10、女装

前世で、女装という人はテレビの中にしかいなかった。

身近にはいなかっただけとも言うが。

この学園に女装している先生が一人いる。

美人なようで、惑わされる男子も数多くいるようだ。

女子とはメイクやファッションなどの相談を受けたりと人気の先生らしい。

文武両道で、怒った時のハスキーボイスがカッコいいらしい。

ある時、その先生は何日か休んだ後、女装を止めた。

どうしてと嘆く生徒たちに先生が言った。

「己の浅はかさと鍛錬不足を感じてね、変装に意欲を燃やすより己を鍛え直そうと思ってね」

それからは、美人な軽い先生はいなくなり、熱血な先生へと変貌した。

そんなことがあったのだと寮に戻ってから、シェル話した。

「先月、女装男に絡まれたので追い払ったことを思い出しました。その教師だったら、面白いですね」

「あっ、なんか言ってたね。街を歩いていたら、女装男に声かけられて、飯誘われたんだっけ?」

「はい、何か意図があるかと乗ったら、そのまま部屋に連れ込まれ……」

「襲われそうになったのをノシたんだっけ?」

「勘違い野郎だと思いましたので、少し神経回路に灸を据えたので、性格が変わるはずのですので」

「へぇ、本人だったら面白いね」

「そうですね」


後日、その元女装教師は、教師の身では自身を十二分に鍛錬出来ないと、教職を辞めて旅立った。

おかげで、生徒たちは安心した。

このゆるい学園で、唯一と言っていいほど暑苦しい教師がいなくなったからだ。

その教師の受け持っていた地理学では、教科書には載っていない歴史や有名人の裏話と熱く脱線して話していた。

勿論、女装美生徒たちには大不評。

他にも、時間が空いているからと剣術の教師の補佐まで買って出て、生徒を鍛え自分も鍛えると張り切り、やり過ぎ、また生徒の不評。

だが、アンは一人落胆した。

教科書には載っていない歴史が面白かった。

本気で剣を振る教師の一撃を受け止めるのが楽しかった。


「シェルー、オックタパス先生、教師辞めるんだってさー」

「聞きました、残念ですね」

「女装やめてから面白くなったのに……?聞いた?誰に?」

「本人から。先程、外で会いまして、前に話した女装男だったようです。おかげで霞が晴れたと感謝を述べられました」

「それだけ?」

「最強に至ったら、求婚すると言っていたので、またノシてきました」

「へぇー、いつか最強になって来るかも」

「あれには、無理でしょう」

「女性最強にそう言われちゃ、無理だ」

「無理ですね」

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