始まりの章1章
第1話「シークルースクール」
陸から沖に出て海のど真ん中に向かうとそこには不思議な建造物があった。そこは才能ある者のみを受け付ける、巨大な学校。
生徒となる人物は様々な教養と身体能力を備えた者のみ。そしてその中で生き残るのもまた困難で、そこに勤める者はみな達人ばかりだった。
「ここが、古代人が建てた海底からそびえ立つ学校、シークルースクールか」
僕はそんなセリフを吐きながら宙に浮かぶ甲板で説明を受けていた。今から入学するのは僕ともう一人、ラフな格好で辺りを見渡す男の子。
まるで俺は海の男だと言わんばかりの格好な彼に対し、僕は前の中学の学生服。
不潔に見えない程度の髪の長さまでという規定があったため、悩んだ末に少し切った髪の毛の僕は、彼の自由奔放な髪の長さにちょっと驚いたくらいだ。
前開きの服を着ていた彼を見ていた僕は、少し注意された。
「六道満(ろくどうみつる)君、ちゃんと聞いてますか?」
先生となる人にそう言われ、頭を下げて謝り説明に意識を注ぐ。今は案内されてる途中だ。集中しようと心に決めた。
彼、海鳴王騎(うみなりおうき)君のことはちょっと置いとこう。
シークルースクール。僕と彼はそう呼ばれる学校に入学した。とある沖合いにあるこの学校は、海底から建てられているらしい。
一体どれ程の規模なのか分からないくらい大きいらしい。建てたのは古代人のようで、オーパーツというか……、解明されてないものも沢山あるのだという。
その海域にはトビザメと呼ばれる、空飛ぶサメもいて来るのも大変だったが、着いてからも驚愕した。バリアのような物に包まれていたのだ。
海上のものを守るためのバリアがあるのだと言う。仕組みを作ったのは古代人だが、現代である程度コントロールはしてるらしい。
海上の作り自体は船のような作りだが、甲板はいくつも浮いており、どういう原理でそうなってるのかわからない。
それを解き明かすのが僕らの役目であり、先生達と協力して謎を究明するのが使命なのだ。学校ではあるが、研究機関でもある。それがシークルースクールだ。
色々な説明を受けて最終的な契約を結んだ僕達二人は正式に入学した。
「よろしくな、ミツル」
王騎君にそう言われ僕も応えた。
「こちらこそよろしくね、オウキ君」
すると彼はチッチッチッと、指を振った。
「俺のことはキャプテンと呼んでくれ!」
「キャプテン?」
自分はリーダーに立候補するという意味だろうか? と、僕は考えた。
「なんでキャプテン?」
僕は聞いた。二人しかいないのにキャプテンを名乗っても、意味ないんじゃないかと思ったからだ。勿論他の生徒は沢山いるはず。だが、色んな人がいる前で言うならともかく、ここには今僕と彼だけだ。
「理由はちゃんとある。この話を信じるかどうかはお前に任せるが、俺は海賊王なんだ」
なるほど、厨二病か。そう考えた。
「そう。海賊王ね」
「まぁ信じないよな」
彼はガッカリもせず話を続ける。
「俺には前世の記憶があるんだ。産まれた時からな。そして、前世では海賊として生きていた。いくつもの海賊達と戦い、殺し合いもし、和解もしあった。そうやって、束ねて行った末海賊王と呼ばれるようになったんだ」
「それ、本気で言ってる? 面白いと思って言ってる?」
僕は訝しげに尋ねた。正直信じられなかった。転生というものだろうか? いやいや、厨二病の延長線だろ? どうせ、と。
「まぁどう思おうがお前の勝手だからな。とにかくそういう経緯があって、キャプテンと呼んでほしいというのは伝えたぞ」
「わかったよ、オウキ君」
僕は敢えてキャプテンと呼ばなかった。僕の流儀もわかってくれたのか、彼もそれ以上は何も言わなかった。
その後各自の部屋などを先生に案内されて、最後に海上の動力室に連れて行かれた。
そこは正に船のエンジンと操縦室が合わさったような部屋で、中央に画面とタッチパネルがあった。
先生は、誰でも操作していいが問題を起こした場合停学か退学になる可能性もある、と言っていた。
