14、帰宅指示
「アン、帰宅指示によくぞ逃げずに来た」
帰宅後すぐに軽く身支度を整え、すぐに母の書斎へ向かい開けると同時に、母はそう褒めた。
「指示ですもの、すね噛りの分際で逆らうことは許されませんわ」
「分かっているならよい。して、そのカツラは?」
屋敷の使用人達は欺けたが、母にはあっさりとカツラを見破られて、後ろのシェルに合図。
すぐに、すっとする頭を軽く撫で付けた。
「髪は目的遂行には、不要と判断して排除。それと、#鬘__これ__#は、使用人達への要らぬ心配をさせない為ですわ」
「その目的は、星を得る為で間違いないな」
「その通りですわ」
バレているのは承知のこと、でなければ帰宅指示などという命令はおりてこなかっただろう。
「それは、我らを捨てるということか?」
「阻むのであれば家名を捨てる気概で望んでおります。このまま傍観を決めていただけるのなら、さらなる星を得てのちにモーレイの名を掲げることと決めております」
今は、アンと略名しか登録していない、どこにもモーレイの名は出さずに活動している。
「なるほど、家名を……家族を捨てるとな……」
組んだ手を解き、立ち上がるとカツカツと近寄ってきて、手を大きく上げた。
「だめー!!!!アンちゃんはどこをどうやっても、何しててもうちの子、私の子なの!許すに決まってるじゃない」
そうガバっと抱き締められると同時に後ろのドアや他のドアも開き、次々と家族が雪崩れ込む。
「ねぇちゃま、短いのも格好いい」
「えーっ、あの巻き巻きも捨てがたかいよー、まあ、これはこれで良いけど」
弟達が、短髪を褒めるとその横で涙目の父。
「アンーッ、父を捨てないでーっ」
「モーレイ捨てて、シャークになりゃいい」
「そうですねぇ、アンなら喜んで受け入れますよ」
「ダメダメ、アンはモーレイの大事な姫じゃ、シャークなんぞにやるものか」
「あらー、ホント。短い髪も良く似合っているわ」
両祖父母が思い思いに話し出す。
これが、我が家モーレイ家の日常。
シャーク家祖父母は、父の両親で一人息子や孫と離れるのは寂しいと、モーレイに掛け合い、ここに住んでいたりする。
前世と真逆のそんな家族をアンも捨てる気は毛頭ない。
「気概はありますが、こっちだって捨てられるまで捨てる気はありません。私の大切な家族ですから」
「よくぞ、素直に心根を話してくれた。アン、まずはお帰りだね」
母が力強く抱き締めていた腕を放し、顔を見ると少しだけ目尻に涙を溜めている。
「はい。ただいまです」
その夜、アンを囲んでの食卓は、使用人も皆勢ぞろいで学校の食堂のような笑い声の絶えぬ賑やかさだった。
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