27、男子-名前

社交系の授業は一つも取っていない。

だから、互いに名乗り合い、知り合いを作ったことはない。

名だけが独り歩きしているのは知っていたが、それでも男子には特に気を付けていた。

女子に名乗ったのも、あのストレートヘアだけなはず。

最高級機能付き眼鏡をかけてからは、何の憂いも不安も面倒もなく過ごしてきていたのに。

「モーレイさん、少しいいかな?」

だが、目の前にいる男子はアンの名前を呼んだ。

「……知り合いではないですが」

バタバタと皆で移動するのは面倒と、いつも最後辺りまで教室に残ってから移動していたのが、こんな事態になるとはと内心少し動揺。

「話したのは初めてだ。僕はスーギル タータサスドン、この町のスターギルドマスターの息子で、同じこの付与魔法技巧を取っている」

「そんな方が何か?」

面倒事は眼鏡で躱せるはずなのに、壊れたか?と思いながらも冷静に対応。

「……頼む。クエストを手伝って欲しい!」

「は?」

思いもよらない内容にアンとしての人生初の「は?」が出た。

「先生に教室に少し残りたいと許可取ってあるので、このままここで聞いて欲しい」

チラリと見ると、いつもは次は使わない教室になるからと鍵かけしている先生が、もう横の資料室に移っていた。

「いいだろうか?」

この眼鏡の阻害機能が働かない、ということは面倒な類いの人ではないということ、だが。

「なぜ、私にそんなことを?」

「君を二日前にギルドで見かけた。親父にクエスト報告していただろう。見たことあると思って声かけようとしたんだが、母さんにクエストの報告中で終わったら、もういなかったよ」

あの馴染みになっている受付はギルマスで、あの受付前がよく空いていたのは、強面だからではなく、ギルマスだからという理由もありかもしれない。

しかも母親も受付にいると、だが受付は5つあるから、どれが母親かは分からない。

「親父に聞いたけど、名前教えてくれなくて。あと昨日、俺の仲間がクエストを選んでいる君を見かけた。その子は学園に来てないから、君のこと知らないけど、特徴を聞いて確実に君だと思った。そしてここで見て、名前思い出した」

当たり前のことだが、息子でも教えない、さすがギルマス。

元々良い受付と認識していたが、良いギルマスに変更する。

まあギルマスだからといつもやることに変わりない。

「………」

「君は5星だろう?仲間が5星のクエストを選んでいるのを見たんだ。それで5星以上が一人でもいたら受けれるクエストがある、それを一緒に受けて欲しい。頼む」

さて、どうしようか。

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