第13話「赤い宝石」

 僕と王騎君は教室に向かった。そう指示されていたからだ。先生が教室にやってきて、先生に赤色に輝く石を渡す。僕はこれがなんなのか尋ねた。

「わかりませんか? これはレッドダイヤモンドという宝石です」

 僕はひっくり返った。これがレッドダイヤモンド?! 一カラットだけで数千万円から億は超えてしまうという希少価値の高い宝石!?

「ミツル、お前……。あのダンジョンで手に入るものが普通なもののわけないだろう」

 ふふふと笑った先生は僕を助け起こし、説明した。

「これを手にした生徒は全員、全ての学費が免除されます。勿論スクールに寄付した場合のみですが」

 僕には親がいて高額な学費を払ってくれている。それが免除となるならば嬉しいに決まっている。

 僕は王騎君を見た。王騎君は僕に笑って頷いた。

「当然寄付しよう。宝は山分けが基本だ。カモメやヒトミの学費も免除されるなら俺たち全員で戦った意味がある」

 先生は頷いてレッドダイヤモンドを持っていった。

 だが次の日、教室で鴎ちゃんと瞳ちゃんが僕らを責めたてた。

「レッドダイヤモンドなら、私欲しかった! あれがそうだったのね。本当に綺麗だったもの」

「ウチ、ネックレスにしたかった。なんで寄付したの?」

 二人に迫られて困る僕と王騎君。僕は説明した。

「ほ、ほら! 学費免除の他に、生活費もお小遣い付きで配与されるらしいんだよ! いいでしょ? そっちの方がさ!」

 僕の言い分に鴎ちゃんは、ハァーっとため息をついた。

「学費も生活費もお小遣いも困ってないもん」

「ウチも」

 くそ! ブルジョワめ! 僕のとこはそこまで余裕ないんだよ!

 王騎君は頭をかいて言った。

「確かに超希少な鉱石だったから、欲しがるのはわかる。だが宝は山分けだ。誰か一人で独占するわけにはいかない。あれは一つしか無かった。食べるものでもないし、これで良かったと思うんだが……」