パスワードを教えられ、あとは自由にして良いと先生は去っていった。
王騎君は余程この部屋が気に入ったのか、色々見て回っていた。僕自身、この動力はどうなってるかという興味があった。
「触ってみるか!」
「え?」
僕は触ろうとしている彼に一抹の不安を覚えた。もし何かやってしまったら……。いや、それは僕には関係ないのか? でも見て止めなかったとしたら……。
「や、やめた方がいいんじゃ……」
「お前は宝箱を前にしてその湧き出る好奇心を抑えられるのか?」
「っ!!」
そうして、二人してタッチパネルの前に立つ。
「俺が触る。お前は何かあったら誰かを呼んでいける心づもりをしていてくれ」
「わかったよ」
王騎君はタッチパネルに触れた。その瞬間だった。大きな音が起きて何かが崩れる音がした。
『警告!! 外部障壁消失!! 生徒及び教師含む乗組員はトビザメ等の侵入に対応してください!!』
僕は彼と顔を見合わせて、呆けた顔をした。「は?」と。
「何やってんだよ!! やばいんじゃないの?!」
「バカ言うな!! 俺は触れただけだぞ! それでこんな事になるならパスワードなんか教えないだろ!」
「とにかく、先生を呼んでくる!」
そう言った僕の手を掴んだ王騎君は、「待て!」と言った。
「なんだよ! 一刻を争うかもしれないだろ!」
「なら俺たちはここで、パスワードで対処すべきなんじゃないのか?」
「まだ何も教わってないのに?」
「お前の器が、その程度だと言うなら引き止めない」
そう。このシークルースクールには、優秀な人材しか入れない。この程度の危機に対応できないようなら逆にお払い箱かもしれないくらいなのだ。
「……、わかったよ。でもどうにもならなかったら……」
「その時はその時だ! 乗り込んだ船がどんな状態だろうと、海に出たら自分達で何とかするしかないんだよ」
「海賊だった設定は今いらないよ!」
彼は僕の台詞を無視して、再びタッチパネルに触れた。文字盤が現れて、パスワード入力画面が現れる。
「えっと、確かパスワードは……」
「ああ、もう! 僕が打つよ! 渡されたメモ持ってるから」
「おい、待て! 慌てるなよ」
とにかく代わって! と、僕はパスワードを打ち込んでいく。メモ用紙のままに打ったはずだった。
『エラー! パスワードが違います』
え? と、僕はキョトンとした。慌ててもう一度しっかり打つ。間違えてないはずだ。
『エラー! パスワードが違います』
な、なんで? おかしい。どうなってるのか、わからなかった。
「なるほどな。よし、俺に代われ」
そういうと彼は、僕が打ったのと少し違うパスワードを打った。当然エラーが出る。だが、彼の行動で僕も気づいた。
「ま、待って! もし、何回か間違えては行けない構造だったら!」
「その時はその時だ! ぶっちゃけると勝算はある。ここは古代人が基礎を作ってるはずだろ? なら、そういう設定はない可能性が高い。勿論絶対ではないが、それならこんなパスワード用紙を渡すはずないだろ」
僕らが考えた可能性。それは、1(いち)とI(あい)と小文字のL(える)が、0(ぜろ)とO(おー)とD(でぃー)が、一緒くたになってしまっている可能性だった。
パターンを少しずつ変えて打っていく彼に、僕は内心で完全ロックされたりしないかヒヤヒヤしていた。だがある程度のパターンを打ってもそうならないので、僕も一緒になって試した。
彼はそこまで考えられる人間ではなかったというか、文字列に慣れていないのかもあって、後半は僕があらゆるパターンを試してやっとのことでパスワード入力に成功した。
「や、やった!!」
「よし、まずは第一関門クリアだな」
僕は成功したパスワードを自分のメモ帳に控えて、先へ進んだ。まずは外部障壁の項目を探した。探そうとした。だが、今度は文字が分からない。古代文字のようだった。つまり、それを習ってない僕では読むことができない。
「多分パスワードが後付けで、こっちが本番だったんだな……」
僕は項垂れた。これではやはり……。
「駄目だよ、人を呼ぼう」
「いや、外部障壁だろう?」
