言わずに押しとどめてくれるようになっただけでも大きな変化だ。
あの下等生物にストレスをぶつけられるようになってから、俺の成績はグングン上がっていった。俺だけでなく数馬をはじめとするクラスメイトにも、同じように成績が上がっている者が多くいるらしい。
あんな悲惨な人生を送っている下等生物でも人の役に立つことがあるのだ、と思うと世の中は本当によく出来ていると思う。
俺は部屋に入ると、あの下等生物が無様に転がる様を思い出しながら参考書を開いた。その日の勉強が捗ったことは言うまでもない。
【Aパート 了】
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