 鴎ちゃんが更にため息をつく。

「食べ物でなくても、みんなで代わりばんこに飾るとかあるじゃない!」

「ウチ、アレつけてみんなと遊びたかった」

 これには僕と王騎君二人参ってしまった。女の子の宝石に関する心は僕らでは理解出来ないのかもしれない。

「わかった、わかったよ。また取りに行こう。それならいいだろ?」

 王騎君がそう言ってると先生が来た。先生が教室に入ってくるなり、鴎ちゃんと瞳ちゃんが詰め寄った。慌てふためく先生は言った。

「空色さん、赤居さん、あまり無理に体を動かさないでください。どうしたんですか?」

「先生! レッドダイヤモンドを寄付したの取り消してください!」

「ウチらは納得いっていません」

 先生はなるほどと納得いった。王騎君が先生に尋ねる。

「大蛇のようにゴーレムも復活するんだろ?」

 先生はうーんと唸ってしまった。

「あれは最速でも半年に一回の周期なんですよ。それもレッドダイヤモンドが絶対取れる訳ではなくて、他の鉱石の場合もあります」

 鴎ちゃんは、バンと机を叩いた。痛いのか腕を抑える。先生が慌てる。鴎ちゃんが叫んだ。

「じゃあ尚のことレッドダイヤモンドの寄付を取り消してください! あれは私達のモノですよ!」

 先生はまぁまぁと女子二人を座らせる。そして多数決をとった。

「寄付した方がいいと思う人は手を挙げてください」

 僕と王騎君が手を挙げた。女子二人の視線が痛い。そんな目で見るな。僕だって頑張ったんだ。これくらいの権利はあるはずだ。

 先生は笑って言った。

「ではジャンケンで決めましょう。お互いの代表者を決めてください。一回勝負ですよ。命懸け真剣勝負と思ってください」

 僕は王騎君に任せた。女子は鴎ちゃんが代表。

 ジャンケンをする。相子相子相子相子相子相子……、そして最後に王騎君が勝った。

「ああああああ……。私達のレッドダイヤモンド……」

 鴎ちゃんは泣き崩れた。瞳ちゃんが慰める。ひしっと抱きしめあった二人はお互いの頭を撫であった。よっぽど欲しかったんだな。まぁわからなくもないけど。

 いつかプレゼントできる日が来たらいいなと思った。

 さて、と先生は言う。

「空色さんと赤居さんの完治まで三ヶ月は通常なら無理はしないところですが、」

 それには王騎君が割り込んだ。

「俺とミツルだけでも海底ダンジョンには行けないのか?」

 まぁまぁと落ち着かせる先生。コホンと咳払いをし続けた。

「実は完治を早める方法があります」

 僕は真っ先にあの例の瓶の薬のことを頭に浮かべた。それを察したのか、先生は首を横に振る。

「あの薬ではありません。あれは大人でないと害を及ぼします」

 じゃあなんだ? と王騎君が尋ねる。僕も他に思いつかなかった。

 カルシウムでもガンガン摂れというのだろうか?

 先生は、それ! と僕に指をさした。

「特殊なカルシウム。傷ついた骨細胞を治す役割が高いカルシウムを沢山とるんです」

 なんか根性論だなと思っていると、チッチッチと指を振る先生。

「これ、本当に効果あるんです。うまくいけば三ヶ月を、一ヶ月まで早められます」

「それはどこで手に入る? 食材だろ?」

 先生は頷いて特殊なチョークを握り黒板に散りばめた。そこには金マグロの骨と書かれている。金マグロは赤身やトロなども絶賛の美味さだが、骨は焼くとステーキのように柔らかくなり、食べると骨折などに効くだけでなく骨の強度がかなり強くなるのだという。

 市場でも手に入るが希少なため今回はシークルースクールの外に出て釣るという。

 外部障壁を解除してシークルースクールの近辺で船に乗り釣りをすることになる。女子二人に無理はさせられないため、僕と王騎君と先生で行くことになった。

 鴎ちゃんと瞳ちゃんは教室で待つ。零番甲板に向かった僕らは準備に向かった先生を待っていた。

 先生はトビザメと、特殊な釣り道具を抱えてやってきた。まさか餌って……。

「六道君、君の考えてる通りです。トビザメが餌というか、トビザメに噛ませた金マグロを釣る感じです」

 トビザメは他の魚であれば普通に食べてしまうという。だが金マグロは噛み付かれると必死に逃げる。トビザメが噛み砕くまで時間がかなりあるため、その間に釣り上げるのだ。

「誰が釣るんだ? 可能か?」

 ふふふと笑った先生は言う。

「二人で釣り上げた方がプレゼントには最適でしょう? 私は船の操縦や、他のトビザメからの襲撃に対応しますよ」

 抱えているトビザメに糸を括りつけた先生は言った。

「このロッドは簡単には折れませんし、糸も切れません。釣り上げられるかどうかは、二人次第です」

 僕と王騎君は特殊なグローブを渡され身につける。

「ロッドは高価なので落とさないように気をつけてくださいね」

 そのロッドは二つに分かれて一つの糸に繋がっていた。そして船に乗り込むと、特殊な長靴に履き替えて船に構える格好で固定する。引っ張られて落ちては大変だからだと言う。

 もう何がなんでも釣らねばなるまい。金マグロは海底ダンジョンに影響されたマグロの一種。この辺の海域で釣れる魚の中でも一等品だと言う。

 僕らはトビザメを重りで沈め、食いつくのを待った。先生は船の舵を取りながら言う。

「普通の方法では釣れない魚のため高級品なんです」

 聞くと海底ダンジョンのエネルギーに当てられた魚は大抵ほぼ食事をしないのだと言う。そのため餌に食いつかずトビザメなど凶悪な魚類に噛みつかせるしかないのだ。

 トビザメは特殊で食欲旺盛なため何でも食べる。だが、金マグロ以外の魚は小さいため一噛みで食べてしまうため釣れないのだ。金マグロでも小さいものは釣れない場合が多い。とにかくデカいサイズの金マグロを必死に釣るしかないと言う。

