第2話「海底ダンジョン」

「なぁ、可能。訓練が合格だったのなら、是非案内して欲しい場所があるんだが」

 王騎君の台詞に、ふふふと笑った先生は、いいでしょうと言った。

 今までは広大な広さの円形の中にたくさんの甲板が浮いている、海上での出来事。

 ここは陸から遠い沖にある深い海底の底から塔のように存在する場所で、立っている場所は言わば一端なのだ。

 ここに来る者の多くは、海下にある所謂ダンジョンのような物の中にある神秘に惹かれてきている。

 僕らも海底ダンジョンの神秘の謎を解き明かすために学びに来ているのだ。

 とはいえ……。

「海底ダンジョンは時期が早くないですか? 僕らはまだ、何も……」

「違うだろう?」

 チッチッチッと、指を振る王騎君。

「遅いくらいだ。自分達で解かねば、ここにいる意味なんてない」

 もうワクワクという擬音が聞こえるよ、王騎君。

 どんどん下へと降りていく僕達は、暗くなって行くんじゃないかと思っていた。だがむしろ温かい光に変わっていき、その扉にたどり着いた。

「中へ案内します」

 先生がそう言い扉を開く。中へ入って行くと、そこは薄暗いが広いと分かる通路のような形になっていた。

「さて、では最初の段階に行く前に、説明をしておきます」

「そんなものはいい! 早く行こうぜ! 俺はもう俺の好奇心を止められない!」

 それを聞いた女子二人が笑った。

「オウキ君は怖くないの?」

 瞳ちゃんが言った。彼女達は怖いのだろうか? 僕は正直不安ではある。

「恐怖より好奇心が勝っている! さぁ何でも来い! という感じだな。それより、俺の事はキャプテンと呼んでくれ」

 それには鴎ちゃんが反応した。

「なんでキャプテン? リーダーになりたいってこと?」

「なんか恥ずかしい……」

 瞳ちゃんも、乗り気ではなかった。二人に海賊王だった前世の話をする王騎君だったが、当然笑って流された。

 むぅ、と悩んだ末諦めた王騎君は、とにかく前に進むことを望んだ。

「まぁ百聞は一見にしかずですね。皆さんグローブを付けてハープーンを構えて付いてきてください」

 そう言うと先生は歩き始めた。王騎君、僕、鴎ちゃん、瞳ちゃんの順について行く。

 ある程度奥に進んでも明るさは変わらない。どうなっているんだろう?

 この辺の謎も解きたい気持ちはあったが、それよりハープーンを構えてという言葉が緊張を促した。そして、それは唐突に襲ってきた。

「ヒトミ! 気をつけろ!」

 王騎君が叫んだ。そして、彼はハープーンを投げた。瞳ちゃんの横を飛んだハープーンは何かに刺さった。

「さぁ、どんどん来ますよ!」

 それは僕らのようにハープーンを構えた骸骨達だった。瞳ちゃんに襲いかかった骸骨の胸にハープーンが刺さっていたがまだ止まらない。

「弱点は頭です。頭を狙いなさい!」

「それを先に言え! 可能!」

「説明を聞こうとしなかったのはあなたですけどね」

 瞳ちゃんは冷静に頭を狙って突いた。骸骨は溶けるように消えていく。

 そして、目が慣れてくる頃には囲まれてることに気づいた。

「突破しますよ。ついてきてくださいね」

「ヒトミ! ハープーンを拾ってあげて」

 鴎ちゃんの指示で瞳ちゃんは王騎君が投げたハープーンを拾って戻る。

「最適解です、空色さん。予備があるとはいえ、無駄にすると苦しくなりますよ」

 瞳ちゃんから渡されたハープーンを受け取った王騎君は、縦横無尽に暴れ回り道を開く。

「行くぞお前ら! ついてこい!」

「その調子ですよ、海鳴君。いずれ私の案内なしで来なければなりませんからね」

 走り抜けつつ骸骨の相手をする僕ら。僕は尋ねた。

「こいつらは何なんですか?」

「名称で言うとスカルと呼んでいます。この海底ダンジョンで埋葬された人は、ここを守る守護者としてあのような姿になるのです」

 どうしてそうなるとか分からない点があったが、走りながらだったのでそれ以上聞くのはやめた。

 僕も襲い来るスカルを薙ぎ倒し、前へ進んでいく。女子二人も流石は選ばれただけあって怯まない。

 だが、妙な違和感があった。何かおかしい。どうしてそうなっているのかわからないが、理屈に合わないことが起きていた。僕が聞こうとしたところで、スカル達の攻撃が止まった。

