第10話「看病」

 次の日、僕は体がだるく起きれなかった。無線で連絡し欠席する。熱を測ると高熱だった。無理もない。もし実戦なら死んでいるのだ。熱で済んだだけマシかもしれない。

 朝飯も食べられず、水を飲んだ後で寝転んだ。眠っているとふと冷たい感触を感じた。気持ちいい。僕は目を少し開けた。

 ベッドの横に鴎ちゃんがいた。

「ミツル君、大丈夫?」

 なんで? と言葉にもならない。僕は起き上がろうとした。

「まだ寝てなきゃ駄目よ」

 鴎ちゃんは僕の体を抑え寝かせた。頭から落ちたタオルを手に取り、水に濡らして額に乗せてくれた。看病してくれてる鴎ちゃんに……、惚れてしまいそうだ。

「ごめんね」

 鴎ちゃんも謝ってくれた。僕はそれは違うと思った。

「前に出るのを決めたのは僕だよ。カモメちゃんもヒトミちゃんも謝る必要はないよ」

 そういえば瞳ちゃんは来てないんだろうか。それを尋ねると鴎ちゃんは笑った。

「ヒトミはオウキ君のところに」

 そうか、そりゃそうか。王騎君もタダで済むはずがない。

「ヒトミ……、オウキ君の事好きなのかしら?」

 ドキッとした。それを言ったら鴎ちゃんは僕の事どう思ってるんだろう? そんな事を考えていたら熱が上がりそうだった。

「ミツル君、大丈夫?」

 顔が赤いのだろうか。僕は口元を布団で隠した。

「ごめん、水が飲みたい」

 わかったと言った鴎ちゃんは、水と何かを持ってきた。

「おかゆなんだけど、食べられるかしら?」

 朝から何も食べる気がしなかったため、配られた朝食は食べなかったが、これなら食べられそうだ。

 少しずつ口に入れてくれる鴎ちゃん。というかこれ、アーンなんじゃ?

「どうしたの? 美味しくない? 私が作ったんだけど」

 しかも手作りかよ! 僕はますます顔が赤くなるような感じで食べさせてもらっていた。

 ごめん、全世界の皆。僕は今、幸せです。


 昨日戻ってから何も食べずに寝た俺は、朝も起きる気がせず眠り続けた。無線が鳴り、何とか起きて出る。

『やはり海鳴君もですね? 欠席でいいですね?』

 ああ、と言った俺は無線を切る。やはりという言葉に想像する。恐らく満も寝込んでいるんだろう。当然だな。俺でこれなら満が耐えられるはずがない。大丈夫だろうか?

 人の心配をしている余裕もなかったのでとにかく寝る。だがぐっすりは寝れなかった。くそっ、体が熱い。

 しばらく熱と格闘してると、コンコンとノックの音が聞こえた。

「誰だ?」

 俺はベッドの上から叫んだ。もうそれで限界だ。ガチャリと音がして、誰かが入ってくる。瞳が入ってきた。

「オウキ君、大丈夫?」

 大丈夫だと言った俺の額に手を当てる瞳。

「すごい熱」

 平気だと言ったが、瞳は洗面所へ向かいタオルを濡らしてきて俺の額に当てた。ひんやりした感じが心を落ち着かせてくれる。瞳は俺の胸に手を当てた。

「まだ痛い?」

 それは大丈夫だ。そう言うと、そっか、と頷いて俺の顔を見ていた。

「何か食べる?」

「すまん、食欲がない」

 瞳はそれを聞いて頷き、ゼリー飲料の栄養補給剤を取り出した。

「これも飲めない?」

 俺は起き上がって受け取り飲んだ。その際タオルが落ちる。

 瞳がそれを拾ってくれて、俺はすまんと謝った。瞳は、なんで謝るの? と笑った。再び寝転ぶと瞳が手を握ってきた。俺はその手を握り返す。

「大丈夫だ、ヒトミ」

「大丈夫じゃないよ。こんなの繰り返してたらいつか本当に死んじゃうよ」

 瞳は泣きそうな顔をしていた。実際もう目は潤んでいる。繰り返していたら、という言葉を自分の頭の中で反芻する。

 確かに俺は無鉄砲なところがある。なんでも挑戦しなければ気が済まない。やってみなければわからないし、絶対にやってやるという意思があれば道は切り開けると信じている。勿論できないことはたくさんある。だが俺はまだ死んでいない。

