終わりの章3章

38話「子宝」

 そして、僕と鴎ちゃんに子供が出来た。

 王騎君と瞳ちゃんにも子供が出来た。

 お腹に子供がいるのに冒険には連れて行けない。

 鴎ちゃんと瞳ちゃんを海上に置いて、僕と王騎君、月詠さんと雷亜所長の六階層以降の冒険が続く。

 鴎ちゃんと瞳ちゃんは可能先生に任せた。

 二人が子供を産むまで、無理は出来ないので力が落ちないか心配していたが、しっかり食事をとれば、多少ブランクがあっても大丈夫だと言われた。

 そして子供が生まれる。

 僕と鴎ちゃんの子は男の子。

 王騎君と瞳ちゃんの子は女の子。

 僕と王騎君は産まれる時そばにいてあげられなかったが、帰ってきてからめいいっぱい可愛がった。

 そして、当分は五階層までで鍛錬し、子供を育てることになった。

 子供が五歳になった頃、僕らは子供に僕らの仕事の事を話した。

 最初は離れるのが嫌だとぐずったが、説得を続け、必ず帰ると約束し、僕らは再び六階層以降へと潜る。



 七歳の六道天(ろくどうそら)は、キツいトレーニングにも根をあげずに頑張っていた。

 才があり、シークルースクールでの食生活がとても体の細胞によかったため、すくすく育つ。

 それは海鳴桜華(うみなりおうか)も同じだった。

 彼と彼女は同い年。両親は海底ダンジョンに潜ってなかなか帰ってこない。

 彼らが根をあげない理由が、両親と共に冒険したいという強い欲求だった。

 そして、両親が帰ってきた時、めいいっぱい甘えて、冒険の話を聞くのが楽しみなのだ。

 スカルをものともせず、二階層で修行する彼らは、とうとう三階層にまで行く。勿論可能先生の保護付きだ。スクール長も見守るように言っていた。

 そして大蛇のところまできて、桜華が危機察知能力を発揮する。

 天が防ぎ、桜華が投擲し倒した。

「余裕だね!」

 調子に乗る二人に四階層に行ってみるか聞く可能先生。

 ゴーレムで、天が捕まり、桜華も捕まり、どうにもならない死を覚悟した二人は、可能先生に助けられ反省する。

「まだまだ、子供ですね」

 可能先生は笑った。

 両親が帰ってきていると聞き、すぐ様会いに行く二人。

 満達の話を聞く。



  十二階層。その台座にある宝珠に触れると、先へ進むか聞かれた。頷いた僕らは、動く台座から現れた階段に目をやる。僕と王騎君と鴎ちゃんと瞳ちゃんはトリジアさんに十二階層から先もあるであろう事を聞いてから、更なる冒険心が湧き上がっていたのだ。

