09、図書室

残念なことにこの世界には漫画はない。

全て、本であり、活字である。

絵の入った本はあるが、動植物図鑑などの説明用のみ。

辛うじて幼児用絵本はあるが、一冊に3枚あれば良い方。

前世の自分は活字いう代物は、好きではなかった。

ゲーム画面の活字は、あれはゲーム内での会話等であるから別物。

あと、絵の横に活字の並んだ漫画も吹き出しという会話であるから別物。

ただただ活字だけが並んだ本が、挿絵がたまーにあっても、本は疲れるだけで嫌いだった。

だが、アンは違う。

大の読書好きの速読マスターである。

バサバサーッで読める特殊能力ではなく、本が好きで読んでいたら読む速度が早くなった方。

となると、前世で苦手だった書庫や図書館は、今やアンのオアシスとなる。

そして、この学園でも図書室通いしなくてはと、図書室を開けたがすぐに閉めた。

そして、すぐさまその場から離れた。

今日は、間が悪かったのだと、翌日訪れたが、結果は同じ。

アンは思案し、今日は図書室に入った。

目の前には人人人……。

原因は、窓際の机に陣取る誰かさんのようだ。

なんたら王子やアレ等のどこがそんなにいいのか分からない。

ここに集う人人人……は本を求めてはいない、アレを見に来ているのは明白。

それらを避け、目欲しい本を受付に持って行き、借りて帰った。

帰り際、司書さんに閑散時は?と問うと、朝方だと教えてもらったので、次からは朝方利用にする。

翌朝、司書さんと少し話をした。

窓際のアレを見に来る人人人のせいで、本を借りる人もここで勉強する人も昨年から減少。

生徒の要望で自習室が新たに作られ、借りたくても入ることもままならない図書室の存在意義が囁かれているらしい。

窓際のアレは、二学年の隣国王子らしく、来るなとはとても言えないと。

であるならばと、一つ提案した。


後日、図書室の改装工事が行われた。

図書室にある机と椅子を全て取り払い、新たに本棚を追加。

勉強する人の気晴らし用に取付けられていた窓も撤去。

本来、本に日光は不必要。

こちらは虫干しも魔法で事足りる。

そして出来上がった新たな図書室に入り、深呼吸。

木とインクの匂いに包まれ、受付の司書さんと目が合い、互いに親指を立てた。

改装工事費用の捻出には、匿名の巨額な寄付金が充てられた。

アンが使わずに残っていたお小遣いの一欠片である。

存在意義まで問われていた図書室の改装案に、即座に理事会からの判が押され、早期工事着手に至ったのは、司書さんのお手柄。

理事会長補佐役となかなかな位置に在席していた。

巨額な寄付金と図書室の現状に、理事長を含め理事会一致で是としたようだ。


後に司書さんより聞いた話によると、窓際のアレは、改装後から図書室へは一度も来ていないらしい。

本好きだったのではなく、図書室の窓際に座ることが重要だったようで、あちこちの窓際に出没しているようだ。

窓際好きなのに日焼けしてない稀有な御仁だとアンが言うと、司書さんは口を抑え、声を押し殺し笑っていた。

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