「ヒトミ。いつか俺は全てを乗り越えるぞ」

 涙を拭った瞳は、コクリと頷いた。

「それまでは死なん。約束できるかはわからんが、お前に言っておくよ」

 うん、と言う瞳は俺の頬にキスをした。

「ウチね。オウキ君が好き」

 俺は無言になった。固まったと捉えられてもいい。瞳の気持ちには気づいていた。だがここで行動に移すとは思っていなかったのだ。いや、むしろ俺が弱っている今、行動に移したのかもしれない。俺は少しの間何も喋らずにいた。瞳も黙って俺の言葉を待っている。

「俺もヒトミのこと好きだよ」

 瞳は顔を真っ赤にして、ホント?! と顔を近づけた。

「ミツルもカモメも好きだ」

 ああ、そういうこと……、と瞳は項垂れた。俺は笑った。

「俺は皆好きだ。たとえ敵でもいつか和解できると思っている。例えば、あの影狼でもな」

 瞳は笑った。それが俺らしいと思ってくれたようだ。俺は特別な誰かを作らない。皆平等に好きだ。前世でも誰かを特別扱いしなかった。いや一人いたが……。とにかく誰も彼も抱いたわけじゃない。

「それでもウチはオウキ君が特別好き。そこは知っててほしい」

 俺の手をギュッと握る瞳。俺は瞳の目を見つめ、頷いた。大好きと言われたところで、ノックが響いた。

「誰だ?」

 俺は尋ねた。ドアが開き可能が入ってきた。

「今日のプリントを持ってきました。赤居さんの分も」

 瞳も授業に出ていないのか? と尋ねると、一時限目が始まった時心配だから見に行きたいと瞳が言ったらしかった。鴎も満の所へ行ったという。

「今日はゆっくり休んでください。明日は来れるようにしてくださいね」

 そう言って用を済ませた可能は、そうそう、と言って続けた。

「赤居さん、良ければ海鳴君の体を拭いてあげてください。お風呂には入れませんしね」

 待て待て、それは……。パタンとドアが閉まり再び二人きりになる。

「ふふふ、大丈夫。じっとしてて。ウチがキレイにしてあげる」

 瞳の目が光っていた。ニヤリと笑っている。もうなるようになれよ。

 身体を拭いてもらった後も看病をしてくれる瞳。特別好きではないが感謝の気持ちで少し、ほんの少しだけ瞳にリードされた気分だった。

 夕飯は少し食べれた。アーンさせられてゆっくり咀嚼する。その後、瞳は女子生徒宿舎に帰って行った。

 俺は眠る。今は熱も引いている。ぐっすり眠ると夢を見た。


 キャプテン! 島が見えてきましたぜ! 今回のお宝はなんでしょうね?

 キャプテン! 敵の海賊船です! ぶちのめしてやりましょう!

 ああ、皆、共に行こう! あの海の果まで!

 キャプテン! キャプテン! キャプテン! キャプテン!


「オウキ君! オウキ君!!」

「なんだ……? 俺のことはキャプテンと呼べ」

「何寝ぼけてんだよ! 今何時だと思ってる?」

 そこには満が立っていた。俺は起き上がり、時計を見る。短い針と長い針が十二を指している。

「また寝坊してしまったか」

 見ると鴎と瞳と可能が立っていた。

「六道君が元気なので、大丈夫だと思っていましたが……。まだ調子が悪いですか?」

 可能が尋ねる。俺は首を横に振った。

「すまん。少し……、長い夢を見ていた。久しぶりにな」

 丁度昼ご飯の時間だ。平日は休みの連絡を入れなければ教室に昼食が配られる。可能が俺の部屋の無線で連絡を取り食堂までご飯を食べに行くことになった。

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