 十三階層、それは前人未到の地だった。雷亜さんは月詠さんに僕ら五人を託した。

 六人と虎太郎の一匹は、十三階層を進む。

 やがて、一匹のドラゴンに出会った。

 僕は寝ているドラゴンを起こさないように通れないかヒソヒソと話す。

「その必要はない」

 それはドラゴンから発せられた言葉だった。僕らはハープーンを構え、臨戦態勢をとる。

 ドラゴンは起き上がり、僕らに背を向け再び地に体をつけた。

「乗れ」

 僕は警戒したが、いの一番に月詠さんが乗った。王騎君も続く。

「お前ら、行くぞ!」

 僕らが全員乗ったのを確認したドラゴンは羽を広げ飛んだ。

 広いとはいえ壁や天井にぶつからないか心配だったが、ドラゴンは上手く飛んでいる。

 やがて地面が穴になり、カーブなどを曲がりながらドラゴンは飛んでいく。

「我はこの先への案内人」

 ドラゴンは話す。

「お前やここの生物は古代人に作られたのか?」

 ドラゴンは首を横に振る。

「それは少々誤解がある。お主たちの言う古代人とは、遥か未来から来た未来人なのだ」

 未来人が全ての技術を持ってタイムスリップした。それが始まりだという。

 そのうちの一人の未来人は自分を転生できるようにした。ただ子供が作れない体になることを知らなかったという話だった。

「なるほど、それが俺か。だが、トリジアは?」

「恐らくだが、深く交わることで、魂が混ざってしまったのかもしれない。何にせよ、お前がここに招かれているのはそのせいだ」

 王騎君はさらなる疑問をぶつける。

「俺には一つ前の記憶しかないぞ」

「転生では一つ前の記憶しか引き継げなかったのだろう。恐らくだが、前の時代ではその一つ前の記憶があるはずだ。そして、すぐに転生するわけではないのだろう」

 王騎君は納得いったようだった。

「あとの未来人はどうなったんですか?」

「更にもう一人は不老不死の薬を飲んで、今も最深部で研究を続けているはずだ」

 到着したのか、降り立つドラゴン。

「我の知っているのはここまでだ。あとは自分の目で確かめよ」

 そう言うと飛び去るドラゴン。

「あ、おい! 帰りはどうするんだ!」

 王騎君の叫び。

「行けばわかる」

 そう答えるドラゴン。進むと扉がある。

 鍵穴があり、どの鍵を入れても開かなかった。扉を探ると古代文字がある。

「その魂が死んでいないならば、ここに手を当てなさい。そう書いてあるよ」

 瞳ちゃんが言う。

 王騎君がその場所に手を当ててみる。ガチャ、と音がして鍵が開いた。扉を開く。

 そこはそこそこ狭い部屋で、台があり、宝箱が置いてあるだけだった。

 王騎君が中を開けてみる。そこには丸いボールのようなものと、手紙と、虹色の鍵と灰色の鍵があった。

 手紙には古代文字が書いてある。

「未来の記録装置。ボタンを押せば、未来で何があったかがわかるであろう。鍵は二つ。一番底に降りる虹色の鍵と、一番上に帰る灰色の鍵。まずは帰りなさい、親愛なる友よ。そして、全てを知った後、私の元へおいで。その時一階層から虹の鍵を使うといいだろう」

 瞳ちゃんが読み上げる。

 そして、僕らは内側から灰色の鍵を回す。すると音がして長い間待たされる。音が止み扉を開けるとそこは一階層だった。一階層に帰って海上に戻ってきたのだ。

 これは大きな成果だった。

 そして、すぐさま審議会が開かれる。その中で映像記録を皆は見た。

 それは戦争の歴史。今の時代では核兵器が恐れられている。だがもっと時代が進むと、ドンドン科学技術があがり、今では考えられないような兵器が生まれていく。兵器は抑止力を超え、度々戦争を起こした。多くの国が、少数の戦争派国の説得に失敗し、国境を超えた死者が出続けた。

 そんな中、多数派の非戦争派達が、一つの言語を作り、それを技術に組み込んだ。それが僕らの言う古代文字。未来でできた言葉だった。

 強力な兵器を生み出し、侵略を止めないある国に手を焼いた未来人は、多くの研究の後、タイムスリップする方法を作り出す。そして、その技術が悪用されないようにするために、タイムスリップした三人の天才はシークルースクールの元となる海底ダンジョンを作り出した。

 AIロボットや、未来の知的生命などによって作られた海底ダンジョンは静かに眠る。

やがて、三人の天才も意見が分かれた。ここへ到達する者を待つか、繋げていくかで。

一人は不老不死の薬で待ち、一人は魂の転生で繋げる試みをした。そしてもう一人は地上に行き子供を残したという。

 だが三人の考えは一つ。全ては戦争を、兵器を、極力生まない未来に変えていくためだ。

 最後に付け足されたのか、一人の女性が映った。顔は見えない。

「人はいつだって、全てを一つにするために争ってきた。自分の考えが正しいと。それはきっと正しいが、決して侵略していい理由にはならない。人々を侵してはならない。そして、どんな科学技術も、人を殺す道具になりうる。それは決して変えられない未来。だから、戦争と兵器はなくならない。あなたは、これをどう変える?」

 映像の彼女は笑っていた。これはきっと王騎君へのメッセージではなく、全ての人へのメッセージなんだろうと思った。

 このメッセージに、王騎君は悩んだ。

「俺にはどうすればいいかわからん」

 それならばと、僕は言った。

「会ってみようよ」

 月詠さんが雷亜所長に連絡し、源三会長、雷亜所長、家靖スクール長、可能先生、月詠さん、トリジアさん、僕、王騎君、鴎ちゃん、瞳ちゃん、天と桜華ちゃん。

 これだけのメンバーが集まった。

 そして一階層から虹の鍵で下に降りていく。

 皆緊張していたが、天と桜華ちゃんが、和ませてくれた。

「誰も行ったことのない場所に行くなんて凄い!」

「どんな人がいるんだろう!」

 二人ははしゃいでいる。

 やがて長い降下の後、音が止んだ。

 王騎君が虹の鍵で扉を開く。

 そこは本棚の沢山ある部屋だった。中央に長テーブルがあり、椅子が沢山ある。

 天と桜華ちゃんが走りその椅子に座った。

 僕らは隣を囲むように座る。スクール長や所長らも習って座る。

 やがて、奥から一人の女性が現れた。

 端整な顔立ち。だが生気を感じられない。まるで死者と対面しているようだった。

「ごめんなさいね。私も長く生きてきたせいで、人と会うのは久しぶりなの」

 僕らの感情はどうやら顔に出ていたらしい。その人は一番奥の椅子に座り笑った。

 人間味のある笑顔のようで、どこか儚い。

「記録装置を見たわ」

 雷亜所長が言った。

「ワシらには永遠に答えの出ん問いに聞こえたぞい」

 源三会長が笑う。

「どうやったら戦争がなくせるか、減らせるか。それは人類の課題ですよね」

 可能先生は難しい顔で言う。

「そもそも兵器をなくせない、それはわかるわ。悪用されない技術なんてないもの」

 月詠さんは淡々と言う。

「あなたには答えがあるのでしょうか?」

 スクール長が、その人に聞いた。

「まぁ待てよ」

 王騎君が話を遮る。

「まずは名を聞こうぜ」

 すると彼女は笑った。

「私の事はアダムとイヴから取って、イヴとお呼びください。そしてあなたのことはアダムと呼びましょう」

 アダムと呼ばれた王騎君は、頭をポリポリかいた。

「転生の輪を切りましたね」

 桜華ちゃんを見て、彼女はそう言った。

 瞳ちゃんが鋭い目付きで、イヴさんに問う。

「あなたはオウキ君に何をさせたいの?」

 すると、イヴさんは首を横に振った。

「ただ幸せに生きて欲しかった。それだけです。それでも、いつか終わりが来る。選択するのはいつだってあなた達なんです。そして、そうやって今まで選択してきたはずですよ」