「切り抜けましたね。私は手を出してないにも関わらず、よく頑張りました」

気づけば前には扉があった。先生はスっと腰に手を当てた。

「さて、と。ここから先は貴方達だけで、進んでください」

 僕はギュッと手を握りしめた。王騎君が僕の肩を叩く。

「もっと気を抜け。リラックスだ。思考がガチガチに固まるぞ」

そこに鴎ちゃんも言う。

「そうよ、大丈夫。私達ならできるわ」

「ウチも頑張るよ」

 瞳ちゃんも、自分の手をギュッと手を握っていた。

「では、この先に進む鍵を渡します。スペアは沢山あるので無くしても問題ありませんが、出入りに使うので出られなくなりますから無くさないように。誰に渡しますか?」

「沢山あるのに、一つしか持ってきてないのか?」

 王騎君が当然の疑問を投げかけた。

「正確には二つですね。私がここで待ってる間、あまりに遅いと開けて様子を見に行きますが」

 王騎君が、ふむと顎に手を当てて指名した。

「ならミツルが持て。俺は冒険に夢中になって無くしそうだ」

 僕は慌てて首を横に振った。そんな大役ごめんだ。

「カモメちゃんが適任じゃないかな? こういうの向いてそうだし」

「それを言ったら、ヒトミの方が向いてると思うわ」

「じゃあ……」

 ほっ、と胸を撫で下ろしたのも束の間、瞳ちゃんは言った。

「ミツル君で」

 僕はガクリと崩れた。

「そこはオウキ君に戻る流れじゃないの?」

 笑いが起き、結局僕が管理することになった。

「では六道君。扉を開けてください。中に入って鍵を閉めたら降下しますから」

 僕は扉を鍵で開けて四人中に入ったところで扉を閉め鍵を閉めた。するとガコンと音を立てて下へ降りていく音がする。しばらく鳴っていたが、音が聞こえなくなり王騎君が握りしめた手を掲げた。

「行くぞ!」

 王騎君の勢いのある言葉の後、僕が鍵を開けると外には沢山の人がいた。

「な、なんだ?」

 僕は驚いたが、鴎ちゃんが言った。

「まぁ私達だけではないよね」

「ウチはちょっと安心したかも」

 それは僕もそうだった。経験者もいるはずだ。

「やぁ君たち、見ない顔だね。つい最近来た人たちだね?」

先輩に見える人が話しかけてきた。その人も四人一組でいるようだ。

「あそこに皆並んでるだろ? あそこから流れる床で先へ進めるから乗るといいよ。乗り方は見てるとわかる」

 見てると、皆膝を曲げ腰で後ろに手を組み、丸太にでも乗るように流れていく。四人ずつ行っているようで、僕らの番は最後だった。

 皆同じポーズで流れていくので、僕らも真似てみる。何の意味があるのかはわからない。

 スケボーに乗るような感覚で行くと、たどり着いた場所の隣にドアがあった。先程の先輩が、鍵で扉を開こうとするところだった。

「ああ、君たち。一応聞くけど黄色のこの鍵を持ってるかい?」

 僕が持ってるのは青の鍵だった。

「ないなら一緒に降りてもいいけどどうする?」

 僕はついて行かない方がいいと思った。それは王騎君も同じだったようで彼が断った。

「懸命な判断だ。じゃあ幸運を祈るよ」

 気づけば前に人の気配が感じられない。どうやら先程集まっていた人達は、僕らより未知の段階へ進んでいた人達のようだ。

 つまり助言なし。ここからは僕らの力量が試される。

「グズグズしていても仕方ない。行くぞ」

「待ってオウキ君」

 僕は制止した。彼は進もうとしたが、僕が頑なに進まないので歩を止めた。

「どうした? ミツル。怖気付いたか?」

「そうじゃないんだ。ここから先に進む前に確認しておかないといけないことがある」

 勿体ぶるなと言いたげの彼に、僕は皆に疑問をぶつけた。

「スカル達に襲われた時おかしくなかった?」

「何がだ?」

「明らかにオウキ君が狙われていた」

 鴎ちゃんは、首を傾げた。

「それは前で暴れ回っていたからじゃない?」

「それならもっと、ヒトミちゃんが狙われていたはずなんだ」

「ウチも狙われてたよ」

 僕は首を横に振った。二桁程度の誤差でもおかしいのに、オウキ君が倒したスカルは三桁を超えていた。

「僕なら後続から倒していく」

 鴎ちゃんは、それでもそこまでおかしくないと言った。

「前にいっぱいいたんじゃない? それに、最初に襲われたのはヒトミよ」

 僕もそれは思っていた。だが、

「前に進むオウキ君に前からも後ろからも襲いかかっていた。明らかにおかしいよ」

 王騎君は、ふむと手を顎に当て、僕に言う。

「だからなんだって言うんだ? そんなもの俺には何ともない」

 でも僕らには関係のある事だと思ったのだ。

「ウチらが守る。それは大切だね」

 瞳ちゃんの発言に僕は頷いた。

「例えばさ、建物を壊す時支柱から壊すでしょ? 僕らにとって大切な柱はオウキ君なんだ」

「なるほど、それは言えてるわ」

 鴎ちゃんも同意した。僕は続ける。

「例えばこの中の誰が欠けても困るけど。もし、誰かが欠けた時、僕は狼狽えると思う」

 僕は直感で感じた感想を述べた。

「そうね、それは私もそう」

「ウチも……」

「でもオウキ君は、きっとすぐ立て直して残ったもののために全力を尽くす。それが出来るのと出来ないのとでは大きく違う。心の大きさを僕は実感してる」

「ふっ……、照れるぜ」

「だからそのオウキ君が崩れたら僕らはお終いだ。それが多分敵には分かってるんじゃないかな?」

「そういうことか」

 王騎君はやっと納得がいったようだった。

「僕らは出来る限りオウキ君を守ろう」

 鴎ちゃんと、瞳ちゃんは頷いた。

「だがそれは俺も同じだぞ。俺もお前らを失いたいわけじゃない。全員で生還するぞ!」

 王騎君は拳を挙げた。僕らもそれに倣って拳を挙げた。意思確認を終えた僕らは前進する。またスカルのような敵が現れるかもしれないのでハープーンを構えて進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る