15、いぃーおー

こちらに産まれてから約15年住んだ我が家は、豪邸である。

公園よりも大きな庭に温室や菜園、催事用の別館まである大豪邸。

今は華やかに彩られているが、産まれてすぐは物凄く暗かった。

母自身を強く見せる為に暗い色を敢えて使い、魔王の館とまで言われる程。

最初は暗いなーっ位だったが、毎日見てると飽きてきた。

ゴシックには全く興味はない。

まずは自分の部屋を明るくし始めた。

黒いシーツを白に変えてもらい、部屋の中も暗い色の調度を変えてもらった。

ようやく首と腰が座り、一人座り出来るようになった赤ん坊はまだまともに話せないが、忙しい母の代わりに部屋によく来る父にジェスチャーと拙い声で指示した。

黒いシーツをパンパン叩き、父の着ているシャツの色と替えろと何度も指示した。

最初は赤ん坊が遊んでいるだけと思っていた父も、的確な首振りと指差しや言葉に、確実な意図を持ってることを分かると、こちらの言おうとすることを理解しようと試行錯誤した。

そして、何度かのジェスチャーなどで黒いシーツを白に変えろが伝わると使用人巻き込んでの歓喜。

それからは、壁の色も変え、調度も黒寄りゴシックではなく、それらしいものは良く分からないので、カタログを貰い、父と協議。

そして、出来上がった部屋に母を呼んだ。

驚く母に、父に代筆してもらった手紙を突き付ける。

「これは、どういうことだ?」

「アンが僕に伝えてくれたことをこの手紙に書いているから読んでみて」

「まだ一歳にもなっていないのだぞ」

「はーぁはー、みいーちぇー」

父に抱かれ、手紙を突き付ける0歳児の真剣な目つきと言葉に更に驚き、手紙を受け取った。


『母へ

暗い部屋、暗い屋敷はもう飽きた。

全体的に明るい方がいい。

母の強さは色で変わるものではない。

屋敷の刷新を求める』


「これをこの子が書かせた……と?」

「ここにいる全員が証人だよ」

そこには、屋敷を取仕切る家令や料理長を筆頭に長年仕えてきた面々が軒を連ねている。

「申し上げます……私共は証人になる為に呼ばれました。そして、そこに書かれていることがアン様のご意思だと断言します」

家令や何人かの使用人以外の何人かは、呼んだ時に一悶着あったが、それもアンが制したから、ここにいる面々はアンがただの赤ん坊ではないことを知っている。

「まだ一歳にもなっていないのだぞ、そんな子が……」

皆が頷くのを見て、母は困惑しながらも私に手を差し出してきたから、抱き着き上を見上げて言った。

「はーはー、もーちゅおいぃー、だぁーじょぉーうー」

夜中、私に母乳を飲ませながらよく独り言を言っていた。

強くあろうと奴らに負けるものかと、だから屋敷も黒くしたのだと。

それを知っているのは私のみ、だからこその手紙に母は確信し、泣き笑いしながら、頷いた。

「そうだな。アンが飽きたのなら仕方がないな。改築……いっそ新しく建てて、この屋敷は催事用にて縮小改築してしまおうか、アン、どう思う?」

その言葉に親指を立て、全面賛成を示した。

「いぃーおー」

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