 数も少ないためポイントをいくつも変えてもボウズの時もあると言う。僕らは最初のポイントに着いた。トビザメを放つ。

「安心しろ! 俺はモッテいる!」

 その言葉通りだった。数十分後、先生がポイントを変えようかと言った時だった。

 船が揺れるほど引っ張られた。僕は体を持ってかれるかと思ったほどだ。強い引きに船ごと引っ張られる。足は固定して、ロッドから手を離さないようにしている為当然だ。

 先生がリールを巻くよう叫んだ。

 くっ! くそっ!! 重い、重すぎる。リールが回らない。ロッドを引いてなんとかこちらへ寄せようとする。

「二人の息を合わせる必要がありますよ!」

 先生の叫びに僕と王騎君は叫んだ。

「いくぞ!」

「おーけー!」

 息を合わせ、引いて巻く。それを繰り返した。時間の猶予はあるとは言え、悠長にしているとトビザメが金マグロを噛み砕いてしまう。二人で一つ、僕らは必死に釣り上げた。

 そのマグロは文字通り金色に輝いていた。トビザメの噛み跡がかなり付いているとはいえ、先生は上出来だと言ってくれた。

「まだ時間はあります。もう一匹行ってみませんか?」

 明日は筋肉痛で死にそうだ。僕らは頷いてポイントに着くまで休んだ。

 四ポイント目で再び遭遇し、ギリギリ噛み砕き切る前に釣り上げ、計二匹の金マグロを女子二人に献上することが出来た。

 食堂のおばちゃんが腕によりをかけ作り上げた料理が並ぶ。僕と王騎君も昼食を抜いていたため腹ぺこだ。まずは鴎ちゃんと瞳ちゃんが金マグロの骨焼きを食べてみる。

「……うん」

「……なるほど」

 二人の反応は微妙だった。どうやら不味いらしい。僕らの骨組織にも効果があるので、僕と王騎君も食べてみる。

 うん、柔らかいが不味い。美味しいと思えない。まぁ体に良いものは必ずしも美味しいとは限らない。

 僕らが微妙な反応を示していると、先生は笑って言った。

「刺身は美味しいですから!」

 骨焼きと共に運ばれてきた、刺身を召し上がってみるととてつもなく幸せな感覚に陥った。先生は骨焼きを食べないと意味ないので、相殺しながら食べるように言った。

 骨焼きはともかく刺身や炙りなど、身はとても美味しかった。

 女子二人も満足したらしく、これで体が治るなら一石二鳥だ。

「明日もよろしくね」

「ウチ、期待してるよ」

 僕と王騎君はびっくりして口をあんぐり開けた。

「まぁ、毎日摂ると効果もあがりますしね。美容効果も高いですし……」

 パチパチと拍手した鴎ちゃんと瞳ちゃんは二人揃って言った。

「これならレッドダイヤモンド諦めた意味もある」

 僕はため息をついた。マジかよ、今日めっちゃ疲れたんだけど?

 王騎君がポンと僕の肩に手を置き言った。

「男は辛いな」

 明日も金マグロの釣りに向かう。

 そうこうしているうちに、二週間が過ぎた。授業も外せないため、毎日は釣れなかったしボウズの日もあったため、毎日金マグロは取れなかったがサイズが大きいため一日で食べ切ることもなく、僕らの食事は豪華だった。

 医師の診断で鴎ちゃんと瞳ちゃんは完治していると言われた。王騎君は言う。

「これで心置き無く次へ進めるな」

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