18、180度違う食パン
見世物小屋気分を味わい、皆で朝食を取っていると、ふっと給仕台の食パンが目についた。
ビニールに包まれたやつではなく、焼き立て一斤をその場で好きな厚さに切り分ける、貴族スタイル。
前世では、朝食によくパンを食べていた。
時には、朝昼晩とパンで済ませることも多々。
食パンを焼くのも塗るのも面倒で、切られているのをそのままを食べていた。
菓子パンも食べたが、菓子パンはベタついたり手を汚すこともあるから、コントローラーが汚れにくい食パンが主。
パンの欠片は、乾燥したのをフッと吹けば床に落ちるし、そのあとは翌日来てる家政婦とかが掃除していたからか、学校から帰るときれいになってた。
「何も付けないのを一枚頂戴、厚さは任せるわ」
「かしこまりました」
そして運ばれてきた、ただの食パンを一口味わう。
「美味しい……」
あのビニール入りの食パンの利点は、単なる量、胃を満たせれば、それで良かった。
今食べているのは、質とその他色々。
15年過ごしてきたここは、あちらとは色々と180度違う。
返される挨拶、見守る目、こちらへ向けられる温かい感情、15年間愛情で包まれて生きてきた。
血縁者だけでなく、給仕や料理人など、この家で働く一人一人からも、愛情だけでは言葉足らない色々なものも貰って育ってきた。
もしかしたら、前世の掃除してた家政婦とかも何かくれていたかもしれないが、会ってもないから全く分からない。
そして、美味しい食パンを食べて決意した。
「食べ終わったら、みんなに聞いてほしいことがあるの」
グルリと見渡し、最後に我が家の柱の母へ焦点を合わせた。
「重要なことなのね」
「凄く」
「なら、少し早く食べよう。だが節度ある食べ方で早く食べるように」
口に流し入れようと皿を掴んだ弟を窘める辺りが、流石な母だ。
朝食を終え、今度は目の前に用意されるのは茶や菓子。
完全にブランチな状況が着々と作られていくのを眺め、そして家族を見渡した。
「学園の入学式の前日は、私の前世の臨終日。私は前世が終わったその時間に、前世を思い出したの。私は俗に言う転生者よ」
そして周りを見ると、何故か驚くこともなく、頷きながらの納得顔の家族たちにこちらがあれ?っと目を見開く。
「驚かないの?」
「驚いているけど、これまでのアンちゃんの言動の方が……」
すると、言葉を切った途端に青ざめた顔になった母に皆が驚く。
「どうしたの?」
「臨終って……」
「ああ。車っていうこっちでいう馬車みたいなのに轢かれて、一瞬で死んだから、あまり覚えてないわ……」
前世持ちだと言うことよりも、そのことに皆が驚き、様々な顔を示し、母に抱き締められた。
「……良かった。覚えてないならいいわ。そこは忘れていいから」
「……そうね。うん、忘れるわ」
それからしばらく抱き締められ、離されても手は母と繋いだままで、大まかなこれと言って面白くもない前世を伝える。
「……ということで、私は生まれ変わって良かったと思ってるし、こちらの方が生きてると実感するの。みなからの愛情が凄く伝わるから、これからも全力で返すつもりよ。あちらの記憶が戻って、更にそう思うわ。こんなにも愛してくれてありがとう。私もみんなを愛してるわ」
それから、みんなと色々と話し、家族に囲まれた最高のブランチを過ごしたが、話は留まることなく、お尻が痛くなったので解散させた。
だが、すぐに昼食の時間になり、また集まった。
結果、その日は一日中代わる代わる誰かと話す日となった。
締め括りの夜は、母と添い寝を頼まれるというオマケ付。
母から、父もと思っていたらしいが、そこは母が私を独り占めする流れになったらしい。
そして、しばらくは独りで寝ることはなく、誰かしらと同じ部屋で寝ることになった。
そして、一通り順繰りしたあと、丁重に断った。
もう、自分の部屋で一人でゆっくりと寝たい。
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