06、違いと新鮮味

こちらでの約十年弱の間、魔法を使いこなしてきた。

だが、前世の15年の記憶が蘇ってきたせいで、仕切り直しとばかりに小さな事でも感動すらしてしまう。

あちらでは、コントローラーやタッチ画面でコマンドを選択して、自分ではないアバターが出していた魔法。

それが、こうも簡単にポンッと出る。

水が欲しければ水を出し、風呂の湯加減が今ひとつなら熱湯を出せば済む。

アンダーツゥ・モーレイは水を操る。

そして水は、見えるものなら霧から氷まで幅広い。

しかも、今は前世の記憶で、動植物の体は半分以上が水分なのだという一般常識は、こちらでは曖昧。

花を手に取り、花の内蔵水分を抜き取ってしまえば、干す作業なくドライフラワーが簡単に作れてしまう。

魔物でさえ、内蔵水分をある程度抜いてしまえば、立ち上がる事さえ出来なくなる。

体内の悪しものを水分として、体外に抜くことも出来きる。

だから、水属性を操れる者は、体内外で分子レベルで起こっている現象の詳細を知らずともヒーラー等といった役職に適応する。

だがしかし、ボッチでRPGやるには、ヒーラーは不適切。

というか、魔法コマンド選ぶより、スキルコマンド選びたい。

魔法ズドーンじゃなくて、剣をザシュッと振り下ろしたい。

その為には、何をするべきか。


「でしたら、体力強化をオススメします」

「だね。こんなほそっちい腕じゃ、振り下ろすとか無理」

「……私の腕、太いですか?」

ヒラヒラと手首を振っていると、シェルにそんなことを言われて気が付いた。

「シェル細いじゃん!」

「肉体強化がご希望なら、替えの服を用意してからにしてください。今までの服は全てオーダーメイドでしたので、肉体強化すれば、服屋は儲かりますが……」

「えっ?体力と肉体って違うの?!」

「体力強化は体の力を強化するもので。肉体強化は筋肉を含めた体を強化するものですが、その記憶は?」

「……なんとなく。ワタクシって魔法頼りなのだから、体力など気にする必要がないもの。あー、こっちとあっちの一番の違いー。あっちは体力と筋肉はピッタンコ。体力ないのって筋肉ないってやつ」

混同する記憶でふっと思うことは、こっちで子供っぽさもなく生きてきたのは、あちらでの15年+年齢だったからと気付いた。

子供と大人の時間の速さの違いに、新鮮味が重要な役割を締めていると漫画で学習した。

前世ではゲームも好きだが、漫画も好き、小説は文を映像に変換するのが面倒で止めた。

だが、今世はゲームや漫画がない世界であり、娯楽の一つは小説だから、読むとしたら

アンの物事を達観して、子供っぽさがないと言われた原因が遂に判明した訳だ。

「どちらにします?」

「当然、ベリショで、それと体力で」

ヘアカタログのベリーショートを指差し、髪の長さを指定した途端、すっとする頭で、縦巻きロールが落ちていくのをコマ送りのようにゆっくりと観察した。

新鮮味……縦巻きロールが落ちる瞬間。

ぱねぇっ。

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