37話「海神ネプチューン」

 ガラス張りの壁で出来た海の中を見れる部屋。その中央の台座に乗った宝珠を見つける。宝珠は、ここで王騎君を待っていたと言った。

 宝珠は喋る。

「ここまで来たあなたに選択肢をやろう。子供を作るための能力を得て、トリジア・カートを泡と化させるか。不老不死の巨大な人魚姫であるトリジア・カートを人間に変え、子供を作れず死んだ後再び子供のできない体に転生をするか、どちらかの選択をしろ」

 それを聞いた王騎君は歯を食いしばり、手を握りしめ迷っていた。

 それに対し僕は割り込み、トリジアさんを人間にし、子供を産む能力も得る選択肢を取ると、宣言する。

 僕の目から流れる血を吸った宝珠は、それならばこれからここに遣わす、海神ネプチューンを倒すように言う。

 部屋が息のできる水に沈み、海の戦いとなる。僕らは海底のような場所に立っていた。水の抵抗は、まるで空気のように少ない。

 そうして下半身が鱗と尾ひれの巨大な男神が現れた。そのネプチューンは、三叉の槍をもっている。恐らく海神ネプチューンも海底ダンジョンのエネルギーを得て不死身。だが勝算はあった。

 虎太郎。虎太郎ならば海底ダンジョンの相手も倒せる。

 僕達は戦いを挑む。二手に別れた僕らはハープーンを飛ばす。海神は避けもせず突っ込んでくる。流石にハープーンが効かないのか、隙がないように見えたが、瞳ちゃんが海神の目を正確に狙った。それを躱した海神の隙をついて虎太郎に噛みつかせる。だが、海神は体を切り離し再生する。

 僕らは不利だったが、僕らには切り札があった。目から血を流し続け、機会を伺う。

 海神は尚も突進してくる。僕らは躱しながら溜めて放ったハープーンで頭を狙う。なかなか当たらないが鴎ちゃんのハープーンが偶然海神の口に当たった。

 怒りのままに鴎ちゃんを狙う海神に、僕は鴎ちゃんを庇う。

「大丈夫か?! ミツル! カモメ!」

 王騎君が慌てる。

「くそ! これなら、俺が子供を授かるようになんてならなくても……!」

「馬鹿野郎!!!」

 僕は怒鳴った。

「諦めるのかよ!!! 未来を! 弱気になるなら君だけ逃げろ! 僕は戦う!」

 僕は構え直し、海神と向き合う。

 王騎君はハープーンをギュッと握りしめ、キッと海神を睨みつけた。

「すまん……。俺も戦う! 負ける訳には行かない!」

 すると人魚姫のトリジアさんが僕らの傍に来た。

「ルゥ……、私も戦うわ」

「いいのか? トリジア」

 月詠さんが、王騎君に赤いハープーンを渡す。

「あなたが使って、オウキ君」

「わかった」

 王騎君と僕はトリジアさんの背に乗り、海神と向き合う。泳ぐトリジアさんは速かった。王騎君と僕は普通のハープーンを使い戦う。海神の隙を生み出すように、その隙を見逃さないように。

 一度距離を置いたトリジアさん。鴎ちゃんと瞳ちゃんも必死にハープーンを投げる。

 鴎ちゃんと瞳ちゃんの方に気を取られた海神は虎太郎に再び噛みつかれ苦しむ。

 そして、王騎君がトリジアさんに合図を送った。

「突っ込んでくれ!」

 一気に距離を詰めたトリジアさんの背から海神に向かって僕はハープーンを投げた。こちらへ振り向いた海神に、王騎くんは赤いハープーンを投げた。

 投げたその赤いハープーンは、海神の頭に刺さった。

 海神が悲鳴をあげて崩れていく。

 赤いハープーンは虎太郎の血で出来たハープーンだった。

海神を見事倒した僕達。床が上がり元の部屋へと戻り、水が抜ける。宝珠は言った。

「願いを叶えよう」

 僕らは願いを叶えてもらう。光り輝く中で願いが叶っていた。不思議な力が働いた。これがシークルースクールという場所の本当の力か。

 瞳ちゃんは喜んだ。これで王騎君は子供を作れる。トリジアさんは人間になった。

 全員で脱出し、めでたしめでたし。

 海上まで帰ってきた時、王騎君は瞳ちゃんを選ぶかトリジアさんを選ぶかで悩まされる。だが、瞳ちゃんを選んだ。過去は過去、トリジアさんには別の道を歩んで欲しいと。

 トリジアさんも納得した。

 そして王騎君は瞳ちゃんと結婚する。結婚披露宴が開かれることになった。再びシークルースクールへやってきた瞳ちゃんの両親と、王騎君の両親は大層喜んだ。

 王騎君と瞳ちゃんの結婚披露宴も盛り上がり、幕を閉じた。

 全部の片付けが済んだ時、僕らの元にトリジアさんが来た。

「私もこんな風にルゥと結ばれたかった……」

「トリジア……」

「ふふふ、気にしないで。ヒトミちゃんを幸せにしてあげて、オウキ君」

 トリジアさんは初めて王騎君を、ルゥ・ピストではなく、王騎君と呼んだ。

「私も新しい人生を送るわ。その前に……」

 トリジアさんはある事を語る。

「私は覚えてるの、作られた人魚姫だったことを」

「なんだと?」

 王騎君は身を乗り出し尋ねる。

「ルゥ、いえオウキ君。私の魂は、あの昔の前世できえてなくなるはずだった。その私の魂は確かにあの人魚姫の体に入れられた。そして生まれ変わったの。その時女の人の声を聞いた気がするわ」

 宝珠の声は確かに女性のような声だった。

「ここで終わりではないのかもしれない」

 トリジアさんはそう言った。王騎君は額に手を添え考える。そして言った。

「もう一度あの部屋へ行く必要があるな」

「今すぐ行くの?」

 トリジアさんは尋ねる。僕は王騎君を見た。王騎君は首を横に振り、瞳ちゃんを見た。

「せっかく子供が作れるようになったんだ。危険は子供を作ってからで良くないか?」

 笑う王騎君に瞳ちゃんは顔を真っ赤にしていた。何故か鴎ちゃんも顔が真っ赤だ。

「おいおい、ミツル。なんでお前は他人事のような顔をしてるんだ?」

 王騎君にそう言われハッとした。そ、そうか! 僕と鴎ちゃんの初夜が始まるのか!

 僕らは現在海上では旅館に泊まることにしている。その旅館ではそういうこともしていいことになっている。

 さて、ここから先の話を聞きたい人もいるだろうが、僕は多くは語らないでおこう。そういうことにしておいてくれ!! 恥ずかしいんだ!!!

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