うん? と、僕は聞き返した。
「これだな」
彼は勝手にポチポチ押し始めた。僕は慌てて彼を止めようとした。
「わー! 待て待て! もし間違えてもっと酷くなったら!」
『設定完了。外部障壁を生成します。生徒及び教師含む乗組員は安全確保をしてください』
僕は驚いた。彼は設定までを全てやってしまったのだ。
「古代文字読めるの?」
「読めないよ。だが、構造なら文字が読めなくても大体わかる」
勘でやったのか? ほんとにわからなかったが、出来たのは凄いことだと思った。
「とりあえず……、怒られるかな?」
そこへ先生がやってきた。
「君たちまだここにいたのか。休むのも大事だ。早く部屋に行きなさい」
「あ、あの……、外部障壁消失の件で怒られたりは?」
それを聞いた先生は首を傾げ、その後唐突に爆笑した。
「この動力室のタッチパネルは、教師のみ遠隔操作をできるように端末を保持している。君たちの他に今日来る予定だった二人が到着したから、遠隔操作で外部障壁を消失させたんだよ」
僕はズルズルと転げ崩れた。そういうことか。僕らのせいじゃなかったんだな。それはそうか。
「君たちがいいタイミングで外部障壁を設定してくれたから手間が省けただけだよ。まぁ練習にもなっただろう。さぁ、休みなさい」
僕は、はいと言って動力室を出た。王騎君はまだ何かしたげだったが、諦めて部屋に戻っていった。宿舎に案内され自分の部屋に着くと、部屋に運ばれる食事を摂りながら今後のことを考えていた。
明日から勉強が始まる。今日体験した古代文字も学ばなければ。
宿舎は数ある浮遊する甲板の上に立っている。部屋にはベッドと机がある一人部屋。贅沢なものだ。
ベッドに寝転び今日のことを反芻する。王騎君、凄かったな。
海賊王……、冗談にしても中々やる。もしかしたらそうかもしれないと思うくらいには出来ていた。
古代文字は読めないのに構造上で理解してやってのけた。凄いと思う。
あれやこれや考えてると眠くなる。その前に風呂に入ろう。男子浴場へ行くと色々な生徒がいた。そしてその中に王騎君を見かけた。色んな生徒に話しかけていたが、僕を見つけると僕のほうへ寄ってきた。
「よう、ミツル! お前も長風呂か?」
そんなに長い時間いたんだろうか?だが彼のスキンシップ力なら誰とでも仲良くなれそうだ。
「明日もよろしくな。俺はあがるよ」
明日もよろしく。そう言われたのには理由があるのはわかっていた。とにかく僕は体を洗い風呂に浸かって疲れを癒した。
部屋に戻ってもう一度横になった。スっと眠れる。
朝を迎えて、僕は配られた朝食を食べてから集合場所へ向かった。王騎君は既にそこに居る。何時から待ってたんだろう?
先生と話していた彼は、気配を感じたのか僕の方へ振り返り笑った。
「おはよう、ミツル!!」
「おはよう、オウキ君」
そして、先生が僕のところへきて、言った。
「六道君、よく眠れましたか?」
「はい。可能先生」
この可能正大(かのうまさひろ)先生が、僕らの担当の先生だそうだ。メガネをかけた、細身の先生は少し頼りなさそうだった。白のワイシャツに黒のスラックス姿で立っていた。
そこへ更に二人の女の子が現れた。
「おはようございます」
二人は揃って会釈した。
王騎君と僕の身長は、王騎君の方が少し高いくらい。僕が百七十センチ前後。
僕と同じくらいか少し低いかの女の子が、空色鴎(そらいろかもめ)ちゃんと言うらしい。
そして、一番身長の低い女の子が赤居瞳(あかいひとみ)ちゃんという名前。自己紹介は互いに済ませた。
鴎ちゃんは茶色い長い髪を振りまきながら白いシャツにトレンチコートを着ていた。
瞳ちゃんは紫の髪にローブを羽織っていた。女の子には冷えるらしい。
僕は相変わらずの学生服だったし、王騎君は何やら海賊の被るような帽子を被っていた。
そんな四人と一人の先生が揃ったところで、先生が手を叩いた。
「はい、自己紹介も済みましたね。では今日から君達四人の担当となる私とで、一つの班として学んでいってもらいます」
