31、依頼前-いつ?
キッチン横のテーブルに皆で座る。
母親が茶を用意するのもなかなかの庶民的。
「実は私達は元は庶民でね。貴族の、あの遣えてもらう生活も広い部屋も、落ち着かなくてね。残念ながら、成り上がりを謳歌できなかったよ」
「横がギルマス邸、周りの家の者は実力者揃い、警備が万全なら問題ない」
「……ほぉ。その歳で一つ星になるだけある」
「どうも」
4人にはちんぷんかんぷんのようだが、家の前に着く前から実力を測ろうとする視線を多方から送られていた。
「父様、何の話なの?」
「ここにいるアンが実力を伴う一つ星だということだ」
「……ミリー嬢、一つ良いか?」
「何かしら?」
宰相補佐から、ミリーに顔を向けた。
「アレを見るのもイヤ?」
「嫌に決まってるわ、だってアレよ」
「なら、なぜ断らない」
「断ったわ、でも……」
すると、今度は父親が割り込んできた。
「ミリー、何の話だ?」
「父様には関係ないの、私の問題」
「隠し事!ミリーがぁ……」
萎れる父親は無視で、二人で話す。
「アレに牽制は確か」
「でも……自分でなんとかしないと……」
「それは実力を付けてから。それに頼れる親がいるなら頼らないと、まだ親も頼られたい時期。頼ることが親孝行になる」
そこまで言うと、ミリーは口を閉ざし思考する。
実力で乗り切ると言っても、今出来ることは口から発する言葉のみ。
もし、相手が強硬してきた時に、抗えるような腕はない。
「平民から宰相補佐まで上り詰めた父の手腕を誇ることが一番の近道。平民の暮らしを知っているあなたが、力を使いたくないのは素晴らしい。だが使うとこは使わないと。原動力を奪われたりしたら、この宰相補佐が使い物にならなくなるのは目に見える」
その言葉に、母親がフッと笑い、みなが母親を見た。
「あらっ、ごめんなさいね。昔、ミリーが少し高い熱を出した時、この人仕事を放って帰ってきて、しかも狼狽し過ぎて酸欠になって倒れたのよ。治ってもミリーから離れなくて、仕事復帰しないからと宰相が王宮の一室をミリーに貸してくれたことがあったわ。しかもこの人そこから離れずに仕事するものだから、宰相まで時折来てたのよ」
「あっ、その時の王宮侍女の方々があまりにもかっこよくて、だから王宮侍女にって思って……」
「なら、早く行くといい。あの方々は数多の甘言に騙されないし、はね除ける強さも持っている。良い先生になるはず」
思い出の侍女達を思い描いているのだろう、少し目を閉じるとしっかりと目を開き、頷いた。
「では話を進めよう。出発はいつにする?」
蚊帳の外なミリーの友人達は、一ツ星ってスゲーッと尊敬の眼差しを向けた。
父親は、相談されなかったことに傷心しながらも、内部の情報を知り過ぎなアンに警戒心を向けた。
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