 そう言った後、指をパチンと鳴らした。ロボット達が食事を運んでくる。

 その食事を真っ先に摂ったのは天と桜華ちゃんだった。

「大丈夫ですよ、食事をしながら話しましょう」

 僕らは運ばれてきた食事を食べる。

「私には答えがあるのかと問いましたね? それに答えましょう。実は私の中に、ずっと昔から一つだけですが、明確な答えがあります」

 皆は驚いて箸を止めた。天と桜華ちゃんだけ美味しそうにご飯を食べる。

「それは何ですか?」

 鴎ちゃんが聞いた。瞳ちゃんは訝しげな目でイブさんを見ている。

「簡単です。過ちの王を殺し続けるのです」

 瞳ちゃんが目を細めた。何かを知っているのか。

「あの小説ですね」

 あ! と僕は声を上げた。昔、先生がプレゼントした古代文字で書かれた本。

「つまりどういうことだ?」

 王騎君が尋ねる。

「もし、戦争を止めたいならば、戦争をしている王を殺せばいいのです」

 はぁ、と王騎君はため息をついた。

「くだらない。そんなことが出来るならやってるやつはいくらでもいるだろ」

「ですが技術が進歩すれば可能なのです。そして、それらを実行するのは、常に王の国の民でなければなりません」

 過ちに気づいて王を殺す。それが答えだという。

「技術は常に進歩します。よって兵器も常に進化するのです。持つ人が誤るならば……、そして持つ人を過ちの道へと誘う人がいるならば、それを殺さねばならぬのですよ」

「それはちょっと……、非人道的すぎませんか?」

 僕が口を挟んだ。それに対してイヴさんは笑った。

「昔、アダムもそう言いましたよ」

 王騎君はそれに反応し、ふむ、と考え込んだ。

「私は多数を助けるためなら、少数を殺すべきだと言ったんです。ですが、反対されました。そんなことのためにタイムスリップしたわけではないと。そして、そんなことのために生き長らえる意味はないと。そして、彼は言ったんです。答えを探しに生まれ変わると。それがアダム、あなたです」

 王騎君は少し思案した後、言った。

「俺にはそんな頃の記憶が無い。だが、答えはある。殺さなくても、情報戦で乗っ取り、王を引き摺り下ろせばいいだけだろう?」

「そうですね。そういった歴史もあります。ですがいつになっても出てくるのです……、暴君というものは。そして、それを信じ戦う民も」

 だから王を殺さねばならない。そして、平和を望む心を民に持たせる者が王になるまで、過ちの王を殺し続ける。

「あなたのは極論だわ!」

 鴎ちゃんが叫ぶ。そして、瞳ちゃんがゆっくり喋った。

「あなたは……、どうしてそんなことが言えるの?」

 それはとても悲しい声色だった。

「何か知っているのか? ヒトミ」

 瞳ちゃんは涙を流していた。

「あなたの子は過ちの王だったんでしょう? そして、あなたもアダムもその子を殺せなかった。だから、多くの犠牲が生まれたんでしょう?」

 イヴさんはコクリと頷き、言う。

「あの時私は私の子を殺すべきだった。でも出来なかった。だからこそ、この先の未来では、過ちの王は殺すべきだと思っているの」

 鴎ちゃんは首を横に振る。

「そんなことない! 過ちは言葉で正せる! 姿勢で正せる! 愛で正せます!」

 僕は天の手を握り、言う。

「子供達に戦争の悲惨さを伝え続ける。それがきっと未来に繋がると、僕は信じてます」

「そうだな。それこそ、未来への情報だ」

 王騎君がニカッと笑う。

「では、あれは預けます。私はここでいつでも質問を受け付けましょう」

 僕はややあってもう一つ質問をした。

「もう一人の未来人は?」

 イヴさんは僕の方を見て言った。

「六道満君。あなたに関係します」

「え?!」

 僕は驚いた。イヴさんは笑って答える。

「六道紡(ろくどうつむぐ)。彼は地上に強い意志で子孫を作りに行ったはずです」

「それが満の先祖ってわけか」

 まさか僕まで関わっていたとは思わなかった。僕はイヴさんの優しげな笑顔に照れた。

 海底ダンジョンのエネルギーや、モンスターの構成など色々質問が出る。

 それに答えるイヴさんには少し生気が宿った気がする。

 虹の鍵でいつでも来ていいと言ってくれたイヴさんと別れ、一階層へと灰色の鍵で戻る。そして海上へと戻った。

 僕らは、このシークルースクールの最深部で、人類の永遠の課題について考えさせられた。

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