第12話「四階層」

 僕らがシークルースクールにきて半年以上が経った。先生は頃合いですねと言った。

「次の鍵を渡します」

 先生に渡された鍵は白の鍵だった。これで黄色の鍵の先へと進めるという。

「これまでの全てを出し切り、攻略してください」

 先生のセリフに王騎君が頷いた。

「大丈夫だ。俺たちならきっと」

「うん、やれるよ。みんなで乗り越えよう」

 僕も頷いた。皆で手を合わせた。やろう! やってやろう!

「では今日は放課後ゆっくり休んでください。明日、授業をなしにして挑みましょう」

 僕らは体を休めゆっくり過ごした。今日は眠れない気がした。だが意外とすんなり眠ってしまった。

 次の日、僕らは海底ダンジョンに連れられて、先生と共に黄色の鍵で降りられる三階層まで降りた。大蛇の部屋やモンスターのいる通路に行くまでにある扉の前に立つ。

 先生は何も言わなかった。僕は白の鍵で扉を開く。王騎君が行ってくる、と言った。僕らは中に入る。先生は僕らが扉を閉める時、一言、気をつけてと言った。

 音がして降りていく。とうとう四階層まできた。何階層あるかは知らない。恐らくまだ誰も未踏の地があるのだろう。

 それを調査するのが僕らや先生の役目だ。

 四階層に着く音がして僕は扉を開けた。それまでの薄暗い通路とは違い、明るい通路が広がる。通路を進むとまた左手に扉がある。鍵穴がありどの鍵も合わない。

 更に進むと通路には壁を掘る生徒達がいた。

「やぁ、君達もここまできたか」

 前に青の鍵の通路で黄色の鍵を使った先輩に会った。

「君達も掘るかい?」

 どうやら鉱石を発掘しているらしい。ここはそういった場所なんだろうか。見ると何人もの生徒たち、グループが発掘していた。聞くと資源になるから掘っているという。

「忠告だけど、この先には進まない事をオススメするよ」

 ここで発掘をする人達は、全てこの先等で敗れた者だという。この先に進めないからせめてここで発掘を繰り返しているのだ。

「忠告ありがとうございます。とにかく僕らは前に進んでみます」

 僕は礼を言い、王騎君が前へ進んだ後を追った。通路はずっと明るく長い。モンスターが出る気配もない。所々で発掘するグループを見かけて、会話しようかと思ったけどやめた。

 やがてずっと進んだ先に扉が見えた。僕は唾をごくりと飲んで王騎君の反応を待った。

「大丈夫だ」

 行こう、と扉を開く王騎君。僕らはそれに続く。広い部屋、中に入るとさらに眩く光る壁に目が眩む。

 扉を閉めると部屋を調べる。僕は四階層に着き、他のグループを見てずっと気になっていた事があった。基本的に四人グループで一班だ。

 なのに、四人揃っているところもあれば、三人や二人、一人で行動してるとこもあった。そして恐らくここで減ったのだろうと推測できた。だからこそ細心の注意を払った。誰も欠けることなくここを出ること、それを一番としようと思った。