「わかりました。ところでなんで今日は、教室ではなくてここで待ち合わせだったんですか?」
「そうだ、何をするかまだ聞いてないぞ? 可能」
「先生と呼びなさい。海鳴君」
「そんなことは、ルールブックには書いてなかった。それはいいだろう? 可能。で、何をするんだ?」
先生は困った顔をしてメガネをクイと指であげた。
「やれやれ……、まぁいいです。君達には戦闘訓練を受けてもらいます」
戦闘訓練? と、僕は首を傾げた。
「ここでは日常的に、外敵との戦いがありますのでね」
僕はハッとした。昨日外部障壁消失をした時、トビザメ等に対応するように警告アラートが鳴っていた。そして恐らく今日会った二人の女子がここへ来た時に外部障壁は消失させていたんだ。ならば誰かが出入りする度に外部障壁は一旦落とさなければならないのだろう。
つまりその対処を練習するということか。
先生は各自にグローブとリュックを配った。それを着けた僕らは、光る銛のようなものを渡された。
「リュックにはこれを予備として装着します。これ自体はまるで輝く恒星のようにエネルギーに満ちているので、熱いのでグローブで持ってください」
「おい、可能! これはなんて名前の武器だ?」
「魔法のようにエネルギーに満ちたこの場所の地下から採掘したクリスタルからこの形に錬成している、クリスタルハープーンといいます」
「先生、少しいいですか?」
僕は単純に疑問をぶつけることにした。
「これは、先端が尖っていて棘のようになってますが、包丁のように切れるんですか?」
「いい質問ですね。基本的に尖ってる部分が一番殺傷力が高いと思ってください。他の部分は硬くとも切るには難しいです」
「あの……、人に向けたら危ないですよね?」
瞳ちゃんが、恐る恐る手を挙げた。
「当然です。そして人に危害を与えてしまったら、事故であっても責任は発生します」
「生徒による人間への命の危機に陥る暴力の禁止、ですね?」
鴎ちゃんが手を挙げ発言する。先生はコクリと頷き、他に質問はありませんか? と尋ねた。
僕らは頷きあい、先生に大丈夫の意志を伝えた。
「ではこれより訓練を開始します。少し待ってください」
先生はタブレットを取りだし、操作した。え? まさか?
突如警告音が鳴り響く。
『警告!! 外部障壁消失!! 生徒及び教師含む乗組員はトビザメ等の侵入に対応してください!!』
いきなり実践か! でも先生はある程度模範を見せてくれるようだった。
「皆さん構えてください。私が例を見せますので、落ち着いて対処しましょう」
障壁が消えて、あらゆる飛行魚達が飛び交う。特に凶暴なトビザメは人を襲ってくる。ここまで船で来る時も大変だった。
それよりも大変な事態になっている。トビザメの群れがあちこちに飛んでいた。ハープーンを沢山構えた先生は、一気に投げた。
一振で、あらゆる角度間隔の動くトビザメに、全て当ててしまった。凄すぎる! あんな芸当僕には無理だ。
「やるな! 可能!」
「ふふふ、ハープーンは沢山あります。皆さんの腕前を見せてもらいますね」
僕達もハープーンを手にし、近づいてくるトビザメを突き刺したり、投擲して刺し落としたりした。
特に瞳ちゃんの投擲は凄かった。必ずトビザメの目を狙って刺さっていた。
僕と鴎ちゃんは、どちらかというと近くに来てからの方がやりやすかった。
王騎君はドンドン前へ進み恐れることなく立ち向かっていく。
先生に渡されたのは鉤爪の付いたロープもだった。
それまではハシゴで、浮く甲板の間を渡っていたが、ロープの鉤爪を空中に浮く針のついた石のようなものに引っ掛け飛び越えることで移動が楽になった。
他の甲板ではちらほら他の生徒と先生が対応に当たっている。ロープ移動を覚えた僕らは順調なスタートを切った。
そうして訓練を終え、外部障壁を設定し直した先生は、後処理をした後拍手をしてくれた。
「皆さん素晴らしい出来です。私も担任として誇らしいですよ」
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