36話「その運命を」

「トリジアさんも転生していたんだとしたら、何故人魚なのか、それがわからないね」

「或いは天のイタズラなのかもしれん」

 とにかく、と僕は言う。トリジアさんは魂の大きさがまだ足りないのだと言う。そして、それならば、前世すらも乗り越えなければならないのだろう。

 そんな中、瞳ちゃんが震えている。やはり不安なのだろう。

「大丈夫だ、ヒトミ。俺はお前を必ず幸せにする」

「でも、トリジアさんはオウキ君にとっても大切な人だったんでしょ?」

 瞳ちゃんは恐る恐ると言った風に尋ねる。

「それは違うぞ」

「どうして? それは違うなんて無責任な言い方だと思うわ」

 王騎君の答えに鴎ちゃんが怒る。だが、王騎君は首を横に振った。

「ルゥ・ピストにとって、トリジア・カートは大切な人間だった、だ。俺は過去に生きる人間ではない。もう俺はオウキとしての人生を歩み、ヒトミに出会った。だからこそ、ヒトミを幸せにしたいと思うんだ」

 それを聞いた瞳ちゃんは王騎君に抱きついた。瞳ちゃんの頭を撫でてやる王騎君は更にこう言った。

「俺一人の魂の大きさでは足りないだろう。お前らの力も貸してくれ」

 魂の力を強める。様々な徳を得るという事だろうか。僕達は、色んな人と関わってきた。

「実は魂が大きくなる実例が昔あるんです」

 可能先生が口を開く。月詠さんも頷いた。

「このシースルースクールの近くの海域の海底で採れる藻を食べる事ね?」

 その特殊な藻は海底ダンジョンのエネルギーを多く吸っていて、かなりの栄養源になるらしい。そもそも魂を大きくしようとする者がほぼいなかったため表に出なかった話である。

「その研究者の話では、全く狙われなかった研究者が、その藻を食べまくったら、一番狙われるようになったというらしいです。海底に近いからこそ強いエネルギーになるのかもしれません」

 僕らは早速その藻を食べまくった。

 一ヶ月後、僕らは鍛えるのも怠らずに、五階層別場所の研究町を訪れていた。研究町に入る扉の前で可能先生と別れ、月詠さんと共に雷亜所長と面会していた。

「だいぶ鍛えてきたわね。海上へ戻ると大抵弛むのよね。でもあなたたちは違うわ。きっちり準備してきたようね」

 再び十一階層に行く準備はできた。問題はいつ行くかだ。

「今はやめておいた方がいいわ。藻の方はこちらでも取り寄せるから、いつでも行けるようにしながら、時を待ちなさい」

 そうして更に一ヶ月が経った。月詠さんが調査から戻ってくる。

「ただいま。頃合いのようよ」

 十一階層まで行くのに一番厄介なのが、十階層の黒毛のケルベロス。それが大人しい時期が来たようだ。僕らは月詠さん、雷亜所長と共に虎太郎を連れて六階層へと向かう。そして、運良くトラップにかかれないかと思案してると、床が降りていく。迷いなく飛び降りた虎太郎に続き、僕らは十階層まで一気に降りる。そして、黒毛のケルベロスと雷亜さんが戦い、先へ進む。何とか退けた雷亜さんと共に壁を回し十一階層に降りる。扉を開いた後、息のできる海への入口へと向かい潜る。

「緊張してる?」

 僕は顔が怖い王騎君に語りかける。

「すまん。やっぱりわかるか」

「大丈夫、ウチ、覚悟決めたよ」

 瞳ちゃんが胸の辺りで拳を握りしめる。鴎ちゃんが瞳ちゃんの肩を抱き寄せ言う。

「私達がついてる」

 しばらくして、犬かきで潜っている虎太郎が吠える。だが警戒するような吠え方ではない。

「きたわね、ルゥ」

 人魚となったトリジアさんが現れる。だがその顔は穏やかなものだった。

「力を蓄えたようね。いいわ、案内してあげる」

 そうして、トリジアさんについていく。

 そこは明らかに壁だった。そして、トリジアさんは天井を指さして言った。

「ここから入れるの」

 その天井はなんとすり抜けられた。雷亜さんは驚く。

「ホログラムだったのね!」

 トリジアさんの進むのを追いかけ僕らは上から前に進み下に下がる。潜っているのに水圧を感じない。不思議な世界だ。不思議な水と言うべきか。大きなトンネルのような水路を潜り抜けていき、下へ下へ下がっていく。やがて、水路を抜けて下の階へとたどり着く。レーダーは、「?」を記していた。誰もたどり着いたことのない場所なのだ。

「ここから先は二箇所に別れるの。私は陸に上がれないから海の奥でいるわ」

 海は続く。だが、陸に上がる場所があった。海から上がると水は滴らない。全くもって、不思議な海水である。浮力のある空気のようなものだ。潜るにはそれなりの筋力がいる。

海の中から顔を出したトリジアさんとは、手を振って別れた。前に進む僕らは扉見つけた。鍵はついてなかった。扉は手を触れると開かれた。

「行くぞ!」

 王騎君の号令で、前に進む僕ら。

 全員が部屋に入ると扉は勝手に閉じていく。

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