 しばらく気をつけながら壁を調べたが何もなかった。だが瞳ちゃんが叫んだ。

「ここ! ここに何かあるよ!」

 瞳ちゃんの指さすところには、古代文字が書かれていた。

「勇気あるものはここを押せ。命の保証はしない……、か」

 僕は読んだ後王騎君に念の為尋ねた。

「押す?」

「先に言っておく。俺はこれを押す。だが死にたくないなら……」

 最後まで聞かず瞳ちゃんが王騎君に抱きついた。

「ウチはここで一緒に戦うよ?」

 鴎ちゃんがふふふと笑い、言った。

「私はちゃんと、覚悟してるわ」

 僕も頷いた。全員で手を合わせ、その場所を押す。ガコンと音がして天井が崩れるような音がした。僕らはハープーンを構えた。

 天井から巨大な岩の塊の人形が落ちてきた。

「ゴーレムか!」

 王騎君が叫んだ。確かにそう呼ぶに相応しい形をしている。頭はガラス張りのような円形の形になっていた。

 ゴーレムはまず僕らを平手で払い除ける。全員真横に吹き飛ばされた。ハープーンで防いだものの転がり、すぐさま起きる。

 ゴーレムと距離をとる事を僕は提案した。王騎君は頷き、僕らはゴーレムの後ろに回り込む。こちらを向くゴーレムの目がどこにあるか分からない。王騎君が果敢に前に出て腕を刺そうとする。だがハープーンは刺さらない。

 恐らく弱点は見えている。瞳ちゃんがハープーンを投げた。ガラスのような頭に当たる。が、刺さらない。投擲では致命傷にできないかもしれない。

 再び平手打ちで吹き飛ばされる僕ら。このゴーレム意外と素早い。対応が後手後手になる。バラバラに吹き飛ばされた僕ら。王騎君が隊列を立て直すよう指示する。だが、

「ゴオオオオオオオオオオ」

 ゴーレムは飛び上がった。鴎ちゃんと瞳ちゃんの方へ向かう。

「躱せ! カモメ、ヒトミ!」

 落ちてくるゴーレムを二人はギリギリ躱した。だが両手を広げるゴーレムは、二人を掴んで握り潰そうとした。

「きゃあああ!?」

 鴎ちゃんと瞳ちゃんのピンチに僕と王騎君は走った。

 僕は必死にゴーレムの手を刺すがビクともしない。僕は慌てた。苦しそうな鴎ちゃんを見て、あることを思い出したのだ。

 ふと思い出されたのは僕の幼少期の記憶。好きだったあの子はこう言った。

「ミツル君ならなれるよ。誰かの英雄に」

 その子は病気だった。様々な治療を施し、手術もした。僕は必死で勉強した。治す方法を考えた。だが医者でもない幼い僕に出来ることなどない。

 あの子が亡くなる前日、苦しそうに目を瞑るあの子の手を握った。

 あの子が亡くなったあの日どうしようもない感覚に襲われた。喪失感から何もする気が起きなかった。

 せめて、僕はあの子の言う通り、誰かの英雄になりたくてがむしゃらに努力を続けた。そしてシークルースクールに入ったのだ。

 あの子は救えなかった。どうしようもなかった。でも今は違う。これは違う。この事象には手が届く!

