50、勇者オーシャーンと仲間たち

とある伝記本がある。

絵本と大人向けでは、後半の内容が変わる不思議な本だ。


『勇者オーシャーンと仲間たち』

昔々、凄い剣を持つ勇者オーシャーンが魔王退治に旅立った。

旅の途中、立派な盾を持つ騎士を見つけたオーシャーンは言った。

「立派な盾だ!一緒に魔王退治に行こう!」

「お前も凄い剣だ!いいぞ、行こう」

立派な盾を持つシーコーストが仲間なった。

しばらくすると、素敵な杖を持つ魔法士を見つけて言った。

「素敵な杖だ!一緒に魔王退治に行こう!」

「君は凄い剣だね!いいよ!行こう」

素敵な杖を持つ魔法士ベイビーチが仲間になった。

魔王城がある大陸に来た3人は、立ち寄った宿屋で強そうな旅人を見つけたオーシャーンは言った。

「強そうだ!一緒に魔王退治に行こう!」

「君たちは弱い、だから断る」

その言葉に3人は、一生懸命に鍛えた。

沢山の依頼を受け、沢山人助けをすると3人は有名になっていった。

王様に呼ばれるくらい有名になった3人は、また旅人に声をかけた。


ここから、話の中身が変わってくる。


絵本では、「一緒に行こう」「分かった」と旅人シャーマクは二人の友を連れ、計5人で魔王城に向う。

魔王城に近づくにつれ多くなる魔物たちをなぎ倒す。

魔王城の前を守る、数千の魔王軍を倒した!

そして、魔王を打倒し、世界の平和を築いた~完

簡潔にするとこんな感じ。


本では、「師匠方、魔王討伐にご助力頂けますか?」

「まだ早い、死に急ぐようなことはするでない」

「俺達、子供が出来たんです!子供達には平和な世の中で育って欲しいのです」

「3人共か?」

「「「はい、同時期に生まれるそうです」」」

王国の姫や公爵令嬢などと結婚するまでになっていた3人は、一律に渋い顔。

「お前たちが死んだら元も子もない……俺達が行ってこよう。だが、その事実を知るのはお前たちと奥方たちだけだ。功績はお前たちにやる、でなければお前達に魔王退治に行って死ねと言うだけだ」

「ですが、師匠!国王を欺くなど」

「……あー、国王には俺から伝える。他には他言してはならぬ。奥方たちもな」

ここからは要約にする。

渋々頷いた三人と別れ、旅人は仲間二人と旅立ち、幾多の魔物をなぎ倒し、世界を救ったのはわずか2年後のこと。

旅人のシャーマク、モーレイオ、シウーガヌースの3人は語られることのない英雄となった。

そして、巻末にはこう示されている。

『ここに記録されているのは、当時の国王記録と口伝を集めた伝記である。

まだ知られていない口伝などをご存じの方は、下記の住所に一筆を求む』


密かに伝わっていたのを集めた奇人のおかげで、巻末が違う伝記が出来上がった。

しかも、本の方は国王記録要約本だけでなく、口伝録が何冊もある大作となっている。

その上、伝記を元にしたフィクション作が何十冊も出てもいる。

語られることはない3人は、今や知らない人はいない英雄として名を残している。

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