20、二学年-敢えて星
「これで、余計な者はいないな。改めてソーマス エンチャラーという。ソードマスターであり、付与魔法(エンチャント)の使い手とも言われている。宜しく頼む。さて、早速だが、付与魔法の重要性を伝える。と言っても、一言に尽きる。冒険者に付与魔法はあったら楽っだ!例えば、実力がほぼ同格の敵が目の前にいて、次の一手の瞬間だけでも上がると考えたら、さすがに分かるだろう。付与の持続時間も術者の質によるが、次の一手なら確実に決まる。それこそ、術師の質が高ければ、数ランク格上相手でも一手は確実に決まるんだ。これをズルと取るかは、そいつ次第、だが俺はそれで結果としてソロで14星にまでなった。ある時、後継を作ろうと考え、今ここにいる。と言うことなので、しばらく付与魔法の大まかな魔法を教えたら、後は課外授業が多くなることを……」
前回の流れから、教師の自己紹介へと、かろやかな流れで始まった付与魔法技巧授業は、アンにはシェルと出会った時のように楽しくなる予感しかない。
その日、寮に戻ってすぐにシェルに聞いてみると、ソロ冒険者で有名らしい。
「ある時ってなにかあったのかしら?」
「昨年辺りからのあの方の動向が聞こえなくなりましたが、その前に何かあったのは確かでしょう」
「シェル、また何かした?」
「いえ、あの方と接点はありません」
「そっ。14星から15星に上がるのに何かあるのかしら?」
「多分、私は敢えて星ですから、10星以上の事情は知りたくもありません」
敢えて星=9星のこと。
10星以上の煩わしさを逃れたいが為、敢えて昇級止めしている星の別称。
シェルなどの実力者には、何度か昇級願いが出ているが、そこは願いのみ。
無理強いはしないのは、星の美徳であり、意地でもあるよう。
上からの命令一つで、級の上げ下げが起きる噴水のように陥りたくはないが、実力者は確実に手元に置いておきたいというジレンマは何ともしがたいようだ。
「情報集めておいて」
「かしこまりました」
翌日、聞いてみると、現在在籍している15星は12人。
ギルドポイントだけではなく、他の15星の二人以上に認められた上に、自国以外の一定水準の推薦人からの推薦が必須。
そして、後継者を最低二人は育てる力量も持ち得ないといけない。
15星、所謂三つ星になると、ある種の権力者以上の資格を有するため、単なる冒険者ではなれない仕組みなっている。
そして、その推薦人の一定水準の枠に当学園の理事長がいて、ソーマスは15星になるための下地として、教鞭に立ったのだということまで調べてきた。
「そのために教師になる必要があるの?最短で10星までなると思ってたけど、敢えて星の方が良さそうな気がしてきたわ」
一学年の夏休みに母に語った意気込みは、一気に尻窄み気味になってしまった。
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