 その時ふと光る線が見えた気がした。気のせいではなかった。

「そこだぁぁぁ!」

 ここに刺せば良いという線に見えた僕は思い切り刺した。

 手首のような場所に僅かな穴があった。突き刺すとゴーレムが苦しそうにもがき鴎ちゃんを離した。僕は鴎ちゃんを抱えて距離を置く。

「穴だ! 穴がある!」

「なるほど、ここか!」

 王騎君も穴をみつけ突き刺した。ゴーレムは苦しみ瞳ちゃんを手から離した。瞳ちゃんを王騎君が抱える。

「ハァハァ……、大丈夫? カモメちゃん?」

 ゲホゲホと咳き込む鴎ちゃんは、僕に言った。

「大丈夫。大丈夫だから……、そんな顔しないで」

 僕はよっぽど泣きそうな顔をしていたのかもしれない。瞳ちゃんが言った。

「一旦逃げた方がいいかもしれない」

「……そうかもしれない」

 王騎君は言いながらも悩んでいた。敗走すべきではあるが、何も掴めないまま逃げるのは結果に繋がらない。

 王騎君は無鉄砲なところはあるが、仲間の命を無下に扱わない。例え自分が死ぬことになってもそれは仕方ないと思うかもしれないが、仲間が危ういなら話は別だ。

 だがこのまま逃げるのは僕も納得がいかなかった。だから言った。

「もう少し頑張ってみない?」

 僕の意見に、鴎ちゃんが賛同した。

「ここで逃げたら何も分からないわ。私は大丈夫。ヒトミは……」

 瞳ちゃんは、首を縦に振り言った。

「皆が逃げないなら私も逃げない」

 王騎君は、拳を握りしめ天に掲げ言った。

「よし! とにかく粘るぞ! 弱点は恐らくあの頭だ。何とか方法を探ろう」

 王騎君は瞳ちゃんに頭を狙って投げるよう指示する。ゴーレムの攻撃を凌ぎながら何度か瞳ちゃんの投擲を繰り返したが、どうやら距離と相手の硬さがあり貫けない。

「せめて近くから思いっきり刺せたら……」

 瞳ちゃんがそう言った時、僕の頭にアイデアが浮かんだ。だが、

「これなら、いや……、うーん。駄目かも……。危険すぎる」

「なんだ? ミツル! なにか思いついたならとりあえず言ってみろ!」

 僕は思いついたアイデアを皆に話した。それを聞いた王騎君は、やってみようと言った。

「俺がメインで行く。これで駄目なら退却しよう」

 僕らは頷いて実行に移す。

 ゴーレムの周りを回りながら近づいていく僕ら。ゴーレムは僕らを目で追っているのかぐるぐる回る。攻撃されないように立ち回りながら近くまで来た僕ら。

 僕と鴎ちゃんと瞳ちゃんが手を合わせ下げる。そこへ飛び乗った王騎君をチアリーディングのトップを飛ばすように飛ばした。

 宙を飛ぶ王騎君はゴーレムの頭に思いっきりハープーンを突き刺した。ゴーレムの頭を貫通したハープーンは奥底に刺さる。ゴーレムは振動し崩れていった。

 着地した王騎君はガッツポーズをとった。僕らも雄叫びをあげた。

「やった! やったね!」

 僕は王騎君の手を掴んだ。握り返された手にギュッと力を入れた。鴎ちゃんとも、抱きついて喜んだ。鴎ちゃんは僕の頬にキスをした。

「さっきは助けてくれてありがとう」

 僕は顔が真っ赤になっていたと思う。鴎ちゃんも頬を朱色に染めていた。

 それにしても先程の光る線は何だったのだろう。僕にしか見えてなかったのかもしれない。僕の中で何かが覚醒したような感覚を覚えたんだ。

 僕は手のひらを開いたり握ったりした。その様子に鴎ちゃんが不安そうに尋ねる。

「どこか痛めた?」

 僕は首を横に振り、大丈夫と答えた。ゴーレムは崩れた後、小さな赤色の石になった。それを拾った王騎君は、僕らに帰ろうと言った。

 僕らは帰り道、真っ直ぐ戻っていく。まだ発掘していた人達が、僕ら全員の帰還と王騎君の持つ赤色の石に注目し歓声を浴びせた。僕らはこの四階層をクリアしたんだ!

 白の鍵で三階層に戻ると先生が待っていた。

「お疲れ様です。やったようですね」

 全員揃っているのと、王騎君の持つ赤色の石を見て拍手する先生。

「ここまで進める生徒はほんのひと握りです。岩の化け物の相手は大変だったでしょう?」

「少しやばかったな。そういえば、カモメ、ヒトミ、本当に大丈夫か?」

 鴎ちゃんと瞳ちゃんは少し顔色が悪かった。すぐさま先生が腕と足を診る。鴎ちゃんと瞳ちゃんは顔をしかめた。

「折れてはいないかもですが、ヒビが入っているかもしれません」

 王騎君が瞳ちゃんを背負い、僕が鴎ちゃんを背負って海底ダンジョンを脱出した。

 医務室へ行き診断を受けた二人は、やはり手足などの骨にヒビが入っていたらしく、安静にするように言われた。処置を施された二人は、先生に連れられ宿舎の部屋に戻る。

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