おまけエピソードその二「ルルとキキのお手伝い」

「いらっしゃいませー」

 キキの女の子であるような声が響く。僕は「いらっしゃいませ」と書かれたスケッチブックを両手に立っていた。何でこんなことになったのか。少し時間を戻す。


 翌日が休日だったその日、僕らは昼食を摂りながら話に花を咲かせていた。その日は食堂で四人で食事をしていた。休憩時間も終わりが近づき教室がある三十三番甲板に戻った時だった。先生が誰かと話をしていた。先生は難しい顔をしている。その誰かは何かとても申し訳そうに頼み込んでいた。

「わかりました。話し合ってみます」

「よろしくお願いします……」

 その人が頭を下げ去った後、僕らと先生は教室に入った。

「何かあったんですか?」

 鴎ちゃんが心配そうに聞く。可能先生は困った顔をした。

「実はあなた達にお願いがあります」

 先生は授業を始めずゆっくり話し始めた。

「明日、大陸のお偉い様方がこのシークルースクールを視察にくるそうなんです。その際色々な店を回られるそうなのですが、ある店の看板店員と、ホールスタッフが三人……、倒れてしまったらしいんですよ」

 それは食中毒だったそう。楽しくふざけて食事をした結果、お腹を壊して四人欠員。慌てた店の人は協力できる人を探したが、中々皆忙しいと断られたそう。

「いいと思う。手伝おうよ」

 瞳ちゃんが言う。僕らは頷いた。だが……。

「話はまだあるんです。実はその店女性店員のみが売りでして」

 僕は目を見開いた。おいおい、待ってくれ。ここには男二人女二人だ。先生も男だ。女の子四人必要なら足りない。なら鴎ちゃんと瞳ちゃんしか手伝えないじゃないか。

「やるしかないな」

 王騎君が決意を固めた。はぁ……。わかったよ。やればいいんだろ? やれば……。

 こうして僕と王騎君は女装をして、ルルとキキ、再始動である。

 朝早く仕込みの時間。僕らはしっかりおめかしして店の準備、着替えに取り掛かった。店長も先生も、僕と王騎君の女装がバレたらしっかり責任を取ると言ってくれた。僕はスケッチブックを用意して、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございます」と「またのお越しをお待ちしております」の三ページを用意した。

 僕は看板店員。王騎君と鴎ちゃんと瞳ちゃんがホールスタッフで回すことになる。


 さて、現在。王騎君が凄すぎる。あの声で、接客しているのだから、本当にいつか声ミスって地声出してバレるんじゃないかとハラハラする。前回のように、バレたら仕方ないで済む問題じゃないのだ。ここには今お偉い様方が来ており、バレたら本当に責任問題になりかねない。

「いやぁ、キキちゃん本当に美しいね!」

「ありがとうございますですわ」

「本当にどこかのお嬢様なんじゃないかと思ってしまうよ」

「ふふふ、想像にお任せしますわ」

 注文を取るキキとお客様が話をしているのだが、話題は僕の方に。

「ルルちゃんも可愛いよ。こっちに来て話してほしいな」

 僕はぺこりぺこりと申し訳なく頭を下げた。僕は喋れないんだ。

 話をするお客様達に注文された物を持っていく鴎ちゃんと瞳ちゃん。

 暫くお客様の話し声は聞こえず、食事を楽しんでいるようだった。そして、食べ終えたお客様達が、お喋りをする。その接客に、キキがあたる。

「俺思うんですけどね、ルルちゃんって、あの子に似てませんか?」

「わかる!絶対似てると思った!」

 会話の内容は途切れ途切れだったが聞こえてくる。どうやら僕の容姿はアイドルの誰かに似ているらしい。店長はそのアイドルを知っているらしく、ちょっとだけ僕に耳打ちした。

 仕方なくスケッチブックを置いて、お客様の近くまで行き、胸の前でハートを作り前後しウインクした。僕はそのアイドルを知らないのでその動きが合っていたのかはわからない。だがお客様は大盛り上がりだった。僕はお辞儀をし持ち場に戻る。は、は、は、恥ずかしーーーーー!!!

 何やらされてんだ僕。お客様は、満足して帰って行った。お偉い様方は帰って行ったが、その後貸切を解き通常営業する。いつもの店員でない事に驚かれ、スケッチブックで対応する僕に客は興味津々。キキと鴎ちゃんと瞳ちゃんも大忙しだった。

 終わってから、店長に礼を言われた。

「ありがとう、助かったわ」

「いえ、本当に恥ずかしかったですが、上手くいって良かったです」

「これくらいだいじだごどぁぁぃえ……」

 どうやら一日無理したせいで早くも声が枯れたらしい。接客というのはとても大変なのだ。普通に話す声量ではダメなのだ。大きな声で明るく。それ故に限界も早かったらしい。喉が使い物にならなくなった王騎くんは押し黙った。

「バイト代だけど、いらないって本当?」

 店長さんが申し訳なさそうに言ってくる。僕らは頷いた。別にお金に困っていない。だがやはり働いた対価は払わなければ困るというのが店長さんの言い分だった。ならばと、鴎ちゃんと瞳ちゃんがこう言った。

「この制服、私達に譲ってくれませんか?」

 今着ている制服はとても可愛らしいデザインのメイド服だった。鴎ちゃんと瞳ちゃんが欲しいのはわかる。だけど僕、もうこれ着る気ないよ?

「それでいいなら勿論いいわよ! 他に何かある?」

 僕は考えた。そして、この店のためにもなる事を一つお願いした。

 その日以来、その店には行列ができているらしい。もしかするとまたその店員達が来るかもしれないからと。

 その店にはある写真が飾ってある。ルルとキキが写ったその写真には、一日限りの臨時店員の二人と文字が書かれている。

 同じ写真を僕と王騎君は貰った。いらないけど制服も。うーん……。僕と王騎君、可愛いすぎない?

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